
プロコーチの柳橋章徳氏
柳橋章徳(やぎはし あきのり)
1985年8月15日生まれ。PGA Official TCP-Aライセンス所有。
父親の影響で小学5年生からクラブを握る。2011年よりゴルフコーチとしてのキャリアをスタート、2021年より額賀辰徳プロのツアープロコーチとしての活動を開始。
USLPGAで活躍する女子プロのコーチも務めて復活優勝へ導き、アメリカへの帯同コーチも経験。
自身のYouTubeチャンネル「BREAKTHROUGHGOLF」では本気ゴルファーに向けた配信をしており、データ解析、クラブ力学や運動力学に則ったスウィング作りを得意とする。
カバーリング・ザ・ボールはシャローイングとの相性◎
カバーリング・ザ・ボールを直訳すると“ボールをカバーする”となるが、これでは何のことだかさっぱりわからない。さっそく柳橋コーチに聞いてみよう。

蟬川泰果(2023年日本オープン、撮影/姉崎正)
「この場合、カバーは“覆い被さる”といったニュアンス。ボールに対して上体が覆い被さるような格好でインパクトを迎えるスタイルのことをカバーリング・ザ・ボールといいます。プロのスウィング動画や写真を見ると、インパクト付近でボールに覆い被さるように、体が“く”の字に曲がるプレーヤーがいます。国内なら蟬川泰果、海外ではマシュー・フィッツパトリックといった選手ですが、こういった形のことです」(柳橋コーチ・以下同)
インパクト時のプレーヤーとボールの関係を示すフレーズでは“ビハインド・ザ・ボール”がポピュラー。見た目は明らかに違うが、スウィング面から見るとどんな違いがあるのだろう?

(左)ビハインド・ザ・ボールのスウィングをする松山英樹(2024年マスターズ、撮影/BlueSkyPhotos)(右)カバーリング・ザ・ボールのスウィングをする蟬川泰果(2024年ISPS、撮影/大澤進二)
「ビハインド・ザ・ボールは、ドライバーのスウィングを正面から見た場合に、ボールの右側に頭を残しながらインパクトするスタイル。クラブと体を引っ張り合う形にして得たエネルギーをボールに伝えます。
これに対してカバーリング・ザ・ボールはスウィングプレーンがフラットで、クラブヘッドの入射角が緩やかになります。なので、ビハインド・ザ・ボールはスタンダードで基本に忠実。カバーリング・ザ・ボールは身体での引っ張りが強く、右側屈が多目に入りシャフトが寝ながらダウンスイングに入るタイプと相性がいいという特徴もあります」
かつて、スウィングが縦振りと横振りに二分された時期があったが、縦振り傾向のスウィングプレーンにはビハインド・ザ・ボール、横振り傾向ならカバーリング・ザ・ボールとも言えそうだ。では、カバーリング・ザ・ボールのメリットは何なのか。
「体が伸び上がりづらいという点で、クラブのエネルギーがインパクトまで逃げにくくなるのがメリットのひとつです。カバーリング・ザ・ボールとシャローイングの相性がいいのは、切り返しで寝たクラブをひたすら引っ張り続けるスウィングだから。
クラブが後ろに倒れる動きの中で体がボールをカバーするような動きが入ると、伸び上がりが抑えられ、自分の力(体圧)をインパクトまで逃さないでおけます。
また、意図的な動きが入る余地がないのでクラブが勝手にプレーンに乗ってくる。さらに、打ったあともクラブが低く抜けていくのでボールを強く押せるんです。
ただし、一連の動きは、本来無意識下で行われるべきものです。

体圧を逃がさないままインパクトを迎えることができる
切り返し後の早いタイミングでクラブが寝てシャローイングが形成されたあと、バランスをとる意味でカバーリング・ザ・ボールがマッチするということ。インパクトに向けてクラブヘッドを緩やかに入れ、緩やかに振り抜かないとプレーンがバグってしまうのです」
どうやらシャローイング、フラットなスウィングプレーン、カバーリング・ザ・ボールの3つはセットで考えた方がわかりやすそうだ。聞いたことがない人からすると、昨今のシャローイングブームから派生したと思いがちだが、古くからあるもので、レジェンドのひとり、リー・ドレビノはこのタイプだという。
「ビハインド・ザ・ボールではフェースの開閉が大きく開閉速度も速いですが、カバーリング・ザ・ボールでは、クラブの進行方向に対して自分の体も揃って動く感じになるので、フェースの開閉が起きにくい。急激な開閉が起こりづらいのでタイミングが合いやすい、その点もメリットかと思います」
右プッシュが多い人、球が上がり過ぎて飛ばない人は試す価値あり!
いずれにしても、簡単にはできそうにないカバーリング・ザ・ボールだが、取り組むことによってアマチュアにも何らかの恩恵をもたらしてくれるのだろうか?
「カバーリング・ザ・ボールのイメージを取り入れて奏功することはあると思います。僕がすすめたいのは、体が伸び上がって右プッシュが出る人。また、打球が高く上がって飛ばない人にもカバーリングは好相性だと思います。少しボールを潰していくイメージで、インパクトロフトが立ちやすいのもカバーリング・ザ・ボールの特徴ですからね。総じてアイアンはダウンブローに入りやすくなりますよ。ドライバーは若干テンプラのリスクがありますが、最下点のとらえ方を改めれば問題ないでしょう。

最下点の位置に注意しよう
ドライバーの場合、ヘッドの最下点はボールの手前ですから、左脇の下にヘッドの最下点がくるように振ればいい。そこからカバーリングの要素が入ってくれば問題はありません。どちらかといえば、クラブがインから下りてくる動きに相性がいいです。
左寄りのボールに対して右肩が前に出た構えでカバーリング・ザ・ボールをやると最悪なので気を付けてくださいね。
カバーリング・ザ・ボールのプレーヤーにはドローヒッターもフェードヒッターもいますが、傾向的にはフェードが打ちやすくなります。左に振り抜きやすくなりますから。フィニッシュはほぼフェードを打つ時のそれと近しくなります」
最後にカバーリング・ザ・ボールを取り入れるためのドリルを聞いてみよう。
「ビハインド・ザ・ボールでは、切り返しで圧をかけたら終わりですが、カバーリング・ザ・ボールは、ずっとクラブを引き続ける感じになります。ボールの結構手前からヘッドが低い位置にあり、そのままインパクトの先までヘッドをズルズル引きずっていくイメージなんですが、これをイメージでなく、そのままやるのがいいドリルになります」

ボール位置を過ぎてもヘッドを引きずり続ける
やってみるとわかるが、これが意外と難しい。体の圧でヘッドを抑え続けなければならないからだ。
クラブに圧をかけ続けるとなると、やはり体幹部の強さと機能が必要で、背中側の筋肉を使い慣れていると、どうしても体が起き上がってしまうことに繋がるらしい。

背中側の筋肉を使ってしまうと体の起き上がりに繋がる
となると、やはりスウィングとしてはアスリート系。プロでもこんな振り方をするシニアがいないのはその証拠。プレーヤー自身のパワーがあればあるほどインパクト時の出力に反映され、前述のメリットが発揮されるのだ。
TEXT/Kazuya Kishi
Photo/Tsukasa Kobayashi
THANKS/GOLFOLIC 中延店
2024年6月27日8時55分 文章を一部修正いたしました。