韓国に自閉症のプロゴルファーがいる。その人、サイモン・リー(李丞珉/イ・スンミン)は、昨年のU.S.アダプティブオープンで初代チャンピオンとなった。2024年7月9日号の「週刊ゴルフダイジェスト」では、ゴルフを人生の味方に付けた27歳に話を聞いているので「みんゴル」でもお届けしよう。

日々練習を繰り返し、ゴルフを作りあげた

「よろしくおねがいします」

コースで会ったサイモン・リーは、片言の日本語を一生懸命話しながら、あどけない笑顔で握手を求めてきた。6月6~7日に、名匠・上田治設計の四日市カンツリー倶楽部(三重県)で行われた、障害者ゴルフの世界ランキング対象試合「第2回日本障害者グランプリオープンゴルフ選手権」(第1回中部障害者オープンゴルフ選手権・第24回日本片マヒ障害オープンゴルフ選手権と同時に開催/日本障害者ゴルフ協会主催)でのことである。

画像: 「第2回日本障害者グランプリオープンゴルフ選手権」の同伴者たちと。サイモン・リーは左から2番目

「第2回日本障害者グランプリオープンゴルフ選手権」の同伴者たちと。サイモン・リーは左から2番目

ティーインググラウンドに移動し、コーチ兼キャディとの話し合いの後、ひとたびルーティンに入ると真剣そのもの。しっかりセットアップし、マシンのように正確に振り抜く。ドライバーの飛距離は300ヤード級、アイアンショットもピンに向かっていく。18番(345ヤード・パー4)では、フェアウェイからのセカンドショットをピン3メートルに付け、その後、同伴競技者のバンカーショットに「ナイス!」と拍手を送り、自身はバーディパットを外して残念そうな顔をした。そして最後に、ともに戦った4人での記念撮影で、この日最高の笑顔を見せた。

この大会の結果は、67・69で優勝。試合後のインタビューではまず、「このコースは本当にアメイジング。ディボットもないしグリーンもきれいです。こういう大会を開いてくださってありがとうございます」とニコリ。

サイモンが22年に優勝し、23年は2位となった全米障害者ゴルフの世界大会「U.S.アダプティブオープン」の大会名として使われる「アダプティブ(適応する)」は近年、障害者を表す言葉としても使われる。障害がある人は「できない」人ではなく、適切な環境があれば能力を十分発揮できる、自分を理解し道具などを整え挑戦する達人という意味。「適応する」ことは本人にも周りにも必要なことなのだ。試行錯誤しながら「できる」ように努力してきた、サイモン・リーにとって、ゴルフとは何か。

画像: 自閉症を抱えるプロゴルファー、サイモン・リー

自閉症を抱えるプロゴルファー、サイモン・リー

サイモン・リーは、97年6月20日、韓国生まれ。27歳になったばかりだ。外交官である父、イ・ミョ ンヨルさんの赴任先、アメリカで、幼少期の大部分を家族とともに過ごした。2005~2010年、ニューヨーク州スカースデールに住んでいた期間、ウェストチェスター郡のBOCESが運営する知的障害児のための特別教育プログラムを受ける。

この頃アイスホッケーにも取り組み、ブリュースター・ブラックホークスとグリニッジ・ブルースの代表に。ゴルフは13歳の頃に始め、メトロポリタン・ジュニアPGAゴルフやUSキッズ・ゴルフ・ツアーなどのジュニア・ゴルフ・コンペティションで才能を発揮するようになる。

画像: いくつかの部門での優勝メダルを首に掛けて喜びの笑顔

いくつかの部門での優勝メダルを首に掛けて喜びの笑顔

韓国に帰国したサイモンは、地域や国内の学生ゴルフトーナメントで活躍。14年9月、17歳で韓国プロゴルフ協会(KPGA)のテストに合格しプロとなった。その後、KPGAのチャレンジツアーとフロンティアツアーに参加、17年にはKPGAでツアープロの資格を取得、韓国ツアーに参戦している。
実は16年~18年まで、JGTOのQTにも出場し、3次にまで進出した。

19年にはチャイナツアーにも参戦、21年にはアメリカのコーンフェリーツアーのQTにも挑戦している。そして22年、パインハーストNo.6で開催されたUSGA主催の障害者の世界大会、U.S.アダプティブオープンで優勝、初代チャンピオンとなり、翌23年は同大会で2位となった。

経歴を見ると、障害は関係なく、健常者の世界で常に戦ってきたことがわかる。もちろん、障害者の大会にも積極的に参戦している。

画像: 昨年のU.S.アダプティブオープンでは総合2位。韓国自閉症協会の親善大使も務め、アダプティブゴルフの普及にも積極的

昨年のU.S.アダプティブオープンでは総合2位。韓国自閉症協会の親善大使も務め、アダプティブゴルフの普及にも積極的

サイモンの障害、「自閉症」(現在の表現は「自閉スペクトラム症・ASD」)は、発達障害の1つで生まれつきの脳機能障害であり、人口の1%に及んでいるとも言われている。状態像は多様で、「言語やコミュニケーションの障害が認められることが多い」「感情を共有することが苦手で、対人的相互関係を築くのが難しくなる」「一つの興味・事柄に関心が限定され、こだわりが強く、感覚過敏あるいは鈍麻など感覚の問題も認められる」などの特徴が幼少期からみられる。現代の医学では根本的な原因を治療することは不可能だが、独特の仕方で物事を学んでいくので、個々の発達ペースに沿った療育・教育的な対応が必要となる。
※厚生労働省「e-ヘルスネット」ホームページ参照

大ヒットした韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で、この障害のことを知った人も多いかもしれない。自閉症の方々でも、社会に適応するすべはあるのだ。

サイモンは、どのようにしてゴルフを上達させてきたのか。

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