「障害の影響もあり、常に同じ練習を続けています」
サイモンのゴルフを作り上げてきたものは、ひとえに「日々の練習」。コンディションや体調管理が難しいなか、ショートコースでアプローチなどを練習していたという。
「僕は自己管理やリズムの維持が難しい。コーチが小さい頃からずっと言ってきたことです」と話をしていると少し自信なさげな顔つきになることもあるサイモンだが、得意クラブを聞くと「ドライバー」ときっぱり。
「トレーニングもいつもとてもハードにしています。スピードスケートのナショナルチームのトレーナーさんにも見てもらっているんですよ」とパッと顔が明るくなる。
二人三脚でゴルフを作り上げてきたコーチ兼キャディのユン・スルギ氏は、「19年にチャイナツアーに行っていたときはドライバーがすごく曲がっていました。でも頑張って真っすぐ打つ練習をしたんです」。
確かに“よじれない”ボールがフェアウェイに飛んでいく。
「KPGAツアーで戦うには、もっと飛距離は必要。でもサイモンはパッティングが上手い。なぜかよくわからないけど、ラインがよく見えたりしますし、僕がラインを伝えると、絶対入るんです」
「短い集中力はものすごく高い。ただ、長い時間は難しい」とサイモンのできることもできないことも理解している同伴者がいるからこそ、プロゴルファー、サイモン・リーは誕生した。

コーチ兼キャディのユン・スルギ氏によると「サイモンはパッティングがうまい」
もちろん、世間の偏見はあった。母、パク・ジエさんは語る。
「サイモンはなかなか集中ができなかったりするので、確かに多くの偏見はありました。そこであえて、ゴルフコーチという他の方の手も借りて育てることで、一般社会でもなんとか話ができるようになったんです。ゴルフは自閉症の人たちにとてもよいと思っています。コース内で自分自身のことをしながら、他人とも話をしなければならない。その切り替えの練習をするために、会話の内容を考えて話をするようになるんです。障害がなくなるということではないですが、ゴルフを通じて慣れることができれば、本人のメンタルの安定につながると信じています」
母は、いつもコースで息子のプレーを見守っている。ときにはティーイングエリアから、距離計測器を使ってグリーン上のサイモンを見つめている。

母、コーチと二人三脚で世界を転戦している
「コーチと3人で世界を転戦していますけど、運転はもっぱら私の役目。コーチは韓国以外で運転するのは嫌だと言うし、日本は車線が違うので私も怖いんですよ。でも仕方ないです。実は、サイモン自身は、運転は大好きなんですよ。私もゴルフは大好きですし」とおだやかに笑う。
日本にはまだ自閉症のゴルファーは少ないと伝えると、少し残念そうに、「韓国ではこの8月に、サイモンも支えてくれているSKテレコムをスポンサーに自閉症や知的障害の方の20人程度のコンペが開かれます。日本にも広がるとよいですね」。
インクルーシブゴルフへ、夢はマスターズ!
「サイモンにとってゴルフは単なる趣味ではなかった」という母。
「世の中とコミュニケーションするための手段でした。ゴルフに集中することで社会性が改善し、発達障害の2級から3級になったんです」
サイモン本人に、ゴルフの何が楽しいのかと聞くと、「よいコースでラウンドできることが楽しみです。ボールの飛球線を見ること、球が上がって重力で落ちてくる経過が面白いんです」とユニークな答えが返ってきた。

夢はマスターズへの出場
ゴルフに飽きたことは?
「ゴルフは毎日やりたいわけではないんです。どちらかというと、やりたくないときのほうが多いけど、コーチが厳しいのでやっているんです。あ、コーチの目の前で言ってしまった(笑)」
そして最後に、「あなたにとってゴルフとは何ですか」と聞くと「自分にとってゴルフは、障害のない人と平等に話せる唯一の場です!」
サイモンの直近の目標は、アジアの各ツアーに参戦することだが、最終的な目標は、コーンフェリーツアーを経て、PGAツアーでのプレー。そして夢はマスターズへの出場だ。
現在、ハナ銀行インビテーショナル(76・71で予選落ち)、コロン韓国オープン(6月20日~)、U.S. アダプティブオープン(7月8日~)と、世界を股にかけて連戦中だ。
ゴルフを通して、インクルーシブな存在でありつづけるサイモン・リーの軽やかに挑戦する姿勢が、同じような障害を持つ人たちの希望となるのだろう。
PHOTO/Yasuo Masuda