相手の優越感を逆手にとる
ーー「小が大を喰うには相手の優越感を逆手にとって、“後の先”をとる」
相手の優越感といえば、飛距離でしょうね。ボクはツアーでもいちばん飛ばんほうやったから、相手はボクより大体30ヤードは先にいってます。相手はおそらく優越感に浸っているはずです。でも相手がなんぼ飛ばしたからといって、必ずしもボクより1打少なくあがるとは限りません。むしろその可能性は少ないんです。
それでボクが先に打つわけです。この時のクラブ選択は非常に大事です。相手に惑わされず、自分の技術の範囲内で淡々と“仕事”をする。まあ、乗らないまでも寄せてパーをとれるよなところまで打っておきますんや。ここでは相手を上回るようなスコアをだす必要はないんです。相手と並ぶスコアでいいんです。
自分は“小”だと認識してマイペースでスコアをつくっていけばいいんです。
これに対して相手は飛んだという優越感があるので、同じスコアなら損をしているという気持ちになるはずなんや。つまり、飛距離にこれだけ差があるのに、いいスコアであがって当然だという気持ちがどこかにあるので、同じスコアが続くと、相手は焦れてくるはずです。飛距離に自信ある人ほどそういうことに動揺しやすいもんです。
いつも先に打って、自分のミスを最小限にとどめて引き分けにもちこむわけです。相手はますます力も入ってきてや、崩れてくることが多いもんです。
これが“後の先”といいましょうか。“小”が先手をとって相手を圧迫していく。相手の優越感を逆手にとって、“小が大を喰う”戦法に持ちこむのです。
心をはやらせない我慢もある
ーー「苦しい時に我慢するのは当たり前や。本当の我慢はチャンスが巡った時、心をはやらせない我慢なんや」
ボクは常に「飛ばんかてかめへん」と見切って、コース攻略法を考えています。練習ラウンドでのプレーを基にしてゲームのプランニングをたてます。
この意味では、ラウンドする相手は気にしてはいかんのです。球聖と謳われたボビー・ジョーンズさんが「パーおじさんを相手にするようになってから勝てるようになった」と言いましたが、コースとの戦いがストロークプレーの場合、基本線なんです。
自分の限界をわきまえて、効率のよい攻略法を練っていく。だから、人のことをあまりに意識してはあかんのです。どこかの章で書きましたが、「相手のミスを待つ、利用する」などとは本来なら考えてはいけないことです。
相手をあまりに意識すると、相手がミスをすると、「よしチャンス到来」と考えてしまんやね。そうなると、こちらがリキんで、リズムを崩してしまったりすることにもなりかねん。相手のミスにつきあってしまうことだってあるんです。
逆にいえば、こちらがチャンスと思った時には、相手にも息を吹きかえすチャンスができるというわけやね。チャンスがいったりきたりする状況にもなりかねんわけです。実はそこが我慢のしどころなんですよ。
ちょっとしたツキにも見放され、だんだんリズムも悪くなってくる。そんな苦しい状況で我慢するのはするのは、当たり前なんです。これは誰もがやってる我慢です。
それ以上に大切なんは、自分にチャンスがまわってきたと思う時に、はやる心をいかに抑えるか、我慢するか。ボクはこれが本当の我慢やと、自戒をこめてそう思います。
文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)