1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 65年関西OP-右・杉原輝雄/左・中部銀次郎

65年関西OP-右・杉原輝雄/左・中部銀次郎

相手の優越感を逆手にとる

ーー「小が大を喰うには相手の優越感を逆手にとって、“後の先”をとる」

相手の優越感といえば、飛距離でしょうね。ボクはツアーでもいちばん飛ばんほうやったから、相手はボクより大体30ヤードは先にいってます。相手はおそらく優越感に浸っているはずです。でも相手がなんぼ飛ばしたからといって、必ずしもボクより1打少なくあがるとは限りません。むしろその可能性は少ないんです。

それでボクが先に打つわけです。この時のクラブ選択は非常に大事です。相手に惑わされず、自分の技術の範囲内で淡々と“仕事”をする。まあ、乗らないまでも寄せてパーをとれるよなところまで打っておきますんや。ここでは相手を上回るようなスコアをだす必要はないんです。相手と並ぶスコアでいいんです。

自分は“小”だと認識してマイペースでスコアをつくっていけばいいんです。

これに対して相手は飛んだという優越感があるので、同じスコアなら損をしているという気持ちになるはずなんや。つまり、飛距離にこれだけ差があるのに、いいスコアであがって当然だという気持ちがどこかにあるので、同じスコアが続くと、相手は焦れてくるはずです。飛距離に自信ある人ほどそういうことに動揺しやすいもんです。

いつも先に打って、自分のミスを最小限にとどめて引き分けにもちこむわけです。相手はますます力も入ってきてや、崩れてくることが多いもんです。

これが“後の先”といいましょうか。“小”が先手をとって相手を圧迫していく。相手の優越感を逆手にとって、“小が大を喰う”戦法に持ちこむのです。

 

心をはやらせない我慢もある

ーー「苦しい時に我慢するのは当たり前や。本当の我慢はチャンスが巡った時、心をはやらせない我慢なんや」

ボクは常に「飛ばんかてかめへん」と見切って、コース攻略法を考えています。練習ラウンドでのプレーを基にしてゲームのプランニングをたてます。

この意味では、ラウンドする相手は気にしてはいかんのです。球聖と謳われたボビー・ジョーンズさんが「パーおじさんを相手にするようになってから勝てるようになった」と言いましたが、コースとの戦いがストロークプレーの場合、基本線なんです。

自分の限界をわきまえて、効率のよい攻略法を練っていく。だから、人のことをあまりに意識してはあかんのです。どこかの章で書きましたが、「相手のミスを待つ、利用する」などとは本来なら考えてはいけないことです。

相手をあまりに意識すると、相手がミスをすると、「よしチャンス到来」と考えてしまんやね。そうなると、こちらがリキんで、リズムを崩してしまったりすることにもなりかねん。相手のミスにつきあってしまうことだってあるんです。

逆にいえば、こちらがチャンスと思った時には、相手にも息を吹きかえすチャンスができるというわけやね。チャンスがいったりきたりする状況にもなりかねんわけです。実はそこが我慢のしどころなんですよ。

ちょっとしたツキにも見放され、だんだんリズムも悪くなってくる。そんな苦しい状況で我慢するのはするのは、当たり前なんです。これは誰もがやってる我慢です。

それ以上に大切なんは、自分にチャンスがまわってきたと思う時に、はやる心をいかに抑えるか、我慢するか。ボクはこれが本当の我慢やと、自戒をこめてそう思います。 

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

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