「苦しいとか悲しいとか情けない思いとかがあった」(河本)
最終18番、河本は短いウィニングパットを沈めると、右手でサンバイザーのつばをつまみ、少し恥ずかしそうに微笑んだ。それからパターを持った左手とボールを持った右手を掲げて小さな万歳。やがて手で口元を押さえて涙ぐんだ。
優勝インタビューでは感謝の言葉を口にして改めて喜びに浸った。
「朝早くからから大ギャラリーさんの中でプレーできて、朝から幸せを噛み締めながら最後までプレーできました」
優勝から遠ざかった間の苦労について聞かれると、途端に両手で目頭を押さえて泣き顔で語った。
「本当に苦しかったんですけど、そういう苦しいとか悲しいとか情けない思いとかがあったから今の自分があると思うので、私ひとりでは成し得なかったことなので、本当に多くの人に感謝したいです」
表彰式のグリーンを囲んだ大勢のギャラリーから温かい拍手を浴びた。
「バーディが獲れなかったのはめっちゃ悔しい」(河本)
最終日は耐えに耐えた。
2位に3打差をつけて単独首位でスタートしたが、なかなかスコアを伸ばせない。4番で3メートルのバーディパットを外すと、6番ではグリーン手前からのアプローチをショートしてボギーが先行。バックナインに入って政田、同組の堀琴音に追いつかれてからも、ことごとくバーディチャンスをものにできなかった。
17番はグリーン手前エッジから7メートルをパターで狙い、一瞬入りかけたが、右カップに蹴られてひざまづいた。3組前の政田が18番でダブルボギーをたたき、堀に1打差で迎えた18番もピン右2.5メートルのチャンスを生かせなかった。
「なんか優勝したっていう感覚がないという心境ですね。普通通りに試合が終わったみたいな感じです。バーディが獲れなかったのはめっちゃ悔しいですし、最後もライン間違えちゃったので、優勝インタビューでも言ったんですけど、最終日伸ばし切れないないと一流ではない、練習あるのみだなと思います」
黄金世代、区切りの50勝目
とはいえ、待ちに待った復活優勝だった。前回の優勝は約5年前、2019年4月のアクサレディス。翌2020年には米ツアーに挑戦したものの、環境の違いに戸惑ったこともあって結果を出せず、2021年シーズン途中に撤退。その後、低迷期が続いたが、QTランキング4位の資格でツアー参戦した今季は開幕から好調をキープ。前週まで10試合でトップ10入りを果たし、5月のブリヂストンレディスと前週の北海道meijiカップでは2位に食い込んでいた。そのいい流れをこの大会につなげた。
「つらい思い、情けない思い、悔しい思い、悲しい思い、いろんな心ないことを言われて、泥水飲んだじゃないけど、遠回りして、でも、また、こうやってちゃんと優勝。今までやってきたことのおかげで優勝できたし、自分が100%ゴルフに向き合っていると思うと、それがあったから今の自分がいるのかなと思います」
1998年度生まれの黄金世代が挙げた優勝はこれが区切りの50勝目。
「え、すごくうれしいです。私たちの世代で女子ゴルフを盛り上げたいという気持ちがあるので、まだまだ若い子には負けたくない。オリンピックに30歳、50歳の方が出ているのを見て、30歳(で迎える2028年五輪)ロスを目指したいという気持ちになりました。30歳で(トレードマークの)リボンして出るのが目標です」
この復活Vで所属契約を結ぶリコー主催の最終戦、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ(11月21〜24日、宮崎カントリークラブ)への出場権も獲得した。
「めっちゃうれしいです。昨日、リコーの山下(良則)会長から頼むぞと。勝ててよかったです」
"燃える女"河本の巻き返しが始まった。