1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 88年サントリーOPにて

88年サントリーOPにて

人には変則。自分には基本

ーー「基本とはその人の体力、癖に合ったスウィングをいうのや。人からの借り物は真の基本やない」

自分のスウィングスタイルをつくるのには便利な時代になったんやなと思います。ゴルフ雑誌では世界の名手たちのスウィングの連続写真は載ってるし、技術レッスンは豊富やし、そのうえ、男子、女子のゴルフトーナメントもTV放映されます。また練習場にいけば、レッスンプロもたくさんいますし、これほど恵まれた環境はないなと思えます。ゴルフの基本を学べる、つくる機会が増えたということです。

いうまでもなく、ゴルフは基本が大事。基本ができていないと、上達は遅くなります。

さてこの「基本」とは一体何やろなと考えると、その実態は錯綜としてきます。ボクはこの基本というのを、誤って考えている人が多いのではないかという考えに至っています。

長身の海外のプロがアップライトなスウィングで飛ばしているのを見て、あれが基本と思う人もいるはずです。小柄な人がそれを見てアップライトなスウィングをし、左手が弱いのに、インターロッキンググリップをする人もいます。

それでは自分の基本をつくることはできない。自分の体力、癖にあったスウィングづくりをしなければ、自分の基本はつくることはできないということです。

ボクは、変則的でノーコックの五角形スウィングですが、これはボクに合った基本だと思っています。しかし他の人にとっては変則で決して基本とはいえんでしょう。結局、他人の真似するだけでは、基本はできないということです。自分に合うものを取捨選択しながら採りいれて、練習で体感しながらつくりあげていくしかないんです。

五角形打法はダグフックを防ぐ

ーー「Y字形アドレスは非力が生んだ知恵や。五角形打法はダグフックを出さないために生まれたんや」

一時、アメリカ打法いうんが流行りました。その主張するところは左腕主体でスクエア・ヒットするという点やった。それを具現化した形のアドレスが逆K字形。左腕を真っ直ぐに構えるため正面から見て両腕が体に対して逆Kになるのでそう呼ばれたんです。長身でパワーもあり手足も長い欧米人のための打法です。

日本でも真似する人もいましたが、ボクは身長もなく、腕も短く非力な日本人には無理がある打法と思ってました。やはり非力をカバーするには、逆K字ではなく、Y字形が合ってます。逆K字形のほうがグリップが右足に寄るためにアークも大きくなり、飛距離も出るんやが、グリップの地点からテークバックするには強靭な筋肉で柔らかい体も必要。非力で腕が短い日本人の体型では、インパクトでなかなかボールまで届いてくれません。

若くて関節も筋肉も柔らかい時なら逆K字でも対応できるやろが、加齢していくと、なかなかアジャストしていけなくなります。日本人にはY字型のアドレスが有利という所以です。

むろんボクもY字形です。

もう一つのボクの特徴の五角形スウィング。両腕を軽く曲げて、インパクトでもリストの動きを可能な限り抑えるというこの打法は、修行時代、チーピン(ダグフック)に悩まされて、試行錯誤の末、自然にできたもんなんです。やはりボクもその頃は飛距離も欲しくて、フック球ばかり追い求めていたんです。しかしフックはチーピンに変わり、ラウンドで自滅することが多かった。そこでリストの動きを抑え、フェードの球を打つ工夫をするうちに、いまのスウィングになったというわけです。

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