「泣かないと思っていたんですけど……」(安田)
待ちに待った瞬間だった。
安田は最終18番、ウィニングパットとなる短いボギーパットを沈めると、右手で帽子のひさしに手をやり小さく頭を下げた。すぐにグリーンを取り囲んだ大勢のギャラリーから大きな拍手が沸き上がる。その真ん中で新しいヒロインがほっとしたように微笑んだ。
優勝インタビューでは目頭を熱くし、声を震わせた。
「優勝争いしてもなかなか勝てなかったりしたので……。この大会で優勝できたことはすごくうれしいです。泣かないと思っていたんですけど、すごく声援も大きかったですし、お世話になった方々もたくさんおられて……。恩返しができてうれしいです」
今大会は21日の第2ラウンドが中止になり、36ホールでの競技成立を目指したが、悪天候によるコースコンディション不良のため最終日は同一9ホール(インコース)でのラウンドとなり、第1ラウンド終了時点の1アンダー30位タイまでの37人で決勝ラウンドを行った。
「うれしいですけど、パニックです」(安田)
安田は第1日に7アンダー65でロケットスタートを決めた。この日は2位に1打差の単独首位からスタート。時折強い雨が降る悪条件の中、11番で10メートルのロングパットを決めてバーディ先行。13番は第2打を3メートルに乗せてスコアを伸ばした。
それでも初優勝への道のりは困難だった。
15番をプレー中に雨脚が強くなり、グリーンエッジからの3打目以降を残して中断となった。約1時間半後に再開されたが、1メートルのパーパットを外してボギー。この時点で2位にいた岩井千怜に2打差と迫られた。
初優勝への強い思いで苦境を脱した。続く16番は残り129ヤードの第2打を30センチにつけるスーパーショットで見事なバウンスバック。17番も3メートルを沈めてスコアを10アンダーに伸ばし、最終18番につなげた。
「終わってみれば一瞬でうれしいですけど、パニックです。優勝スピーチとかトロフィをいただくとか、何を言えばいいか分からなくて、そういうのがパニックでした。(プレーについては)今日は割と強気というか、緊張感はあったと思います。15番あたりから落ち着いて上を見てプレーできたところがよかったです」
「自分的には1年ごとに成長を感じています」(安田)
ミレニアム世代の2000年クリスマスイブの12月24日、神戸市出身。アマチュア時代は現在米ツアーを主戦場にする古江彩佳、西村優菜、吉田優利とともに活躍。プロツアーのトップ10入り4回、2019年のオーガスタ女子アマでは3位、同年アジア太平洋女子アマは日本人初優勝という成績を残した。
2020年プロ入り後は将来を嘱望されたが、腰痛など体調不良もあって思うような結果を残せず、前週までは昨季2度、今季1度の2位が最高順位だった。滝川第二高同期生の古江には大きく置いていかれた形になっていたが、プロ入りから5年目、雌伏の時をようやく抜け出した。
「やっぱり同学年の子がすごい活躍したり、優勝もしているので、私以外から見たら、優勝できないとか、体力がないとか言われるんですけど、自分的には1年ごとに成長を感じていますし(初優勝までが)長いとはあまり感じなかったです」
坂田信弘プロに「天国で見てもらえたと思います」
小3で坂田塾に入門し、今年亡くなった坂田信弘プロにゴルフの"イロハ"を教えてもらった。この日は師匠への感謝も口にした。
「できればテレビで優勝しているのを見てほしかったですけど、もう一回気合を入れ直すというか、私も頑張らないとなという気持ちになったので、天国で見てもらえたと思います」
今大会は小学生時代から用具を使い、現在は用具契約を結んでいる住友ゴム工業が特別協賛。その縁ある大会で初優勝を果たしたことも喜びを倍増させた。
「ダンロップの選手は竹田麗央ちゃんとか山下美夢有ちゃんとか小祝さくらさんとかトッププレーヤーがたくさんいるので、自分も仲間入りしたいなと思いますし、この大会で優勝して(ダンロップの)クラブとかを見てもらえたらうれしいです」
待ちに待った優勝を手にしたことで今後の夢も大きく広がる。
「常に上位にいられる選手になることが目標なので、その中で優勝できたのはうれしいですし、これからも安定したゴルフを続けていきたいなと思います。(米ツアーに行きたい希望は)特にないです」
アマチュア時代は世代ナンバー1を誇った"天才"の巻き返しが始まる。