ジャパンクオリティが生み出す精密なクラブたち
羽田から山形県・おいしい庄内空港までは、わずか45分間のフライト。そこから車で20分ほど走ると、HONMAの酒田工場に到着する。敷地面積は約5万坪、そこでは360名ほどの職人が日々、ヘッドとシャフトの開発、製造、組み立て等にあたっている。

青竹色の屋根の建屋群が本間ゴルフ酒田工場。その奥(写真中央付近)には、総距離400Yのテストセンターを擁する。鳥海山、日本海を望める風光明媚な場所でもある

レセプションを抜けると、過去モデルがずらりと並ぶエリアが。歴史と伝統を感じる

イ・ボミプロをはじめ、HONMAで活躍した選手の実使用クラブも数多く展示されている
酒田工場で作られるクラブは、非常に精密であることが大きな特長。多くの部分で人の手や目を通して製品が作られ、厳しい検査基準のもと出荷される。そのため、製品の誤差は極めて少なく、設計通りのクラブが生み出される。プロもアマチュアもまったく同じ品質のものを手にできる、それがHONMAの大きな魅力のひとつだ。
構えた時に違和感のないかっこいい顔、スタイル。これは絶対に譲れない
さて、アイアンである。HONMAのそれが目の肥えたゴルファーを唸らせるポイントはどこにあるのか。HONMAで“匠”の称号を持つ開発者に聞いた。

開発のトップを務めるディレクターの佐藤巧氏。入社以来、長年アイアンの開発に従事する
「よく言われるのは、顔と打感ですよね。特に顔に関しては、ずっと昔のマッスルバックの時代から一貫して匠と呼ばれる職人がマスターを作り、それを忠実に再現することで生み出しています。我々はとにかく構えた時に違和感がないことを大切にしています。そして、“なんかいいね”、“かっこいい”、“構えやすいじゃん”、と感じてもらえること。ゴルファーはクラブを手に取って構え、まず最初にヘッドを見ますよね。ここで打ちたい気持ちになってもらってはじめてその先に進めると考えています」(HONMA 製品開発本部 ディレクター/佐藤巧氏)

最新作「T//WORLD Px」。複合素材のボディとポケットキャビティ構造というテクノロジー系のモデルだが、匠が生み出した美しい形状はしっかり兼備。結果、プロがすんなりと実戦投入できるモデルとなっている
では、違和感のない顔、かっこいい顔とは、どういうものととらえているのだろうか。
「時代のニーズとともに形状は変化していますが、ポイントはヒールの高さ、トウの頂点の位置やラウンド感、フェースとネックのつながり、トップブレードがストレートか丸みがあるのか、など。これらのバランスを考えながら整えていきます。出来上がった形状は、3DカメラでスキャンしてCADに取り込みますが、CADの部隊は絶対に形を変えてはいけないというルールがあります。必要な性能を匠が作った顔に落とし込む。これがHONMAスタイルです」(佐藤氏)

最新作「T//WORLD Vx」のフェース側からのカット
HONMAアイアンの顔の特徴としては、ヒールが比較的高く、スコアラインの始まりはヒールに近すぎないことが挙げられる。フェードを打ちやすいイメージが出るといい、これがプロや上級者といったクラブの目利きからの高い評価につながっている。
打感は、素材や製法よりも大事なものがある
では、打感はどうだろう。HONMAとともに歩んできた匠はこう語る。

HONMAの長い歴史を知る製品開発部顧問の諏訪博士氏。パーシモン全盛の時代から開発に携わる
「最近でこそ、軟鉄鍛造製法を採用していますが、HONMAは長いこと、まずマスターを削って、そこから金型を作り、鉄を流し込む“鋳造製法”でアイアンを作っていました。打感が良くて多くのプロに愛されたPP-737というモデルであってもです。鋳造だから打感が悪いと言われたことは一度もありませんし、私自身感じたこともない。それよりも打感に影響するのは鉄の“厚さ”です。マッスルバックが打感が良いと言われる所以はそこにあります。打点の裏に鉄の厚みがあるほど、打感は良くなる。これは間違いありません」(HONMA 製品開発部 顧問/諏訪博士氏)

「良い打感を生むのは、打点部の鉄の厚みです」(諏訪氏)
その鉄の厚みを番手ごとにフローさせたモデルを、80年代に作っていたという。「H&F(ハーフ&フル)」というアイアンだ。
「ロングアイアンは中心をやや薄くし、周辺に肉を盛って寛容性をアップ、ミドルアイアンはハーフキャビティ、ショートアイアンは打感とスピン性能を求めてマッスルバックという組み合わせ。今でいうコンボアイアンの発想ですね」(諏訪氏)
肉厚=打感の良さ、という観点で見ると、最新の「T//WORLD 」にもその考えがしっかり組み込まれている。

左から中空構造の「Hx」、ポケットキャビティの「Px」、軟鉄鍛造の「Vx」、さらに鉄の厚みを増し、マッスルバックの打感に近い「TOUR V」という新「T//WORLD 」のラインナップ
「TOUR V、Vxといったモデルは軟鉄鍛造で打点裏の肉厚もしっかりある。ポケットキャビティのPxも、ちょうど打点部分であるスコアライン下から3本目あたりまで肉を盛っていますし、後ろから振動吸収のエンブレムも装着しているので、心地よい打感です。Hxは中空構造ですが、それでも打感の良さを追い求めて作っています」(諏訪氏)

「Px」の内部構造。Lカップフェースで反発力と寛容性を上げる。さらに打点裏を肉厚にして打感にも配慮
「HONMAのシャフトは±1gの精度で生産されており、ウッドとアイアンの設計においてより多くの重量を重心設計に活用できるので、設計チームは形状、各部の肉厚を性能ギリギリまで攻められるのです」(諏訪氏)

酒田工場で一貫生産。製品誤差は極めて少ない
新アイアンに込められた3つの狙い
今回の新しい「T//WORLD 」の狙いには、“寛容性”、“かっこよさ”、“飛距離性能”、この3つの向上があるという。
「TOUR Vは、マッスルバックに近い。それだけに打感、操作性に長けています。加えてマッスルバックよりは確実にミスヒットに強くなっています」(佐藤氏・以下同)

「T//WORLD TOUR V」。軟鉄(S20C)鍛造。性能はマッスルバック、やさしさはキャビティバックを狙ったツアーモデル(7番アイアンのロフト:32度)
「Vxは、TOUR Vよりもロフトを立てて飛距離性能をアップさせています。さらに低重心化も施してボールが上がりやすくなり、ミスヒットにも強い。まさにやさしく進化した部分です」

「T//WORLD Vx」。軟鉄(S20C)鍛造。トウ、ヒールに重量を振り分け、さらに#5~#8のトウ側にはタングステンウェイトを内蔵。ツアーライクなシェイプながら最大限の寛容性を備える(7番アイアンのロフト:30度)
「Pxは、さらに寛容性の高い仕上がり。Lカップフェースにしたことで、反発エリアが拡大。さらに重心も深めに設定しているので、オフセンターヒットに強い。Vxとロフト設定も同じなので、7番まではPx、8番以下はVxという組み合わせもしやすい。実際女子プロではこの2モデルを組み合わせて戦っている選手もいます」

「T//WORLD Px」。軟鉄鍛造ボディのポケットキャビティ。#5~#8はLカップフェースを採用し、反発性能、寛容性を引き上げている。フェースは打点裏を肉厚にして打感にも配慮(7番アイアンのロフト:30度)
「Hxは、中空構造で高強度のマレージングフェース。ロフトもさらに立てています。Pxよりもさらに高初速エリアが拡大しているので、ミスに非常に寛容、飛距離性能も高いモデルです」

「T//WORLD Hx」。高強度マレージングフェース採用の中空アイアン。余剰重量を適所に配置し、大きな飛距離と高弾道、最大限の寛容性を備える。飛び系ながらHONMAらしい顔も健在(7番アイアンのロフト:28度)
難しい印象は一切なし。「Vx」、本気で使いたい
かっこいい顔、気持ちいい打感が担保されながら、そこに今どきアイアンの性能が盛り込まれた新しい「T//WORLD 」。では、実際に打ってその感触、性能を確かめてみよう。試打はクラブの目利き、カリスマフィッターの平野義裕氏にお願いした。

東京・スイング碑文谷内「クールクラブス」のカリスマフィッターである平野義裕さん。「HONMAはバッグに入れたことがないですが、伊澤(利光)さんが使っているのを間近で見ていました」(平野氏は元ジャンボ軍団)
「以前、お客さんが持ってこられたHONMAのアイアンをリシャフトしようとした時に、上の番手は硬く、下の番手は軟らかくなるようにシャフトの硬度をフローさせていることがわかりました。スウィングテンポが変わりにくい工夫で、理想的な組み方をしているなと感心した記憶があります」と平野氏。HONMAのアイアン自体はあまり打ったことがないというが、その評価はどうか。まずは「TOUR V」から(試打はすべて7番アイアン)。
「上級者モデルだと思うんですが、難しい印象はないですね。トップブレードはシャープですが、このカテゴリーのアイアンにしてはヘッドが大きめ。ネックのふところ感もしっかりあってつかまる感じもあります。打ってみると、鉄の厚み=厚みのある打感がとても気持ちいい。打球音もいいですね。寛容性も結構あります。他のやさしめのキャビティと同じぐらいミスに強いです。ロフトもしっかりあるので、ボールの高さも十分です」

奥が「TOUR V」。同カテゴリーのモデルと比べてもプロファイルはやや大きい
【TOUR V 試打データ(7番アイアン スチールシャフト)】
●ヘッドスピード・・・36.3m/s
●ボール初速・・・50.0m/s
●打ち出し角・・・16.2度
●スピン量・・・5110rpm
●落下角・・・41.9度
●キャリー・・・158.8Y
●トータル・・・171.0Y
※データは5球打った中でのベストボール
バックフェースの感じなどは、手強そうなTOUR Vだが、想像よりもはるかにやさしい、というのが平野氏の見立てだ。では「Vx」に移ろう。
「顔の感じは、TOUR Vに近いですね。1本ずつだと見分けがつかないほど似ています。
こちらのほうがロフトが2度立っていますから、初速の違いが明らか、というかかなり飛ぶアイアンですね。それでいて高さもしっかり出る。顔といい、打感といい、飛びといい、めちゃめちゃいいアイアンじゃないですか! 打感はTOUR Vよりやや軽やか。球を押す感覚の中で、弾きも感じられます」

トウ側に埋め込まれたウェイトが想像以上に効いて、寛容性が高い
【Vx 試打データ(7番アイアン スチールシャフト)】
●ヘッドスピード・・・35.7m/s
●ボール初速・・・52.8m/s
●打ち出し角・・・15.3度
●スピン量・・・4640rpm
●落下角・・・41.9度
●キャリー・・・172.6Y
●トータル・・・186.0Y
※データは5球打った中でのベストボール
では、ポケットキャビティの「Px」はどうか。
「Vxよりも若干オフセット感があります。トップブレードもやや厚くなり、見た目のやさしさが出てきますが、HONMAらしい顔の良さは流れています。
これは球がすごく上がります。Vxよりも一段階弾き感が出てきますが、嫌な感じはなく逆に気持ちいいです。ミスヒットに強いので、タテの距離のブレが大きい人にお勧めしたいですね。個人的には長い番手で入れてVxと組み合わせて使いたい」

「VxとPx、コンボで使いたい」(平野)
【Px 試打データ(7番アイアン カーボンシャフト)】
●ヘッドスピード・・・36.7m/s
●ボール初速・・・54.2m/s
●打ち出し角・・・15.4度
●スピン量・・・4800rpm
●落下角・・・43.6度
●キャリー・・・177.9Y
●トータル・・・190.2Y
※データは5球打った中でのベストボール
4本目は中空構造の「Hx」を試打。
「トップブレードがさらに厚くなって、ネックも短い。若干アイアン型UTっぽさが出てきます。
飛距離、すごいですね……。私の4番アイアンと同じぐらい飛んでます。でも、音はそんなに高くなくて、“これ中空か?”と思うぐらいのレベルです。ロフトは7番で28度とストロングですが、球は高いですね。ミスヒットにも強くて曲がりも少ないですし。これはアマチュアにとって助けになります」

「Hxの飛びはUTのよう」(平野氏)
【Hx 試打データ(7番アイアン カーボンシャフト)】
●ヘッドスピード・・・36.9m/s
●ボール初速・・・55.0m/s
●打ち出し角・・・14.6度
●スピン量・・・4470rpm
●落下角・・・42.1度
●キャリー・・・182.7Y
●トータル・・・196.6Y
※データは5球打った中でのベストボール
試打を終えた平野氏も、顔と打感の良さ、そして性能の高さを実感。
「正直、HONMAのアイアンはほぼ使ったことがなかったのですが、構えるとまったく違和感がないし、すごく落ち着いて構えられました。これがHONMAの匠の技でしょうか。そして打感、TOUR Vはもちろん最高の打感ですが、Vxも遜色ないし、Pxもとてもうまく作っていると感じました。中空のHxは弾きますが、嫌な感じは全然ないです。感性の部分を突き詰めながら、今どきアイアンに必要な性能も十二分に備えている。HONMAのアイアンから離れられない人がいるのもうなずけます」
クラブの目利きをも唸らせる、新しい「T//WORLD 」アイアン。HONMAを知る人も未体験の人も、一度手に取って構えてみると、「“日本人が日本人のために作る”という創業からのポリシー」(諏訪氏)を体感でき、きっとこのアイアンで球を打ちたくなるに違いない。
PHOTO/Takanori Miki、Hiroaki Arihara
THANKS/COOL CLUBS