解説/赤野公昭(あかのきみあき)
「『不安』でいい。不安を生かすと上手くいきます」
1972年岡山県生まれ。世界のアスリートを育てたアメリカのトップメンタルトレーナー、ジョセフ・ペアレント博士に師事。日本古来の「禅」と欧米の最新理論を融合させた独自のメソッドでプロゴルファーなどトップアスリートを指導する。
「欲張らず、惑わされず。静かな強さがそこにある」(赤野)
“ほんわり”の中にある芯
「確かに、最近活躍する若手プロの方々の言動をみると、表面上はホンワカしていて全然ムリした感じがない選手が多い気がします。天然系とも言えるのかもしれませんが、それより“不思議系”という言葉が浮かびました」と赤野氏。
この命名、なんだかしっくりくるではないか。とはいえ、これは強さの証しだという。
●平田憲聖
「海外に行くのは実力がついてからです」
今年大活躍の平田。以前は海外挑戦に控えめな発言をしていたが賞金ランクトップに立ち「ここまできて(賞金王や海外を)意識しないほうがおかしい。だからと言って変わることはないです」。
「よく、ポジティブな気持ちで! なんて言いますけど、そう簡単なことではないですよね。それにネガティブになりがちな方がポジティブに持っていくのはムリです。ですから、ネガティブ思考な方は“不思議系”にシフトしましょうと言いたいんです」
赤野氏はまず、ネガティブな人が持ってしまいがちな「不安」について、そのままの状態でいいと語る。
●桂川有人
「人生、ゴルフだけではないと思ってます」
今年は欧州ツアーに挑戦。予選落ち続きのとき「僕が人より落ち込まないのはゴルフだけにとらわれて人生を考えていないこともある。上を目指してはいるけど、まずは自分のゴルフができるようにすることが肝心です」。
「不安は消えないもの。ですから、逆に不安を生かすんです。いわば“不安力”ですね」
不安があるならば、多くを望まなければいい。すると、普通でいいと思えてムダな力も抜ける。大きな野望がない状態だからこそ、自分が今できることに集中できるのだ。
「たとえば優勝はプロの誰もが目指していることですよね。しかし優勝を強く望むと力が出ないことも多い。心身の緊張が強くなるからです。また、不安があるからこそ準備を怠らなくなるとも言えます。それに、周りが見えるようになり、話をきちんと聞けるようになる。結果的に結果がついてくるのです」
●今平周吾
「(10勝目でも)変わったりしないです」
賞金王2回でベテランの域に入るが常にクールにプレー。今年日本オープン優勝時に珍しく雄叫びが出たが、「でも何かが変わったりはしないです」。翌週の試合時「今週は静かにやりたいです」。
●杉浦悠太
「冷静に見えます? てんぱってはいるんですよ」
今年初優勝を日本プロで飾ったとき冷静なプレーを評され、「てんぱってはいますよ。あまり表に出さないようにしているわけでもないですが、すぐに集中してよい選択ができるようにしています」。
ずいぶん昔になるが「2位じゃダメなんですか! 」という言葉が注目を浴びた。しかし、「優勝より2位が多くてもいい」と考えることこそ長く続けられるコツかもしれないのだ。
「『自信』だってなくていいんです。自信をつけようとすることは本当に難しいのですから。自信にがんじがらめにならないほうがいい。自分を『強い』とも『上手い』とも思っていないからこそ、力まないし、ムダな執着がなくなるんです」
●竹田麗央
「調子に関して、そんなに波はないんです」
新女王の竹田。
「調子に関しては、少し悪くなることはあっても、そんなに波はないんです。別にミスしても死ぬわけではない、と思ったら、そんなに考えることもなくプレーできています」
するとプレーも早くなり、リズムがよくなったりもするという。
「不思議系」のプロたちは、切り替えが早く、感情の起伏なくプレーしているように見える。
また、「自分のできることをしたい」「海外には行かないです」「準備ができてから挑戦したい」などの発言は、ネガティブなものではないと赤野氏。
「いい意味での『諦め』を持ち合わせているんでしょうね。これは、ゴルフの大敵“考えすぎ”をなくすことにもつながります。淡々とプレーできるから、感情にも波がない。1ラウンド、4日間の力配分も上手くいきます」
●小祝さくら
「ミスしてもあまり何も考えていませんね」
安定感抜群の小祝。切り替えもプレーも早いと評すると「あまり考えないというか、考えてもしょうがないと思っちゃうタイプなので。ミスも深く考えずに試合はだいたい全部終わります」。
●川﨑春花
「(感情の起伏は)意識していません」
不調を乗り越えての優勝時に「今日はずっと自分との勝負と思ってプレーしていました。負けたくないなというのはありましたが、そういう感情を出したらうまくいかないほうなので」。
「情熱がないように見えるかもしれませんが、実は“静かな強さ”でもあるんです。『静中の動』。不思議系の皆さんは、ホンワリしているように見えるけれど、どこかしら“芯”を感じませんか? 欲張らないのは、自分の原点に戻っていけるし、他者に惑わされないから。だから動じないのです」
表面は静かだが、そのなかに、機に応じて動くべく潜んだエネルギーがある。
「不思議系は決してポジティブ思考ではありません。かといってネガティブ思考でもない。どちらにもとらわれていない。だからネガティブな人はここを目指すとよいんです」
ネガティブでもいい加減でもなく“いい塩梅”の不思議系なのである。
ILLUST / Kouki Hashimoto
PHOTO / Shinji Osawa、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara
※週刊ゴルフダイジェスト12月17日号「不思議系のメソッド」から一部抜粋
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みんなのゴルフダイジェストでは男子・女子プロの考え方を紹介した。後編では、我々アマチュアがゴルフを楽しむための考え方・メソッドを紹介している。続きは12月13日(金)7:00に掲載予定。