
座談会に参加した左から森守洋コーチ、大西翔太コーチ、柳橋章徳コーチ、中村修コーチ
2024年は6月2日に笹生優花が全米女子オープンで2度目の優勝を果たし、2位に渋野日向子が入る活躍を見せた。その3週間後、KPMG全米女子プロゴルフ選手権で山下美夢有2位に入る。そして7月半ばのアムンディ・エビアン選手権で古江彩佳がメジャー初優勝。年間で世界のメジャーに優勝者が2人、2位が2人という結果を見ても、日本人女子のレベルは世界の舞台で健闘という段階を優に越えている。

12月に実施した帰国会見後の個別インタビュー時に全米女子オープンのカップを掲げる笹生優花(撮影/南しずか)
実際、前述の結果以外でも、シェブロン選手権では勝みなみが9位タイ。全米女子オープンでは古江が6位タイ、小祝さくらと竹田麗央が9位タイ。全米女子プロでは渋野と西郷真央が7位タイ。エビアンで岩井明愛が10位タイ。AIG(全英)女子オープンでは岩井明愛と西郷が7位タイと、5つのメジャーすべてで日本人女子がベスト10入りを果たしている。もはや、メジャーで誰が優勝しても驚きはない。
2025年の米女子ツアーの賞金総額は約203億円。一方、日本の女子ツアーは約44億3500万円で、日米の差は約4.5倍。今季、挑戦する13人の日本のトッププレーヤーたちは、何が欲しくてアメリカを目指すのか。また、日本人女子プロがメジャーで勝てるようになった理由を考察した。
森: たぶん、アメリカツアーに行ったことがある人はわかると思うけど、観客は本当に少ないんだよね。その意味じゃ、女子ツアーで世界一成功しているのが日本なんです。1番人気があるツアーなのに、いつの間にか賞金額は5倍近くの差をつけられている。
柳橋: まだまだ日本のツアーも伸び代があるということでしょうか?
森: そうそう。
中村: じゃあ彼女たちは何で米ツアーを目指すのか、ということなんだけどね。
森: 5倍の賞金額の差が開いちゃうと向こうでやったほうが稼げるので“賞金”というのは大きいとは思います。でも行こうと思っている選手はお金じゃない。渋野選手がメジャーで勝ったのを見て、自分もより上を目指そうっていう。
大西: 世界のメジャーで勝ちたいっていう気持ちが強いんでしょうね。
森: それが大きいよね。

宮里藍は2005年に開催されたQスクールで2位に12打差をつける圧勝で2006年のUSLPGAツアーのツアーカードを得た(写真は2005年全米女子オープン、撮影/岡沢裕行)
中村 宮里藍選手が『夢』と掲げて実現できなかった全米女子オープンの優勝を、笹生優花選手は既に2度も果たしているわけでしょ。メージャーチャンピオンもこの5年で3人ですよ。日本人がメジャーで勝てるようになったのはどうしてだと思いますか。
森: (2006年に)USLPGAツアーに藍選手が出るようになって、それでも全米女子オープンには勝てなくて。他の選手もUSLPGAツアーに挑戦という流れはあったけど、誰も壁を壊せなかった。そんな中で、渋野選手がぶっ壊して全英女子で勝った。そしたら周りの子たちが、「渋野選手が勝ったんなら自分もいけるかも」っていう思考が脳の中で生じた。そのマインドを持つ選手が渋野選手に続き、続々とメジャー優勝に繋がったわけんだと思いますね。
柳橋: そのデストロイヤーが渋野選手だったわけですね。彼女はナショナルチームでも何でもない選手だったのに、そこからいきなり。
森: だからよけい同世代の脳の中では「自分もできる」という思考が強い。

19年のAIG女子オープンで優勝し「スマイルシンデレラ」と言われた渋野日向子(撮影は24年AIG女子オープン、姉崎正)
大西: 渋野選手や畑岡選手、勝選手をはじめとする黄金世代というのは粒が揃っているというか、彼女たちは宮里選手を見て育った世代。
中村: そう。それが今度は渋野選手を見て育った世代というのが今ドンドン上がってきて、それが竹田麗央選手や川﨑春花選手、桑木志帆もそうだし。よく、20年前と今では選手が得る情報の量や質が違うという意見もあるけど、そういう側面より、森さんが言うように、そういった流れのほうが強いかもしれない。技術的に突然、メジャーに勝てる選手が出てきたってわけじゃないということですよね。
森: そう、以前と今で技術の差はないと思いますよ。昔から、ジャンボさん(尾崎将司)もいたし岡本綾子さんもいた。僕らコーチからみるとシンプルに意識の改革のほうが大きいと思います。自分もできるというか。
中村 たしかに多くの選手はアメリカやスウェーデンといった技術的に先進国といわれる国から直接情報を集めてはいないですからね。

20年夏にトラックマンを購入。その後、めきめきと力をつけ、トッププレーヤーになった山下美夢有(写真は21年7月のインタビュー時。撮影/小林司)
森: トラックマンをはじめ、弾道計測器を使用している女子プロは多くて、自身でスウィングを分析したりしているのは凄いですよね。
中村: トラックマンを使用している選手といえば、山下選手が有名だけど、彼女は小さい頃から振れていたらしいね。スウィングを直したというんじゃなく、最初からああやって振れていたらしい。
森: だから彼女を見ていると答えが出ている。『レッスンは要らない』って。
大西: そうですね。だから彼女はお父さん以外のコーチをつけてレッスンすると下手になるはずです。出来ている子を教えると、ろくなことはありませんから。
森: だから僕らの仕事は、出来上がっている選手に変なコーチを近づけさせないということ。だって山下選手はお父さんと一緒にやって日本で一番良いスウィングになったわけだから。竹田選手もお母さんが見て、お母さんはプロだけど、無駄なことをしていないし、余計な情報を与えていない。それで凄くいいスウィングしているじゃない。
大西: そうですね。
森: トップ選手なんてスウィングのことなんてあまり考えていないじゃん。今は「情報が多すぎて気を付けないといけない」という時代です。情報を選択する時代だから。
柳橋: YouTubeがあれだけ氾濫していて、それで何をやっていいんだかわからなくなったっていうアマチュアの人がよくいますけど。でもプロでも同じことが起きる可能性もあるわけですよね。
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座談会はまだまだ続きます!