勝つためにはやっぱりパッティングが大事
柏原は2019年、2勝を挙げキャリアハイの成績を残したが、それ以降思うような成績が残せずにいる。20-21年シーズンはかろうじてシードを保持したものの22年シーズンでは賞金ランク77位でシード落ち、QTの資格で23年シーズンを戦うもメルセデス・ランキング54位で準シード獲得にとどまる結果に。
そして迎えた昨シーズン、シードは獲得したもののメルセデス・ランキング44位と、決して満足できる結果ではなかった。とは言え、シード権があることは“職場”があることを意味するため、「心の余裕はある」と本人は言う。完全復活を期す今年、柏原は何を課題として、オフの期間を過ごしていたのか?
「パッティングですね。昨年のシーズン中から思っていたんですが、もう少し入ってくれないと上位では戦えないなと。一緒に回った上位の選手は簡単にバーディパットを決めてくる。シードを獲得するにはショット力が大事だと思ったけど、勝つにはやっぱりパッティングかなと思いましたね。そういう意味でいうとショットは年間を通して調子は良かったように思います」
そんな柏原、“生まれて初めて”パッティングのレッスンを受けに行ったという。柏原は昔から自身で考え、分析し、改善策を考えるタイプの選手。ゆえに、コーチをつけることはしてこなかった。現在、ショットは森守洋コーチに指導を受けているが、パッティングに関して言えばいわば完全独学、超感覚派だった。
「今までフィーリングだけでパッティングをやっていたんですが、そこに理論が入ったことで、頭の中でうまく整理ができるようになりました。『今までの感覚ってそういうことだったのか』とか、ただ何となくやっていたパッティング練習が今年はちょっと違う感覚になっている。ラウンドをしてもグリーンで過ごす時間はめちゃくちゃ長くなりましたよ。数字で見るのはあまり好きではなかったんですが、いいこともありました」

センターシャフトを使うのは“小5”以来という柏原。松山英樹からのアドバイスも大きかったと言う
データ全盛の時代、スウィングはもちろん、パッティングのストロークもその傾向になってきている。膨大なデータはわかりやすい反面、“データばかり”見るようになって感覚を失う可能性もはらんでいる。その辺り、柏原はどう付き合っているのか?
「必要最低限の情報しかもらわないようにしています。それに、感覚とはいえ、今までそれなりにやってきた自負があるので、どれが必要でどれが必要じゃないか、そのくらいは理解しているつもりです。だから、自分に必要なものだけをチョイスするようにしています。感覚的にはたくさん引き出しがあったんだけど、本来入っているべきではない場所に入っていたりして、ちょっとバラバラになっていた感じ。それをロジカルな部分を取り入れることで整理できてきたと思っています」
感覚に理論をプラスすることで最も変わったのは“ラインの読み方”だと言う。
「今まで、ライン読みに対しては結構自信があったんです。キャディさんにも読めていると言われていたし。でも、いろいろ計測してみると実は日によってラインの読み方がバラバラだったことがわかったんです。私も詳しくは知らないですが、『このくらいの傾斜に対してはこのライン』っていう、“理論的には”正解があって、それを知ることでいわゆる基準ができるんですよね。ラインを読むときにどこをみるかとかも常に同じになるのでズレが少なくなる。ストロークのせいだと思っていたことが意外とライン読みが原因だったってわかったんです」
センターシャフトは松山英樹の影響も大きい
もうひとつ、劇的な変化といえば“センターシャフト”のパターに替えたこと。聞けば、小学校5年生の頃に使った以来だとか。柏原は『センター=難しい』というイメージが強くあったため、どんなにパターを替えようと思ってもセンターシャフトはそもそも選択肢に入ってこなかった。
「なんでこんな難しいパターを使うのかなぁって見ていたんですが、考えてみたら重心がズレていないし、シャフトが真ん中に刺さっているからどう考えても構えやすいし、振りやすいはずですよね。データを取ると、とにかくセンターが合うストロークをしていたんです。具体的には、アドレス時にフェース面を打ち出す方向に対して真っすぐにしたいのにかぶる癖があるとか、ストロークはできるだけ真っすぐ動かしたいとか」

本来センターシャフトはラインナップにないモデルだが、シャフトを差し替えたプロトタイプのセンターシャフトパター
データ的にはいい。とは言え彼女が大事にしている感覚の部分が合っていなければ変えられないはずだ。 柏原は「先入観をなくしフラットな状態で構えると構えやすい。そして何より打ちやすかった」と言う。さらにもうひとつ、決定打になったのは、松山英樹からのアドバイスだった。
「松山(英樹)さんがセンターシャフトで年明け優勝しましたよね。今までセンターのイメージがなかったのでびっくりしたんですけど、自分がちょうど迷っているときだったので聞いてみたんです。そうしたら『自分が思っているよりも難しくない。むしろ簡単だと思うから使ってみたらいい』とアドバイスをくれて。だから今年はセンターで戦います」

今年はセンターシャフトで戦うという柏原
よっぽど手応えがあるのか、話している口調も軽やかで、早く試合がしたいという感じさえ伝わってくる。復活優勝ができる自信が伺えるが、改めて今年の目標を聞いた。
「試合に出られるかわからない不安の中で戦うことがないのはすごく大きいです。シードにいるということは具体的な目標を決めやすいし、心にも余裕が生まれる。今年はとにかく“海外メジャー”に出場したい。前半戦いい成績を残したり、サントリーレディスで2位までに入ったり、出場の選択肢はたくさんある。でも、どっちにしても前半戦に頑張らないといけないので、そこを目標にやっていきたいなと思っています」
2019年から毎年のようにオフの期間に話を聞かせてもらっているが、これほどまでに自信に満ちていて、具体的な目標を聞いたのは初めてだ。彼女の言葉を聞いていると、オフの充実ぶりが伺える。まずは明日からの開幕戦。スタートは9時50分に1番ホールから。アマチュア時代から仲の良い堀琴音、脇元華との3サムだ。大いに期待したい。
写真/岡沢裕行