グリーンの速さによってゴルフ場を評価できるのか?

2025年マスターズ:「ガラスのグリーン」と謳われるオーガスタナショナルGC(撮影/Blue Sky Photos)
ネットでゴルフ場の評価を見ることがあるが、なかでもグリーンについて書かれているものが多々ある。その内容は「グリーンが遅い」というものだ。
プロの試合ではグリーンの速さを「フィート」で表現するが、各ゴルフ場でも「今日のグリーンコンディション」と書かれている看板を見かける。グリーンの速さは12フィートならそうとう速いグリーンといえ、逆に8.5フィートと書かれていたら比較的遅いといえるだろう。
ゴルファ―の会話の中で「8.5フィートで遅くて参ったよ」とか「グリーンが早すぎて3パット連続だよ」というのをよく耳にする。そして、遅いグリーンのコースは評価が低くなるような気がする。グリーンが速ければ比較的評価が高くなるという傾向もある。
でも考えて欲しい。グリーンが遅いとなぜ評価が低くなるのか、早ければ評価は高くなるのか。プロの試合セッティングでプロが評価するのは理解できるが、果たしてアベレージゴルファーがグリーンの速さだけでコースを評価できるのだろうかといつも思ってしまう。かつてマスターズが行われるオーガスタナショナルGCをプレーしたことがあるが、下りの30センチを外したらそのまま転がり、やがてグリーンの外に出てしまい、再度アプローチをしなければならない、と思いながら何ホールもパットをした記憶がある。当時の日本のグリーン速度から考えれば異常ともいえる速さで、大半のパットはフェースがボールに触れる程度でしかストロークすることしかできなかった。だからといってグリーンのスピードだけでコースの評価をすることはできない。
パー72のコースならグリーンはパー36になり、コースの半分の評価になってしまう。コースの評価は、全体のルーティング、各ホールの造り、トラップなどの配置と大きさ深さなどの工夫、各ホールの印象度、戦略性の高低、周囲の景観や借景など多くの項目による総合評価で決まるからだ。
「グリーンが遅かったから」と嘆くゴルファーに聞きたい。グリーン速度が12フィート、もしくはそれ以上あったら毎ホール2パット以下で入れることができるのですか、と。逆に速くて「参ったよ」ということは速くて手こずったわけだから、それなりに3パットがあったことの証明にもなる。安易にグリーンの速さだけでコースの評価は避けたいものだ。
もうひとつグリーンで気になることがある。ベントグリーンに対してコウライグリーンへの偏見があることだ。ベントグリーンの場合「遅かった、速かった」という会話を同伴プレーヤー同士ですることがあると思うが、コウライグリーンのコースをプレーすると「コウライは遅くてカップの淵でボールが急停止して止まっちゃう」とよく言われる。もし止まってしまうのなら同じようなケースに遭遇したら少し強く打てば入るということになる。毎回のようにそのような状況になるのなら学習しなかったというべきだろう。

写真上:高麗グリーンの鳴尾GC(3番)/写真下:ベントグリーンの廣野GC(2番)
日本を代表するコースに鳴尾GCがある。グリーンは小さめで、採用されている“鳴尾ターフ”は基本コウライ芝だ。コウライグリーンだから「鳴尾はダメだ」という評価はあり得ない。もしそのような評価をするゴルファーがいたらその真意を聞いてみたい。日本の風土気候に合致した芝がコウライ芝で歴史のある古いコースが開場以来大切にしてきたものなのだ。同じことが川奈ホテルの富士、大島コースにも言える。「川奈ってコウライでしょ」と最初から高い評価をしないゴルファーは意外と多い。大島は1928年、富士は1936年の開場で、現在までコウライグリーンを使い続けている。ついでだが、両コースとも現代からすれば全長はかなり短い。だからといって最新クラブ、最新ボールを使っても凄いスコアを記録することはない。
ゴルフの大原則、理念は「あるがまま」だということを思い浮かべて欲しい。ベントだろうがコウライだろうが、ゴルファーは受け入れ自らの技量を発揮して攻略すべきであり、ベントが良くてコウライが良くないという評価は存在しないと思うが。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中