「プロV1」の誕生でシェアが一気に拡大した
今年の全米オープンの舞台は、難攻不落のコースとして知られる「オークモントCC」。そしてUSGAのコースセッティングもその難しさに輪をかける。タイトに絞られたフェアウェイ、約15センチに伸ばされた腰の強いラフ、超高速に仕上げられたグリーン……など。世界のトッププレーヤーをして簡単にダボを叩いてしまう過酷さだ。

今年の全米オープンの開催コース、オークモントCC。コースには180ものバンカーがあるが、世界的に有名なのが、3番と4番ホールの間にある「Church Pews(教会の椅子)」と呼ばれるバンカー。全長102Y、幅は42Yにも及び、選手にプレッシャーを与える
それらを攻略するために必要なのは、飛距離と正確性を兼ね備えたティーショット、締まったグリーンに正確に止めるアイアンショット、グリーンを外した時にイメージ通りに運ぶアプローチ、そして難しい距離を決め切るパッティング。そのいずれもで高いパフォーマンスを発揮するために、出場156人中107人、比率にして68.6%の選手が、タイトリスト「プロV1」シリーズを選択した。2位のボールメーカーは18名(11.5%)、いかに圧倒的な数字かがわかる。
全米オープンでタイトリストボールが使用率ナンバー1の座を初めて獲得したのは、1949年、メダイナCCでの大会。1935年にタイトリストのボールが産声を上げてから14年目の快挙だった。そこから現在に至るまで、一度もトップの座を明け渡していない。
その間には、2000年に誕生した「プロV1」によって、ナンバー1の座だけでなく、そのシェアも加速度的に伸ばしている。

2000年に登場した初代「PRO V1」。ソリッドボールの飛びとウレタンカバーのスピン性能を持ち合わせ、それまでのボールの常識を覆す、高レベルでの「飛んで、止まる」を実現
使用する選手が多ければ多いほど、彼らからのフィードバックが増え、そのフィードバックを次の製品に落とし込む。この繰り返しこそが他には真似することのできない無二の性能を生み出し、それがまた高い使用率につながるというサイクルを作り出している。
「プロV1」と「プロV1x」の使用比率はほぼ半々
そのトッププレーヤーたちの多くが大事だと口にする性能がある。それが「ボールが自分のイメージした“ウィンドウ”を通過すること」だ。ウィンドウとは、プレーヤーが空中にイメージするボールの通り道のようなもの。彼らは、ショットに対して思い通りの弾道を描けるボールを強く求める。これが高すぎたり低すぎたりするボールでは、全米オープンのようにシビアな試合になればなるほど戦えないからだ。

2025年モデルのプロV1、プロV1x。プロV1は今年誕生から25周年を迎えた
もちろん選手によって、イメージするウィンドウは違い、求める弾道もさまざま。今回の全米オープンを見ても、「プロV1」と「プロV1x」の使用比率はほぼ半々。どちらが飛ぶとか止まるとかではない。あくまでプレーヤーが求めるパフォーマンスを最大限発揮するためには、“どちらが適しているか”だ。そしてどちらもティーショットからパッティングまで、タイトリストボールのアイデンティティの一つである“トータルパフォーマンスの高さ”を重視して作られている点はなんら変わらない。
【全米オープン出場:プロV1を使用する代表的な選手】

アダム・スコット(左)、スコッティ・シェフラー(中央)、ビクトール・ホブラン(右)
プロV1使用者:57名/107名
アダム・スコット、スコッティ・シェフラー、ビクトール・ホブラン、キャメロン・ヤング、トニー・フィナウ、コーリー・コナーズ、ハリス・イングリッシュ、ブライアン・ハーマン、クリスティアン・ベゾイデンハウト、バド・コーリー他多数
【全米オープン出場:プロV1xを使用する代表的な選手】

ジョーダン・スピース(左)、ニック・テイラー(中央)、ティレル・ハットン(右)
プロV1x使用者:49名/107名(他レフトダッシュ 1名)
ジョーダン・スピース、ニック・テイラー、ティレル・ハットン、ルドヴィッグ・アバーグ、ブライソン・デシャンボー、パトリック・カントレー、マシュー・フィッツパトリック、ラッセル・ヘンリー、ジャスティン・トーマス、ウインダム・クラーク、キャメロン・スミス、ホアキン・ニーマン、カルロス・オルティス他多数
そしてもう一つのアイデンティティが“均一性”だ。アクシネット社の創業者、フィル・ヤングは、完璧に打ったパットが外れたことに疑念を抱き、そのボールをレントゲン撮影したところ、中心のコアがずれて歪んでいることを発見した。彼は一念発起し、偏心していないボールを開発、発売。それがゴルファーの信頼を勝ち取り、“均一性”はその後のボール開発でも絶対的な性能として掲げられている。均一性に対するタイトリストのこだわりは、高精度の製造技術はもちろん、何重もの検査によって達成されている。
100で上がる人なら100回、72で回る人なら72回、すべてのショット、パットにかかわるギアがボールだ。だからこそすべての局面で最高のパフォーマンスを発揮でき、すべてのボールが寸分違わぬ性能でなくてはならない。それが究極の我慢比べの試合で、77年もの長きにわたりナンバー1ボールとして選ばれ続ける理由なのだ。
プロV1シリーズは全米オープンで13勝
EPISODE1
2001年 全米オープンで「プロV1」が初めてメジャーの勝利に貢献

優勝はレティーフ・グーセン。エルスとともに南アフリカの最強時代を築いた(PHOTO/岩井基剛)
前年の2000年10月に「プロV1」がPGAツアー初優勝を飾ると、翌2001年には使用者が一気に拡大。同郷で同い年のエルスの後を追いかける南アフリカのレティーフ・グーセンも使用を開始。全米オープンでマーク・ブルックスとのプレーオフを制し、メジャー初制覇。3年後の2004年大会も制した。
EPISODE2
2011年、新星・マキロイが全米オープン最少スコアでメジャー初優勝

2011年、破竹の勢いで全米オープン制覇を果たした22歳のローリー・マキロイ。キャリアグランドスラムへの道はここから始まった(PHOTO/姉﨑正)
2007年、注目の中で18歳でプロ入りしたローリー・マキロイ。プロ転向後、メジャー挑戦8戦目となる2011年の全米オープンで優勝を果たした。72ホールの最少ストローク(268)、72ホールの最多アンダーパー(16アンダー)など記録づくめで、2位に8打差という圧勝劇。「プロV1x」がその快進撃を支えた。
EPISODE3
2018年、ブルックス・ケプカが史上7人目の全米オープン連覇

前年に続き、全米オープンを制したブルックス・ケプカ。史上7人目、カーティス・ストレンジ以来29年ぶりとなる同オープン連覇を達成(PHOTO/岡沢裕行)
「イーブンパーの戦い」と言われる全米オープン。2018年の全米オープンも今年同様「忍耐」が求められる戦いだった。タイガーも達成していない、全米オープン連覇を果たしたブルックス・ケプカの優勝スコアは1オーバー。前年の初優勝時には他メーカーのボールだったが、連覇達成のためにケプカが選んだのは「プロV1x」だった。
PHOTO/岩本芳弘