
赤野公昭(メンタルコーチ)
アメリカのメンタルトレーナー、J・ペアレント博士に師事。日本古来の「禅」と欧米の最新理論を融合させた独自のメソッドでアスリートを指導
「自然体で力みがない。アメリカが”ホーム”となった」(赤野)
“ニッポン女子”の快進撃が止らない。今季の米女子ツアーで、初参戦組の竹田麗央が出場5試合目のブルーベイLPGAで2勝目(初優勝は24年のTOTOジャパンクラシック)を飾り、昨年参戦し「新人王」を獲得した西郷真央が4月にメジャーのシェブロン選手権で初優勝、双子の姉妹で初参戦している岩井千怜も5月のリビエラマヤオープンで初優勝した。

西郷真央▶ロレックス(世界女子)ランク・10位/CMEポイントランク・4位(メジャー1勝)
先日の全米女子プロ選手権では岩井千怜が4位タイ、山下美夢有が6位タイ、西郷が4位タイとメジャーも含めて毎週のように優勝争いに顔を出すニッポン女子。見る者はワクワクさせられる。
先陣が流れは作っていた。17年から参戦する畑岡奈紗は通算6勝を挙げ、20年から参戦する笹生優花は全米女子オープンで2勝、22年から参戦する古江彩佳は昨年、メジャーのアムンディ・エビアン選手権で2勝目を挙げている。この強さの理由は何か。まずはメンタルコーチの赤野公昭氏に聞いた。

竹田麗央▶ロレックス(世界女子)ランク・13位/CMEポイントランク・3位(2勝)、岩井千怜▶ロレックス(世界女子)ランク・27位/CMEポイントランク・16位(1勝)
「一番大きいのは歴史の流れ。宮里藍さんを見て育った世代。彼女が世界で活躍する姿を見て、私も
ああなりたいと感じ、19年に渋野日向子選手の全英での優勝を見て『私にもできる』となっていく。十数年で少しずつメンタルの壁を壊してきたのです。一朝一夕にできたものではなく積み重ねです」
「私もできる」効果は、今回聞いた皆さんが挙げたことだ。

左から古江彩佳▶ロレックス(世界女子)ランク・16位/CMEポイントランク・11位(1勝+メジャー1勝)、山下美夢有▶ロレックス(世界女子)ランク・18位/CMEポイントランク・22位、岩井明愛▶ロレックス(世界女子)ランク・25位/CMEポイントランク・32位、笹生優花▶ロレックス(世界女子)ランク・25位/CMEポイントランク・32位Yuka Saso50位・105位(メジャー2勝)
「同じ舞台に仲間が増えたことも大きい。メジャーでも日本選手と一緒に回ることも多いでしょうし、アウェイ感がなくなり、アメリカの舞台もホームにも感じられる。また大谷翔平選手が以前のWBCのとき、『憧れるのをやめましょう』と言いました。憧れてしまっては超えられないと。今の日本の女子選手のプレーやコメントを見ても、アメリカが憧れの場所ではなく勝つ場所になっています」

左から馬場咲希▶ロレックス(世界女子)ランク・138位/CMEポイントランク・61位、西村優菜▶ロレックス(世界女子)ランク・179位/CMEポイントランク・135位、渋野日向子▶ロレックス(世界女子)ランク・78位/CMEポイントランク・72位(メジャー1勝)、畑岡奈紗▶ロレックス(世界女子)ランク・46位/CMEポイントランク・40位(6勝)
また、飛距離の差が減ったことがメンタル面にも影響している。
「飛距離を必死で伸ばそうとするとスウィングを崩したり、何より『力み』につながる。これはメンタル面に悪影響です。男子はここにまだ壁がありますが、女子にはないから伸び伸びプレーできる。また、日本のツアーが4日間の試合を増やしたので、集中力のメリハリをつけられるようになった。皆さん、ボールを打っていないときはすごくリラックスしているようです。

左から勝みなみ▶ロレックス(世界女子)ランク・97位/CMEポイントランク・53位、吉田優利▶ロレックス(世界女子)ランク・105位/CMEポイントランク・82位、
昔は試合でピリピリしがちでしたが、今の若い選手には『楽しむ』という気持ちがあるし、海外選手のように、周りは気にせず自分の世界を大事にする選手が増えてきました。それにプレーのリズムがいいのは考えすぎていない証拠。自然体だからイメージが湧き、右脳的にプレーできる。この観点から見ると、経験が長い畑岡選手などは左脳的になっているかもしれない。渋野選手は左脳的になったりメジャーでは開き直れるからか右脳的になったり。いずれにせよ若い時は感性と勢いがあるので波に乗りやすいけど、よい状態は長く続けられない。誰しも通るその壁で、どう考えていくかは今後大切になるでしょう」
米ツアーの先輩は語る。
「飛距離が出ることが最大の武器です」
上原彩子
日本で10年、アメリカで10年、現在欧州ツアーに参戦中の上原は語る。
「ジュニアの間でゴルフというスポーツの認知が高まり、今まで別のスポーツを選んでいた運動神経が良い子たちがゴルフをするようになったこと、ナショナルチームも私たちの時とは違い、プロのコーチやトレーナなどを海外から迎えプロになるための指導を受けられること、インターネットの普及で上位選手の技術やトレーニングの方法が明確に見られて正しい方向に進むことができること、などがあると思います。女子もパワーゲームになっているなか、私たちと違って海外選手と飛距離の差がなくなりました。竹田さんなんかは海外選手より飛びますし! それに同世代がどんどん挑戦するのでハードルが低くなった部分もあるはず。いずれにせよ米ツアーのレベルが下がったのではなく、日本選手の力が伸びているのは間違いないです」

右 上原彩子
▶森口祐子、辻村明志がプロ目線で語った、米女子ツアーで日本女子が活躍するワケ。
※スタッツは6月25日現在
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Shinji Osawa、Tsukasa Kobayashi、Shizuka Minami、JJ tanabe
※週刊ゴルフダイジェスト7月1日号「ニッポン女子はなぜ、世界の中心に躍り出たのか」より一部抜粋