▶2025米女子ツアーで現在3勝!活躍できるようになるまでの軌跡に迫る!
「レベルアップは平均ストロークを見れば明白です」(森口)

森口祐子(プロゴルファー)
1975 年プロ入り。JLPGAでは通算41勝を挙げ、永久シードを保持。19年日本プロゴルフ殿堂入り。近年では解説者でも活躍、後進の指導も行う
この25年間、特にここ数年で日本ツアー全体のスキルやレベルがアップしていることは、ツアーのスタッツの「平均ストローク」の推移、また72を切った選手の人数を見ればわかります(表)。初めて70を切ったのが19年の申ジエさん。日本人では22年に山下美夢有さんが70を切って以後、3年連続69台で1位。昨年は2位の竹田麗央さん、3位の岩井明愛さんまでが69台。このトップ3の選手は今季から米ツアーに参戦しています。
では、日本人選手がスキルアップしてきた要因は何なのでしょうか。よく言われるのが世代論ですが、それもこの平均ストロークの推移に現れています。04年、05年に70台で2位だった宮里藍さんは
06年に米ツアーに参戦しましたが、この年の1位は大山志保さん、07年は上田桃子さん、09年は横峯さくらさんです。女子プロブームを巻き起こした宮里藍さんと同世代が、この時期の日本ツアーのレベルを中心選手として支えたと言えると思います。
08年の1位は李知姫さんですが、この年以降、19年まで平均ストローク1位のタイトルは、アン・ソンジュさん、全美貞さん、イ・ボミさん、申ジエさんらほぼ韓国人選手が取っています(09年は横峯さくら、18年は鈴木愛)。彼女たちの多くは88年生まれの『パルパル世代』で、90年代後半から
のパク・セリ選手の米ツアーでの活躍を見て育った『パク・セリキッズ』。彼女たちが日本のツアーに参戦し、その実力を発揮したことで日本の選手も刺激を受け、ツアーのレベルの底上げになったことは間違いありません。
李知姫さんが1位となった08年に初めて72を切った人数が10人となり19年の申ジエさんの時は32人、この10年で飛躍的に伸びました。今、米ツアーで活躍しているのは98年生まれの『黄金世代』と、さらにその下の世代の選手。彼女たちは、03~05年の『藍ちゃんブーム』でゴルフを始め、プロになることを意識始める時に韓国の『パルパル世代』の活躍を見ていた世代です。

表/「最初に72を切ったのが具玉姫さん。03年に不動裕理さんが初めて70台を出し、以降、1位の選手はずっと70台。72を切る選手も徐々に増え、08年に初めて10人に。18年に36人、昨年は52人と飛躍的に増加しています」
他に要因を挙げるとすれば、まず試合数の充実です。試合が増えたことで、スキルだけではなくフィジカル面の強化をしないと生き残れないという事情も、良い方向で選手の強化につながったと思います。次に「スタッツ」です。以前は21項目だったのが、今は28項目です。スタッツを見ることで、自分のストロングポイントとウィークポイントがわかるので、どこに力を入れて練習をすればいいのが明確になった。先ほど挙げた平均ストロークの数値も、自分がどれくらいのスコアで回らないとプ
ロとしてやっていけないかという指標になり、励みになったと思います。
もう一つは、JLPGAが設けた「コースセッティング担当」により、協会が依頼してこの十数年来、岡本綾子さん、塩谷育代さん、茂木宏美さんなどが、世界に通用する選手の育成を合言葉に、メジャーを中心に厳しいコースセッティングをしてきたことが、日本女子ツアーのレベルアップにつながったことは間違いないと思います。そのハードなセッティングで、平均ストロークが年を追うごとにアップしているということが今の日本女子選手の強さの証明なのかなと思います。
「高い技術こそどこでも通用する”世界共通語”」

辻村明志(プロゴルファー)
日大ゴルフ部卒業後、プロ転向しアジアンツアーを転戦。上田桃子をはじめ、多くの女子プロを指導。23年レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞
開幕前、様々なところから、「日本人選手はアメリカで通用するか?」と聞かれました。その都度、
「5勝は堅いでしょう」と答えてきましたが、ボクの予想に反し、シーズンが終わってみれば5勝では利かないのではないでしょうか。
畑岡奈紗、笹生優花の両選手はすでにアメリカで実力を証明しているし、2年目となる西郷真央、勝みなみ、今年から挑戦した竹田麗央、岩井姉妹に共通するのは、まずは大きな飛距離と高いボールが打てることです。距離があり、またグリーンの固いタフなアメリカのコースで戦う不可欠な条件を、
彼女らは最初から持っています。一昔前、宮里藍さんや(上田)桃子がアメリカに渡った時代は、欧
米選手が排気量の大きなスーパーカーなら、日本人選手は軽自動車といった感がありましたが、身体的にもヒケを取りません。山下美夢有、古江彩佳らはタイプこそ違いますが、あの精度の高い正確な
ショットは世界が驚いているのではないでしょうか。特にセッティングが難しいなどの条件が整えば、彼女らにも十分にチャンスはある。さらに言えば大舞台で超人的な集中力を見せる渋野日向子と、役者もそろっています。
加えて日本人選手に共通するのが、繊細なショートゲームです。これまで日本人がアメリカに渡って一番苦労したのが“芝に慣れること”でしたが、彼女らは1年目から即座に順応しています。国土の広いアメリカの場合、コースによって違う気候や芝に対応しなければなりませんが、特にショートゲームで見せる日本人の繊細で多彩な技術がこれを可能にしていると思います。スポーツには心技体が求められますが、皆に共通する堂々とした戦いぶりを見ていると、そのベースは高い技術だと感じます。だから心も強くなるし、強くいられるのでしょう。日本人選手は飛距離を伸ばさなくては、芝に対応しなくては……と、“よそ行きのゴルフ”を身につけようと躍起になっていましたが、自分のゴルフに徹することのできる強い心は、高い技術があってこそ。今の選手はスウィングに悩むことが、まずないのではないでしょうか?

飛距離が出て小技も上手い。「アメリカに渡った選手を見ていると、ショートゲームに難のある選手がまずいません」
ひと昔前ならゴルフ以前に、言葉や食事に慣れることが世界で戦う日本人に求められる条件でした。
しかし、松山英樹選手やメジャーリーグの大谷翔平選手を見ても、日本語で話すアスリートが増えた
と感じます。そこには日本人選手が増えた、家族や日本人スタッフによるサポート体制の充実……と
いった条件もあるのでしょうが、高い技術こそどこに行っても通用する“世界共通語”です。
日本のゴルフが世界で通用するようになった背景には、何よりジュニア世代の育成の成功があります。底辺の拡大による競技人口の増加はもとより、ナショナルチームに代表されるJGAによる科学
的な強化策も世界最先端であることは間違いない。
16年のリオ五輪からオリンピック競技になったことも大きいし、また女子ゴルフに関しては、それを支える国内プロツアーの盛り上がりもあります。国内ツアーが空洞化するとの意見もありますが、それは杞憂だと思います。ヤマハで6/6、スタジオアリスで5/12、ヨネックスで3/4。これはマンデートーナメントから本戦出場権を得たアマチュアの割合。ほとんどがジュニア世代であり、次なる世界で通用しそうなスター選手が輩出されています。ジュニア世代に与えられるこのチャンスは、日本の女子ゴルフを支える原動力にも。ジュニアの時代から国際大会を経験する選手も増えています。もし男子ツアーとの違いがあるとすればこの辺かもしれませんが、男子もゴルフを始めた時から世界を見据え、松山英樹に続けとばかり中島啓太、桂川有人、久常涼……など、世界を舞台に戦っている選手も増えている。時間差はありますが、女子の活躍の流れはやがて男子にもつながっていくでしょう。同世代の活躍は、アスリートには成長のための大きな刺激ですからね。
▶宮里藍、渋野日向子の活躍はやはり大きいと、解説者は語るが…。
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Shinji Osawa、Tsukasa Kobayashi、Shizuka Minami、JJ Tanabe
※週刊ゴルフダイジェスト7月1日号「ニッポン女子はなぜ、世界の中心に躍り出たのか」より一部抜粋