▶2025米女子ツアーで現在3勝!活躍できるようになるまでの軌跡に迫る
▶森口祐子、辻村明志がプロ目線で語った、米女子ツアーで日本女子が活躍するワケ。
「『シナジー効果』と『ライバル効果』」(佐渡充高)

佐渡充高(TV解説者)
上智大ゴルフ部卒業後、ゴルフ記者に。長年にわたり世界のゴルフを取材。NHKのゴルフ解説者を務めた後、現在はBS10で解説を続ける
日本の女子プロたちがなぜこんなに強くなったのか? 彼女たち「心・技・体」の3つの要素、それに「シナジー効果」と「ライバル効果」について、それぞれ分析していきたいと思います。
まずは「技」から。技術というのは、そんなに遠くない昔は、師弟関係で、先生から教わるという代物でした。それは“伝授”として一方通行的なものでした。これがここ10年くらい――内藤雄士らが嚆 矢(こうし)――米国で学んだテクノロジーを伝えるプロを教えるコーチが出現。これによって感覚+身体工学を理路整然と語れるようになったということです。一方通行ではなく、理論をキャッチボールしながら。これにはスマホやトラックマンといった映像による解析が寄与していると思います。
「体」についても同じで、米国で学んだトレーナーが科学的にフィジカル面を強化していきました。優れた技術の方法だけでなく、それを実現できるフィジカルをと。女子でもトレーニングの大事さを理解していったのだと思います。
さて、いちばん大事な「心」ですが、これは宮里藍効果に遡るとみています。藍はAIとも読め、AI効果といいかえてもいい。155cmの身体で米女子ツアーで9勝を挙げ、2010年には世界ランク1位を11週間保持し続けました。日本の小柄な女子プロでも、海外で活躍できる、このことを知らしめた効果は大きかったと思います。宮里に憧れをもった女の子たちが、現在活躍している黄金世代、プラチナ世代の選手たちでしょう。先人である岡本綾子の米ツアー挑戦は30歳の時。小林浩美は27歳。宮里は21歳で渡米。その年齢のインパクトは、子どもたちにとって大きかったと思います。さらに渋野日向子がメジャーの全英女子オープンを獲ったことで、「自分たちでもできる」という心をさらに衝き動かしたのではないでしょうか。

年に世界ランク1位となった宮里藍と、19年に全英女子オープンで日本人として42年ぶりにメジャー勝者となった渋野日向子。憧れ、目標の存在となった
次に「シナジー効果」と「ライバル効果」について考察します。今、LPGAで出場権を持っている選手は13人います。先頃の全米女子オープンでは日本勢が21人出場しました。2~3人出ている頃とはシナジー効果がまったく違う。お互い助け合い助言し合うという関係がシナジー効果ですが、これだけ出場人数が多ければ、1+1が4にも5にもなりえます。同時にライバル心も芽生えるでしょう。
「あの人が勝てるなら私だって……」という現象。一時期の韓国勢がそうだった。日本勢の勢いはこれからも続くでしょうね。話は変わりますが、米男子ツアーでもシナジー効果、ライバル効果が現出している国があります。カナダです。日本男子ツアーでも海外組が5人いる。もっと増えていけば、2つの効果が現れてくると思います。
「米ツアーのセッティングに合ったゴルフ」(レックス倉本)

レックス倉本(解説者、プロゴルファー)
名古屋GC和合C所属。オクラホマ州立大を経てイーストテネシー州立大ゴルフ部で活躍。アメリカで解説者、レポーターとしても活動
ニッポン女子は宮里藍が出てきてからいい感じでコンスタントにレベルアップを続けています。育
成では、技術面もトレーニング法も海外のメソッドを取り入れてきました。日本人には勤勉さがあるから、向かう方向性が正しければ上手くいくんです。道具もよくなったし、世界中にほぼ時差なしで
情報が広がりますしね。
今の米女子ツアーに各国の選手が増えたのは、米の大学に世界の選手を集めているから。しかし実
際、観客は日本ツアーのほうが多いんですよ。でも、スポンサーはPGAツアーと同じような企業を
しっかり得て、LIVゴルフのお金も取り入れたり欧州女子ツアーとも連携したり、ビジネス的に上手くいっている。コミッショナーが、グローバルに考えているんです。
当然、アメリカにも自国選手びいきはありますが、韓国、次いでタイゴルファーの活躍が、アメリ
カのファンに免疫を付けてくれた部分もあるかもしれない。でも今の日本選手は、ファンとのコミュ
ニケーションの仕方がすごく上手いし、ファンサービスもよく、心遣いもあり人気があります。これ
も“ホーム感”につながっている。韓国勢が席巻していたときは、閉鎖的なコミュニティーのようにも見えましたから。渋野は特に人気がある。声援は大きいし、それを味方に付ける才能もある。だからギャラリーが多いメジャーに強いのかもしれません。
女子の成長カーブのほうが男子より早い。ここ何年も米女子ツアーの選手の平均は25歳くらいで、
男子は30歳くらいなんですよ。だから日本の若い選手が活躍するのは当然です。それに、女子は日本のほうがコースがきれいですし、距離もセッティングもアメリカのコースとそこまで差はない。男子はまったく違いますから、経験値が圧倒的に少なくなりゲームの構築がひと回り小さくなるんです。
「疑心暗鬼はなし。今や勝つために行く」(タケ小山)

タケ小山(プロゴルファー、TV解説者)
18年間米国でミニツアーを回りながらゴルフビジネスにも携わる。現在は解説者、テレビやラジオのパーソナリティ、イベン
日本女子プロたちがLPGAの中心にいる現在の状況は、渋野日向子の全英女子オープンの勝利が魁になったと思います。だってその時の渋野は日本でまだ天下をとったわけではなく、単なる新進の選手だった。「彼女ができるなら、私だって……」との気持ちが芽生えるのは当然だと思います。その後、古江彩佳がメジャーのアムンディ・エビアン選手権で優勝し、「あの身体(153cm)、あの飛距離でも勝てる」ことを証明したのは、衝撃的であったと思います。当人たちにとっても、それまで海外遠征しても参加するだけとか、どこまでやれるかと疑心暗鬼の気落ちが強かったと思いますが、今や勝つために行く。この自信に満ちた挑戦欲は選手自身を強くしています。
やはり国内女子ツアーの厳しさが彼女たちを逞しくしているのは間違いない。シード50人、試合参加人数100人前後、プロテスト合格20人前後、完全に「閉鎖的プロスポーツ」の形。これで技術力、精神力が上がらないわけがない。ただ身体は疲弊してボロボロになる選手は出てくるでしょうね。
女子プロの“力”が上がった要因とそれに伴うネガティブな面、課題などを挙げていきましょう。
①以前は江連忠はじめ数人でしたが、コーチングできる人材が増えてきた。JGAのナショナルヘッドコーチへの薫陶などを挙げてもいい。ただし未だ“親バカ”が多いことを指摘しておきます。
②通信教育が増えてゴルフ漬けでゴルフの腕前は確かに上がったと思いますが、コミュニケーション能力が低下したことは否めません。
③米女子ツアーは国際ツアーの様相を呈しています。年間35試合中、11試合は海外、しかもメジャー級ばかり。国際的になれば、米国内選手を守るという意識は薄れ、それだけ日本選手にもチャンスが出てくるといった構図。また男女格差を嫌う米国は賞金額の男女差をなくそうと必死。国を挙げてのバックアップがあります。
④国内の空洞化は確実に進みます。賞金額と技術、どれを取っても今の大和撫子なら稼げますから。プロテスト20人の廃止を早くしなければ国内ツアーはジ・エンドですよ。今いちばんJLPGAがやるべきことは人材確保です。
⑤現在の韓国は、以前の日本と同じで自国ツアーの繁栄で外にあまり出ません。しかし、賞金額の格
差が広がれば世界中の才能ある選手は米国を目指すはず。ツアーのグローバル化で日本、韓国ツアーの繁栄も止まるかもしれません。
⑥男子と女子を比べてその差は小さい。今、米ツアー出場は5人。来年はもっと増えるかもしれません。
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Shinji Osawa、Tsukasa Kobayashi、Shizuka Minami、JJ Tanabe
※週刊ゴルフダイジェスト7月1日号「ニッポン女子はなぜ、世界の中心に躍り出たのか」より一部抜粋