ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、ミズノオープンで念願の初優勝を飾った阿久津未来也について語ってもらった。
画像: ミズノオープンで念願の初優勝を飾った阿久津未来也

ミズノオープンで念願の初優勝を飾った阿久津未来也

この大会で初めてコースセッティングを担当し、ティーとピンのポジションを決めることが主な仕事でした。会場のJFE瀬戸内海GCは瀬戸内海に面する日本屈指の本格的なリンクスコース。林間コースであればティーの位置もピンポジションも若干の変更で対応できますが、リンクスで真逆の風が吹くと、フォローとアゲンストの差が大きすぎ大幅な変更が求められる。加えてグリーンは傾斜が強く硬い。

真逆の風だと当初予定していたピンポジでは難しすぎ、かといって“全英への道”と銘打っている通り、簡単すぎるわけにもいきません。5月は南寄りの風の多い瀬戸内海ですが、今年は低気圧の関係で真逆の北寄りの風。金曜日は確か北の風1~2mの予報。瀬戸内海は予報よりも強く吹くことが多いので北4~5mになることも想定しながらピンやティーの配置を決めたら、午後から7~8mの南風になり、午後組にとって極端に難しいコンディションに。土曜日は予報と同じ向きではありましたが予報をはるかに上回る強風になったため17番ではティーショットでフェアウェイまで届かないということにも。天気予報などの情報を信じてやるしかないので仕方はないですが、改めて瀬戸内海のような遮るものがない場所でのセッティングは難しいと痛感しました。

画像: 難コースを制した30歳の阿久津

難コースを制した30歳の阿久津

さて、その難コースを制したのが30歳の阿久津です。強風に見舞われた3日目を68にまとめ首位に立つと、「明日も風が吹いてほしい」とコメントしました。低スピン、中弾道のローボールの持ち球とキレのあるアイアンショットの自信が、こんな言葉になったのかもしれません。余談ですが瀬戸内海GCで行われるミズノオープンは日本ツアーで最も長い距離の大会。OBの恐怖もなく、見た目の広さから飛ばし屋有利と思われがちです。

ところが過去の優勝者を見ると、手嶋多一、キム・キョンテ、木下稜介、平田憲聖ら、飛ばすよりアイアンのコントロールが上手い印象の選手が勝っています。阿久津もまたその一人です。

ボクが初めて彼のプレーを見たのは18年の房総CCでの日本プロ。谷口(徹)さんが優勝した大会で、最終日には阿久津も一時は首位に立ち、結局6位でフィニッシュしています。この時は正直、「誰だ?」という感じで調べて見ると、日大時代の16年に日本学生を取っており、「こういう選手がすぐに出てきて簡単にシードも取っていくんだろうな」と思ったものです。

日本学生優勝後にプロ転向。17年にプロテストに合格し、その年の12月の新人戦でプロ初優勝を飾ります。日本プロは、この新人戦優勝で勝ち取った出場権でした。翌19年は2部ツアーである当時のABEMAツアーを主戦場とし、ランク9位となり翌年のレギュラーツアーの出場権を獲得します。もっともレギュラーツアーも12試合に出場し8試合で予選通過、ランク71位でシード権まであと一歩と迫りました。コロナ禍の20-21シーズンは、ランク27位で順調にシード権を獲得します。22年は49 位、23年は27位、24年は21位と、この3年間はシード選手として安定した戦いぶりです。

しかし優勝にはなかなか手が届かず、また下の世代が次々と初優勝を成し遂げる状況にあって、当人には不安や悩みもあったことでしょう。3月には30歳になり、中堅と呼ばれる年代にもなりました。

3年前からドラコンの山崎泰宏プロに師事しスウィング改造に着手。昨年のミズノオープンの覇者、木下稜介も指導を受けているそうです。阿久津の目的は飛距離を伸ばすためではなく、ツアーで勝てるスウィング作りだったそう。実際、見た目にはそれほどスウィングが変わったように見えないし、飛距離が飛躍的に伸びたわけでもない。でも、その辺が阿久津の魅力。自分のゴルフをしっかり持っており、それを貫くのです。

今年も優勝者インタビューを担当。歳のせいか涙腺が緩くなっています。昨年、号泣した木下のインタビューでは思わずもらい泣きしそうになり、今年は気合いを入れて臨みましたが、阿久津は初優勝でもまったく涙を見せず、自分の優勝の喜びよりも、男子ゴルフの未来について語りました。選手会から選出されたJGTOの理事メンバーという立場もあるでしょうが、この辺が彼の人間としての魅力であり、多くの選手から信頼される理由でもある。表彰式の優勝者スピーチのところで涙を見せていましたが、JGTOとスポンサー、選手が協力して男子ゴルフを盛り上げようという思いを優先させたからでしょう。初の海外挑戦、全英オープンも楽しみです。

◆参考ポイント=トップで一度止める練習。エネルギーがたまりタイミングやテンポが整う

画像: トップで一瞬、止まるような動きを練習などで取り入れても効果的

トップで一瞬、止まるような動きを練習などで取り入れても効果的

(阿久津の)動きは独特ですがテンポがよいスウィング。深く体とクラブを回し、トップで一瞬、止まるような動きを見せます。ここでためたエネルギーをインパクトで最大限にボールに伝える。実際に真似るのは難しいとしても、練習などで取り入れても効果的。

ミスは、トップの切り返しが浅く早くなることで起きるもの。トップで一度止めることは、エネルギーをためることにも、切り返しのタイミングやテンポを整えることにもつながると思います。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa

阿久津未来也のウェッジショット連続写真(撮影/姉崎正)

全英行きを決めた阿久津未来也

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