今年で4回目となる障害者ゴルフの世界大会、「アダプティブオープン~U.S. Adaptive Open Chmpionship」が、メリーランド州のロックビルにあるウッドモントCC(2025年7月7~9日)で開催されました。この大会は、USGA主催の大会であり、R&AとDPワールドツアー共催の「The GD4 Open」と同様、世界から障害者ゴルファーのトップランカーが集まる大会です。
この大会について、日本障害者ゴルフ協会の石塚義将さんに聞きました。
「U.S. アダプティブオープンは、全米ゴルフ協会(USGA)が世界で初めて主催した障害者ゴルフのメジャー大会です。その意義は非常に大きく、全米アマチュア選手権などと並び、障害者ゴルファーにとって夢の舞台といえる大会。出場すること自体が一つの目標となり、世界中の選手にとって憧れのトーナメントとなっています。

今年のU.S.アダプティブオープンを伝えるインスタグラム。キップの史上最少ラウンドスコア「61」を称え、優勝カップを持って3連覇を喜ぶキップを全米アマで3連覇したタイガー・ウッズと並べる粋な発信
さて、欧州と米国、それぞれの障害者ゴルフの在り方には明確な思想の違いがあり、それが競技全体の多様性を生んでいると感じています。
欧州ではパラリンピックを見据えた競技構成が中心にあり、世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)」とIPC(国際パラリンピック委員会)基準に準拠したトーナメントが体系化されており、G4Dオープンに出場するには世界ランキング上位であることが条件です。
一方、USGAは、あくまで『真のメジャー選手権』という独自の価値観のもと、全米オープンや全米アマと同様に、予選会を通じて出場者を決定しています。この手法はシンプルでわかりやすく、誰にでもチャンスがある開かれた競技という印象を与えます。ただし、現状では予選会がアメリカ国内のみで行われており、海外選手にとってのハードルは高めです。それでもなお、出場すること自体が大きな価値となるトーナメントです。

フィニッシュが独特な形になるのはキップの“個性”。日々の鍛錬の賜物だ。正確なショットとマネジメントで、常に安定感あるプレー
どちらが優れているという話ではなく、異なる思想があるからこそ、それぞれの魅力が際立ち、障害者ゴルフ全体の発展につながっていると考えています」
日本選手は一昨年3人、昨年は1人出場しましたが、今年は0人。アメリカ本土のみで「予選会」を行うことに、やはり参加の“壁”はあるようです。
さて今年、男子の部で優勝したのはロバート・キップ(27歳・イングランド)。3連覇達成です。なんと初日に大会記録の最少スコア、32・29の「61」を叩き出しての勝利。筆者もキップを何度か取材したことがありますが、とてもユーモアと知性が溢れる好青年です。しかし、ゴルフはとにかく上手い! 常に冷静に自分を分析する姿も印象的でした。

昨年のG4Dオープンで優勝しスピーチするキップ。コメントの内容はいつもウィットに富んでいて……そして、なんだか深い!
キップの障害は「脳性麻痺」。症状は下肢の筋肉が固まったりすることだと言います。ゴルフを始めたのは2歳のとき。ゴルフが好きなお父さんと一緒にいたかったのが理由だそう。
「足の痛みやバランスが取れず、斜面からのショットや飛距離が出ないことに難しさを感じますが、カバーするためにストレッチやウォーキング、ジムに行ったり、理学療法士にマッサージしてもらったりします。こういう大会で同じような障害の方に会ったり、年上の方とも楽しめるのがいい」と自己鍛錬を怠らないキップ。好きなコースは“ホーム”のリンクスコースだそうです。
「アメリカのコースはボールを高く上げて落とすことが必要ですが、リンクスは転がすことが大事。目標はプロになり、メジャーな大会で勝ちたいです。ゴルフはハンディキャップゲームなので、障害があっても、健常者に勝てます。そういうところにも楽しみを見つけてほしいですね」
プロゴルファーでもある前出、石塚さんは語ります。
「キップと初めて出会ったのは、2021年のスコットランドでの大会でした。あのときすでに彼は1日で6アンダーというスコアを出しており、その才能の片鱗を見せていました。特にショット力は群を抜いていて、プロやツアープロでさえも太刀打ちできないと感じるほど。まさに天才的なゴルファーだと思います。彼の素晴らしさはプレーだけではありません。人と話すことが好きなようで、数年前のちょっとした会話の内容まで覚えていたり自分から大会関係者に話しかけたりするなど、人とのコミュニケーション力にも優れた選手です。トッププレーヤーでありながら、そうした気配りや親しみやすさを持っているのが、彼の魅力だと思います」
ゴルファーたるもの、こうありたいと思いますよね。
そういえば、今年5月のG4Dオープンでは、手術後の痛みのため自身は試合を欠場し、それでもライバル、クリス・ビギンズ(28歳・USA)のキャディをしていたキップ。今回のアダプティブオープンに出場するため大事を取り、リハビリがてらやったそうです。

今年のG4Dオープンでは優勝したビギンズの隣で真剣にアドバイスをしていた。人のプレーを見て学び、自身のゴルフの糧にする
「今までプレーヤーとしてやってきて、正直自分のプレーに集中していて人のゴルフを見たことがなかった。友情を再確認できましたしね。僕がアドバイスしたショットは全部、林の中に入ってトラブルショットに。でもそこからいいショットを打っていましたよ。彼の潜在能力を僕が引き出したんじゃないかな(笑)」と洒落た答えを返してくれたキップ。
そのままビギンズはイギリスで優勝しましたが、“相棒”のキップも、今度はアメリカで自身の目標をしっかり達成したのでした。
PHOTO/Yasuo Masuda