今のアイアンはPWまでフルショット前提に作られている
GD 7月11日にタイトリストから2025年モデルとなる「Tシリーズ」アイアンが発表されました。今回の「Tシリーズ」では違うモデルを組み合わせた「ブレンドセット(いわゆるコンボセットのこと)」も注目されています。実際、PGAツアーではストロング系の中空アイアン『T250』をロングアイアンに使用しているという情報も流れています。
コンボセットに関してはもう10年以上前になりますが、「ミズノ」が推奨し一時ブームになったことがありました。今回は注目度の高い「タイトリスト」だけに、コンボセットが再注目されるのではないかと思うのですが。
長谷部 「ミズノ」のコンボセットはすごく憧れましたね。かっこいいし、養老カスタムモデルですし、理にかなっている。上級者、競技志向のゴルファーの心をくすぐるアイアンだったと思います。でも「ミズノ」のコンボの目的がマッスルバックだとロングアイアンがしんどいから、その代わりにキャビティを入れるという簡単な話でした。
最近のツアーの傾向でいうと、あえて番手を重ねている組み合わせが目立つので、その辺が非常にユニークです。金谷拓実プロのような、「飛ぶ5番」と「飛ばない5番」を選んで正確な距離を生み出すための組み合わせる発想は面白いですよね。
GD アマチュア目線からすると、アイアンのストロングロフト化によってショートアイアンが飛びすぎるために、やさしくなっているはずなのにスコアが良くならないという傾向があります。それを解決する方法のひとつに「コンボアイアン」という考え方があります。下の番手はスコアメイクのために普通のアイアンでもいいんじゃないか。
また、ゴルファーのプライドを守るために“150ヤード飛ぶ7番アイアン”を入れている。スッキリ「5~PW」というようには並んでいなくても、金谷プロが5番アイアンを2本入れるように、アマチュアは7番アイアンを2本、「飛ぶ7番」と「普通の7番」という考え方でもコンボになるような気がします。
長谷部 ユーティリティのハイロフト化という話も片や横で走っているところがありますが、150ヤード以上の距離はアマチュアにとっては難しいので、ひとつの解決策として7番アイアンを2本入れることは十分考えられます。
GD 実際に150ヤード飛ぶ7番と、150ヤードに満たない7番ってどれくらいの差がありますか?
長谷部 番手が同じ7番でもロフトは4度くらい平気で違うモデルが併売されています。かつて150ヤード飛んでいた人が飛ばなくなったけれども、今の7番は32度でも使い慣れているから変えたくない。
でも150ヤードを6番で打つとなるとしんどくなるから、同じ長さの7番でなんとか対応できないかというところで、27~28度ぐらいのロフトの立った7番を1本入れることが可能ならば、やってみたいなと思いますけどね。
GD これを成立させるには「アイアンの単品売り」という大問題があって、例えばアイアンセットで6番、7番を使いたいがために、8番から下を捨てることになってしまう。実際、アマチュアにとってコンボセットは現実的ではないかもしれない。
長谷部 現実的ではないですが、「ピン」が唯一「単品販売も可能です」と公言している(※)ので、「ピン」のアイアンだとそれができるのかもしれません。それ以外はなかなか単品1本で買うことはどのメーカーも難しくて、紛失したとか特別な理由がない限り、単品アイアンは特注でも作ってくれません。最近5番アイアンの単品販売が出てきていますけど、7番は中核のアイアンなので1本では買えないですよね。
※タイトリストも最新Tシリーズから①フィッティングした場合、②タイトリストの自社サイト、では単品購入が可能
GD 「ミズノ」のコンボが流行った時は、メーカー主導でセット売りしていました。
長谷部 そうですね。セットで売りましたよね。ちょっと話がズレちゃうかもしれませんが、先日女子ツアーで優勝した佐久間朱理プロは6番アイアンだけ別のモデルを入れていました。『ブループリント』のセットに6番だけ新しい『i240アイアン』を入れて自分の求める弾道に合わせる。これはプロだからこそできるセッティングですがアマチュアは憧れますよね。
GD 違うモデルのアイアンを1本だけ入れる。それだけアイアンの性能に差があるということですよね。
長谷部 セット内できちんとフロー設計ができていれば、アマチュアのニーズは満たせるはずなんです。きちんとアマチュアのヘッドスピードやミスヒットに合わせてロフトが何度なのかというところを考えて、重心設計をするといった工夫をヘッド設計上でやっておけば、こういうことは起きないでしょう。
しかし、なんとなくこれまでも歴史的にフェース形状の流れとソール幅の流れで違和感が生じないようにフローさせることがアイアンの設計にはあったので、極端にソール幅を広げたりとか、シャローフェースにしたりできていないんですよね。
例えば0.5ミリピッチで動いているとしたら、フェースの高さも0.5ミリピッチでズラすとか。美しい設計みたいなメーカーのこだわりが根底にあるので、それを取っ払って機能重視でフィーリングを多少犠牲にしてフェース設計とかソール設計をしたら、そういう悩みに応えられるセットができるかもしれないです。
GD 昔のアイアンは8番アイアンがショートアイアンとミドルアイアンのつなぎで、“8番アイアンがよくできているクラブが良い”と言われていましたが、最近はあまり聞かなくなりました。番手に関係なく全体的に馴染むようになってきたので設計が良くなったということですか?
長谷部 設計というよりも、好みが変わったと言ったほうがいいと思います。昔だと8番でもロフトが寝ていたりしたので、ハーフショットをすることもありました。最近はPWでもフルショットする人が増えてきたので、PWのトップブレードもストレートになってきている傾向も含めて、これはもうスウィングの変遷と好みが影響していると思います。
いずれにしてもどこがフルショットとハーフショット、もしくはコントロールショットの境目なのかを考えたときのセットの形状と重心位置は、またちょっと変わってくるはずなんですよね。
GD そう言われると、今のストロング化したアイアンは全体的にフルショットすることを大前提に設計されているように感じます。
長谷部 そうですね。アイアンはほぼフルショット前提の設計に変わってしまっていると思うので、PWの形状も変わってきましたし、コントロールを意識したゴルファーは、ウェッジ形状をベースに作られた46度、48度がチョイスされる時代になってきているということになります。