ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、7月のジョンディアクラシックで、PGAツアー2勝目を挙げたブライアン・キャンベルについて語ってもらった。
画像: 「アスリートに見えない風貌、”一番飛ばない”のに勝負強いなどの意外性があるキャンベル。『ゴルフを楽しむ』というスポーツの大切な基本を改めて教えてくれた選手でもあります」(佐藤プロ)

「アスリートに見えない風貌、”一番飛ばない”のに勝負強いなどの意外性があるキャンベル。『ゴルフを楽しむ』というスポーツの大切な基本を改めて教えてくれた選手でもあります」(佐藤プロ)

2月のメキシコオープンに続き、7月のジョンディアクラシックで、PGAツアー2勝目を挙げたブライアン・キャンベル。32歳と年齢的には中堅ですが、昨年、コーンフェリーツアーで7位に入り、8年越しでPGAに復帰した“ほぼ新人選手”です。

ジョンディアクラシックは、PGA通算41試合目でしたが、これまでに予選通過は17試合で、トップ10フィニッシュはわずかに2試合。その2試合が今シーズンの優勝というのですから、極めて珍しいことです。カリフォルニア・ニューポートビーチ生まれ。アスリートというよりは堅実なビジネスマンに見えますが、父は元プロのアイスホッケー選手、母はバレリーナ、兄はMLBのフィアデルフィア・フィリーズにドラフト指名された元プロ野球選手というアスリート一家に育ちました。

子どもの頃、夏休みを父の故郷であるカナダのケベックで過ごし、9ホールのコースでプレーしたのがゴルフとの出合いです。その後、メキメキと力をつけ、ジュニア時代は同じ州のパトリック・カントレーやザンダー・シャウフェレらとしのぎを削りました。大学はカリフォルニアを離れ、マイク・スモールがヘッドコーチを務めるイリノイ大を選びます。1年からレギュラーとして活躍し通算4勝、オールアメリカンにも2度選ばれています。3年次には平均ストローク71.08で、スティーブ・ストリッカーなどを輩出した名門たる同大の記録を更新しました。

前後して2、3年次の14、15年には全米オープンにも出場。マスターズに続きジョーダン・スピースが優勝したチェンバーズベイでの15年大会ではローアマにも輝きました。そしてこの大会を最後にプロ転向します。16年は当時の下部ツアーであるウェブドットコムツアーで2位が2回、ランクも15位となり難なくPGAに昇格。

しかしルーキイヤーとなった17年は、20試合に出場して予選通過は7試合、ランクは180位でPGAの厚い壁に跳ね返されました。以降、17年から20-21年シーズンまで3シーズン下部ツアーで戦いますが、75位、30位、98位と昇格には至りません。しかも21年のQスクールはセカンドステージで失敗、翌22年はコーンフェリーツアー出場わずか3試合と、かつてのエリートもどん底を味わいました。当然、この年もQスクールに行く以外にはありません。

さて、今回の優勝インタビューで、復活のターニングポイントを聞かれたキャンベルは、このQスクールの出来事を答えました。それはセカンドステージ初日のパー3で「8」を叩いたときのことです。その夜、ホテルで自問自答した彼が導き出したのが、「何が起きても全てを受け入れよう、そして自分を信じよう」ということでした。優勝インタビューでは、「このときから自分は生まれ変わった」と言います。2日目、彼は8アンダーを叩き出し再びコーンフェリーで戦えるように。そして23年は75位でシード権を獲得。昨年は優勝こそなかったものの2位が3回で、ランク7位で今シーズン、8年ぶりにPGA復活を果たしたというわけです。

画像: 平均飛距離276.6ヤードは174選手中174位の最下位で、270ヤード台はキャンベルただ1人

平均飛距離276.6ヤードは174選手中174位の最下位で、270ヤード台はキャンベルただ1人

それにしてもキャンベルの2勝には、不思議な縁を感じます。2月、初優勝したメキシコオープン。昨年、優勝したのはジェイク・ナップでした。彼は一度はゴルフの道を諦め、バーで用心棒をしていたという変わったプロフィールの持ち主です。実はナップとキャンベルは同じ練習コースの出身で、コロナ禍の20-21年、一緒に暮らしていたルームメイトでもあったのです。

当時、2人はまさにどん底で、ゴルフから“足を洗おう”と思っていた時期。同じ悩みを抱えたルームメイトの存在は支えでもあったでしょうし、何よりナップの優勝が大きな励みになったことは間違いありません。そして2勝目のジョンディアクラシックは、10年前、彼にとってPGAのプロ初戦となった試合。学生時代を過ごしたイリノイ州のTPCディアランが会場のため、大会前、彼はイリノイ大に足を運び、学生たちと一緒に練習をしました。そして10年の時を経て、優勝で恩返しをしたのです。優勝後のインタビューで「今、苦しんでいる選手に言えること」を聞かれ、「自分にとって効果があったのは、子どもの頃にやっていたことを信じること」と。彼にとってそれはゲームを楽しむ、楽しくプレーすることだったようです。

もうひとつ注目したいのが、彼の飛距離。平均飛距離276.6ヤードは174選手中174位の最下位で、270ヤード台はキャンベルただ1人。

初優勝のメキシコは飛ばし屋有利のコースで、一番飛ぶアンドリッチ・ポトギーターをプレーオフの末に下しました。“一番飛ばない”キャンベルがさらに結果を出す──皆さんも密かに期待してしまうのではないでしょうか。

◆参考ポイント=左手首の角度を変えずにショットの精度を磨く

画像: 左手首の角度を変えずにショットの精度を磨く。「手首の角度を変えないことを意識し、腰の高さ、胸の高さで地面と平行に振る練習」がおすすめ

左手首の角度を変えずにショットの精度を磨く。「手首の角度を変えないことを意識し、腰の高さ、胸の高さで地面と平行に振る練習」がおすすめ

飛ばないぶん、それを補う技術は、高いショットの精度です。彼のスウィングを見ていて、その確かな技術はスウィング中の左手首の角度が変わららないことにあると思いました。これは現役時代からのボクのテーマでもあるんです。手首の角度を変えないことを意識し、腰の高さ、胸の高さで地面と平行に振るなどの練習をしたものです。

アマチュアの方もインパクトで手が浮き上がる人が多くいます。ですから、こういった意識と練習は効果的だと思います。

PHOTO/Getty Images

※週刊ゴルフダイジェスト2025年8月5日号「さとうの目」より

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