先月、参議院本会議でカスタマーハラスメント(カスハラ)の対策法案(通称:カスハラ対策法)が可決・成立した。具体的な内容は厚労省が今後、指針を示す予定という。「カスハラ」といえば、一般的に飲食店や鉄道でのケースが思い浮かぶが、ゴルフ業界ももちろん無縁ではない。週刊ゴルフダイジェスト8月5日号で特集。「みんゴル」では2回に分けてご紹介。【2回中2回目】
 
▶これは社会問題です! ゴルフ場で実際に起こったカスハラエピソード集

「クレーム」と何が違う?「カスハラ」とは……

本来、顧客等からのクレーム・苦情は、商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものでもあります。他方、クレームのなかには、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるものもあります。不当・悪質なクレームは、従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されます。企業は不当・悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)に対して従業員を守る対応が求められます。
「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚労省)より抜粋

地方自治体や企業が続々条例や対策方針発表

ゴルフ界のカスハラと聞くと、客がキャディやフロントスタッフなどに言いがかりをつけるケースが多いが、「ゴルフ界のカスハラ①」でも紹介した通り、内容は多岐に渡る。

「最近ではネット上でのカスハラも多いです」と前出の菊地氏。「たとえば、口コミサイトに事実とは違うような悪い内容を書き込んで評価を下げたり、たまたま遭遇した不運を全部コースのせいにしたりなど。自分たちが2サムで回っていて、前の組が4サムだったら追い付くのも当然だと思うんですが『前の組が遅い!』『スロープレーを放置している!』などとクレームを入れたり書き込みをしたり……。大手の予約サイトの場合、悪質な書き込みについては、削除などに応じてくれるケースもあるんですが、そもそも、その手続きをする人手が足りないコースもあり、大変です。それでなくても、ゴルフ場は人手不足。特に若い人がなかなか集まらないのが現状です。サービス業全般に言えることなのですが、お客対応業務は敬遠される傾向にあり、背景にはこういったカスハラがあります」(菊地氏)。

上記にもある通り、日本各地でさまざまなカスハラが発生し、企業や地方自治体も対処に苦慮している。しかし、最近では各地方自治体が「カスハラ防止条例」を制定し、施行している。東京都は全国でいち早く、今年の4月から「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行した。

「まったく欠陥がない商品を新しい商品に交換するよう就業者に要求する」「就業者に物を投げつける、唾を吐くなどの行為」「就業者に声を荒らげる、にらむ、話しながら物を叩くなどの言動」「就業者を名指しした中傷をSNS等において行う」など具体例を多く挙げながら「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と規定。

事業者に対しては「カスハラの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスハラ防止施策に協力するよう努めなければならない」「その事業に関して就業者がカスハラを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」としている。

こうした流れのなか、ゴルフ業界にも変化が。「コース内に『カスハラは許しません』といったポスターが張られているのを見たことがある人も少なくないでしょう。また、まだ数は多くはないですが、予約するときの約款にカスハラに関する項目が追加されていることも。これは、現場のスタッフにとってもすごくいいことだと思います。カスハラを受けた際『約款にもあります通り……』と説明できますから。カスハラの対応を現場スタッフに丸投げしてしまうコースは良くないですね。『若いスタッフがすぐ辞める』とこぼす経営者もいますが、彼らをきちんと守れる仕組みやマニュアル作りも大切です」(菊地氏)。

画像: カスハラは犯罪に

カスハラは犯罪に

店や駅だけではない。カスハラはさまざまな場所で起きている

万博会場 警備員が土下座する様子が拡散
2025年5月、客から強要されたものではないものの、会場での案内を巡り警備員が客に土下座をしている様子が目撃され、SNS上で動画が公開され「カスハラ」と話題に。日本国際博覧会協会は「2025年日本国際博覧会カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定した。客の要求や言動がカスハラに該当すると判断された場合、入場を許可しない、退場させる、悪質な場合は今後の入場を制限するなどの対応を取るとした。

警察署 自ら訪れた警察署に居座り
2023年6月、福岡県警田川署を男が訪れ「自分の訴えを聞いてほしい」と、2時間弱同署に居座り、大声でわめいたり一方的な発言を繰り返したりした。引き取るよう警告を受けたが、退去しなかったため建造物不退去容疑で現行犯逮捕。県警は2023年5月、警察組織として全国初のカスタマーハラスメント指針を定め運用しており、この運用に基づく対応で逮捕された初のケースとなった。

回転ずし店 醤油ボトルをなめる
2023年1月、男性客がすし店の卓上に置かれている醤油さしの注ぎ口や未使用の湯呑みなどをなめる動画を撮影しSNS上で公開。結果、回転ずしのイメージはダウンし、親会社の株の時価総額が一時的に160億円下落。客の少年の家族に6700万円の損害賠償を求めたが、その後、和解した。

 高齢男性が駅職員に暴行
2021年、駅の改札口で、客の70代男性がICカードを切符投入口に入れようとし出られない状態に。駅員がICカードを読み取り部にタッチするよう促すと、改札口を出たところで突然激高し、対応した駅員の右胸を殴打。駅員は身の危険を感じ110番通報した。

市役所 しつこく電話し見張り
2023年、三重県鈴鹿市役所に市民が執拗に電話を繰り返し、対応した職員が「これから会議があるから」と電話を切ると、その後、当該市民が現れ「会議と言っていたのは嘘ではないか」と言いがかりをつけられた。

各地で条例の制定相次ぐ
行政の対応例:三重県桑名市は、今年2月、市内で働くカスハラの被害者に対し、弁護士への相談費用や訴訟費用を補助すると発表した。補助額は1件当たり10万円が上限で、2025年度の当初予算案に377万円を計上。カスハラ行為と認定された人の氏名も公表するとし、被害者の泣き寝入りや被害拡大を防ぐ狙い。

コースのスタッフだけじゃない

ゴルフを“教える側”もカスハラを受けている→ほかの生徒のレッスンができない
神奈川の名門倶楽部の会員さんでしたが、私のレッスンに来ているのに、ほかのプロやYouTubeなどで仕入れたうんちくを延々と語るんです。少人数のグループレッスンなこともあり、ほかの生徒さんのレッスン妨害にもなっていました。(50代インドアゴルフインストラクター)

「教え方が古い」などと周囲に吹聴
さまざまなプロのレッスンをハシゴしていている人がいて、「あのプロはこう言ってた」「あの教え方は古い」などと、陰口のようにほかのレッスン生に言うため、グループ全体の雰囲気が悪くなってしまい、困りました。結局、聞かされていたほうのレッスン生が嫌になったようでやめてしまいました。(40 代インストラクター)

画像: 悪い噂を流す

悪い噂を流す

SNSで否定的なコメントをつける
レッスンのPRもかねてインスタグラムをやっていますが、レッスンに否定的な内容やファッションや容姿についてまでコメントを残すお客さんがいます。それでいて私の誕生日には派手なプレゼントを持ってきたり……。レッスン中はずっと動画を撮っていますし、最近、怖くなっています。(30代女性インストラクター)

無料の貸しクラブを破損する
インドアスタジオを経営。無料で使える貸しクラブを置いているのですが、破損が多く修理にお金がかかります。「あの人の仕業かな」という人はいるのですが証拠がない。防犯カメラを付けたいのですが反発がありそうで怖いです。(50代男性インストラクター)

アコーディア・ゴルフのカスタマーハラスメント対応基本方針(一部抜粋)

従業員は日々お客様からのご意見やご指摘に真摯に耳を傾け、誠実に対応することを心がけ、サービス向上に努めております。一方で、カスタマーハラスメントに対しては、従業員の人権や就業環境を守るべく、組織として毅然とした対応を行ってまいります。

適用範囲
・お客様または取引先など第三者からの優越的な立場を利用した言動であること
・不法行為に該当する行為や社会通念上不当な要求行為であること
・従業員の就業環境が害される恐れがあること

対象となる主な行為例
・暴言、侮辱、差別発言、誹謗中傷など
・暴行、器物損壊、その他粗暴な言動など
・業務に支障を及ぼす行為(長時間拘束、クレームの継続など)
・業務スペースへの立ち入り
・従業員を欺く行為
・会社・従業員の信用を棄損させる行為
・過剰な謝罪要求や従業員への処罰の要求
・わいせつな行為や卑わいな言動などセクシャルハラスメント行為
・プライバシーの侵害
・SNSやインターネット上での誹謗中傷  など

業界大手のアコーディア・ゴルフの基本方針は上記の通りで、これは今年の1月8日に策定・公開された。もしもコースでカスハラしている客を目撃してしまったら……。良かれと思って、その場で「ちょっと、あなた」と割り込むと、ことが大きくなってしまう危険性も。「すぐにほかのスタッフに声をかけ、『あのスタッフが困っているようだ』と教えるのがいいと思います」(菊地氏)とのことだ。

ILLUST/Koki Hashimoto

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