「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は、再び欧州障害者ゴルフ協会(EDGA)のビル・エヴァンス氏からの寄稿です。

「Edge(エッヂ)」とは、「見過ごされがちな視点、主流ではないところ」の意もあります。ゴルフのコーチングに関しても、障害者ゴルフから学ぶべきことは多いようです。

ゴルフのコーチは、生徒に身体的な制限があるかどうかを尋ねることの重要性について継続的に教育されているが、実際には、すべてのコーチがそうした制限を十分に考慮したうえで、指導内容を提案しているだろうか? 技術的に優れた専門知識を共有しようとする熱意のあまり、新しい生徒のニーズに柔軟な姿勢でアプローチできていないコーチもいるのではないだろうか?

画像: 今年の「G4Dオープン」でのR&A、DPワールドツアー、EDGAの面々。右下はベン・エヴァンス氏。コーチング体系化の取り組みは、現在EDGAが最も力を入れていることの1つである

今年の「G4Dオープン」でのR&A、DPワールドツアー、EDGAの面々。右下はベン・エヴァンス氏。コーチング体系化の取り組みは、現在EDGAが最も力を入れていることの1つである

近年、新しい資格や革新的なパフォーマンス向上システムを活用してコーチングの理解を深め、ゴルファーの身体的な効率性を高め、怪我を防ぎ、再現性のある動作をできるようにサポートするゴルフコーチが増加している。しかし多くのレクリエーションゴルファーにとって、ゴルフをすることは自信の健康やと運動機能を維持するための手段であるため、時間がかかったり、難しいと感じられるようなトレーニングを追加するモチベーションはあまりない。

レクリエーションゴルファーにとって、筋肉の損傷や靭帯の痛みといった比較的小さな怪我は、下り坂の始まりとなることがある。年齢を重ねるにつれて、可動域や身体的リテラシー(体をどう動かすかの理解)が低下し、バランス能力、体をひねる、回す、伸ばす、かがむ能力、さらにはドライバーやアイアンショットの行方を見る能力(変性視力低下は高齢者における重要な問題となりうる)さえも低下するなど、機能性が制限されることで、プレー頻度が減ったり、プレーが上手くいかずフラストレーションを感じたりするようになりかねない。

ゴルフのコーチが彼らをサポートできなければ、彼らはスポーツから完全に離れてしまうかもしれない。約10億人という障害者の数は比較的信頼できる数字と考えられているが、何らかの機能制限を抱える人の数を正確に把握するのはそれほど簡単ではない。しかし、人工関節置換術を受けた人はもちろんだが、関節の痛みやこわばり、筋力の低下といった症状を持つなど人を含めると、10億人の少なくとも数倍にはなると考えていいだろう。

このような状態は、遺伝、病気、怪我、加齢などが原因かもしれない。しかし、効果的なコーチングがあれば、このような人たちの多くにゴルフを始めさせることができ、ゴルフは、身体的、精神的、社会的な利益をもたらすことができる運動であると公開することで、より多くの人たちをゴルフに引きとどめることができるのだ。

したがって、ゴルフ業界だけでなく、すべてのゴルフコーチが、制限を抱える人のコーチング方法について適切な知識と理解を持つべきことは理にかなっている。このような知識は、単に障害を持つゴルファーのコーチングに限定されるものではなく(それ自体が素晴らしい目的ではあるが)、既存のゴルファーの多くが、プレー能力や期待に応える能力に影響を与える何らかの制限を持っているため、無数の人々が恩恵を受けることができる。適切に訓練されたコーチは、そのような問題を軽減し、より多くの制限を持つ人々がゲームをより楽しむのを助けることができる。

EDGAの教材「Learning from the Edges(周縁から学ぶ)」は、教育、トレーニング、研究がゴルフコーチに伝える「理想的な身体の動き」と、平均的なレクリエーションゴルファーが実際にできることとのギャップを埋めようとする取り組みだ。この教材では、障害のあるゴルファーが経験する身体的、感覚的、知的な制限の「エッヂ(周縁)」を探求するようコーチに促す。そうすることで、何が可能かを理解し、より軽度の機能制限を持つ人たちにも質の高い指導ができるようになる。最終的にはより多くの人が、より長く、より多くゴルフを楽しめるようになることが目標なのだ。

EDGAは、5000人を超える豊富な選手データベースをもとに、ゴルファー(PINGとスリクソンの支援を受けている)を対象とした調査を実施し、さまざまな効用を盛り込み、PGAや国内連盟と共有できる豊富な知識と経験を培ってきた。

画像: ティーチングプロの資格を持つ吉田隼人。日本障害者ゴルフ協会のレッスン会ではコーチとなる。「コーチングすることは自分のゴルフのためにもなります」

ティーチングプロの資格を持つ吉田隼人。日本障害者ゴルフ協会のレッスン会ではコーチとなる。「コーチングすることは自分のゴルフのためにもなります」

EDGAの指導・教育部門責任者であるマーク・テイラーは言う。

「優れたコーチは、障害という言葉を一旦忘れて、機能に目を向けるべきだというのが私たちの信念です。選手が、何ができないかではなく、何ができるかが重要なのです。『Learning from the Edges』は、コーチが障害者に対してより良いコーチになり、彼らの可能性を引き出し、ゴルフを好きになることを助けるのに役立つだけでなく、クラブの他のプレーヤーにとってもより良いコーチになると確信しています。彼らは、おそらく心を失いかけていた選手たちが、再びゴルフで生き生きとプレーできるように指導することができるのです」

EDGAのウェブサイトでは、障害のあるプレーヤーに対する10の「コーチング上の注意点」を掲載している。この包括的なガイドは、考慮すべき重要な点を概説し、10の障害カテゴリーをカバーしており、身体障害、神経障害、感覚障害を持つゴルファーのコーチングに関する貴重なガイダンスを提供している。

EDGAコーチングの例として、日本のトップランカー、吉田隼人を例としよう。

画像: 吉田隼人のスウィング

吉田隼人のスウィング

ハヤトは右利きのゴルファーである。一見すると彼がゴルファーとして大きな制限を持っているように見えるかもしれない。「Learning from the Edges」の考え方では、どのようにしてハヤトが、義足を通して地面とつながっているということに適応できているのかを理解することで、コーチはより軽度の制限を抱える人々をサポートすることができるようになる。

たとえば、足指、足、足首、ひざ、筋肉、股関節に怪我や障害があるために、トレイルレッグ(右利きの場合は右足)に力を入れにくい人たちなどが対象だ。同様のプロセスが、リードレッグ(右利きの場合は左足)、リードアーム、トレイルアーム、背骨の可動域、感覚機能、バランス、身長など、他の機能にも適用される。

興味を持った方は、EDGAのホームページを見てみてください。壁をなくすことが、多くのゴルファーの益となる――これは、コーチングの世界でも言えることのようですね。

翻訳:週刊GD編集部担当
写真提供:EDGA、本誌編集部

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