PGAツアーのプレーオフシリーズ第2戦「BMW選手権」の記者会見では、シーズンの最終盤を迎え、最終戦「ツアー選手権」での優勝者が年間王者「フェデックスカップ」の栄冠を手にする現行の制度について、選手たちの見解が問われた。彼らの回答からは、この制度に対する賛成と反対、そしてその根底にあるゴルフという競技への深い洞察が垣間見えた。

PGAツアー フェデックスカップの歴史と変遷

PGAツアーの年間王者を決定するシリーズトーナメント「フェデックスカップ」は、2007年の創設以来、その制度を時代に合わせて進化させてきた。その歴史は、ゴルフファンにとっての「分かりやすさ」と、選手にとっての「公平性」という、交わりにくい2つの価値観の間で揺れ動いてきたPGAツアーの試行錯誤の軌跡を物語っている。

創設と初期フォーマット(2007年~2018年)

フェデックスカップが導入される以前のPGAツアーには、シーズン終盤にいくつかの課題があった。11月に開催されるシーズン最終戦「ツアー選手権」は、米国の他の主要スポーツと時期が重なるため注目度が低く、また、大会の優勝者が必ずしも年間賞金王になるとは限らないという問題もあり、盛り上がりに欠けると同時に、誰がそのシーズンの真の王者なのかが不透明だった。

この課題を解決するため、2007年に「フェデックスカップ」が誕生。これは、自動車レースのNASCARカップ・シリーズをモデルとした年間ポイント制で、レギュラーシーズン(1月~8月)の各大会で成績に応じてポイントを付与。レギュラーシーズン終了後、ポイントランキング上位125名が「プレーオフシリーズ」に進出。このプレーオフは4試合で構成され、試合ごとに選手が絞り込まれていくノックダウン方式が採用された。

特に特徴的だったのは、プレーオフ大会の優勝ポイントがレギュラーシーズンの4倍にあたる2000ポイントに設定されていた点だ。これにより、シーズン終盤での活躍が年間王者に大きく影響するように設計されてた。しかし、この制度においても、最終戦「ツアー選手権」の優勝者と年間王者が異なるという矛盾を解消できずにいた。

その象徴が2018年。タイガー・ウッズが「ツアー選手権」で優勝し、劇的な復活を遂げたが、年間王者のタイトルは、最終戦を4位で終えたジャスティン・ローズが獲得。この分かりにくさは、制度に対する大きな批判へとつながった。

抜本的な改革(2019年~2024年)

ファンやメディアからの声を受け、PGAツアーは2019年シーズンからフェデックスカップの制度を大きく変更。

まず、プレーオフシリーズを従来の4試合から3試合に短縮。そして最も画期的だったのが、最終戦「ツアー選手権」に「ストローク・ハンディキャップ制(スタートストローク制)」の導入だ。これは、プレーオフ第2戦終了時点のポイントランキングに応じて、最終戦のスタートスコアにハンディキャップを設定するもので、具体的には、ランキング1位の選手が10アンダーから、2位が8アンダー、3位が7アンダーからスタートし、26位から30位の選手はイーブンパーからスタート。

この改革により、「ツアー選手権で最も優れたスコアでホールアウトした選手が、そのまま年間王者となる」というシンプルで分かりやすい構図が確立された。これにより、18年のタイガーとローズのような矛盾は解消されたが、一方で「シーズン全体を通じた公平性が失われる」という新たな議論も巻き起こした。世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーは、かつてこの制度を「くだらない」と批判し、「シーズンを通じてのレースと呼ぶべきではない」と主張した。

また、この時期には賞金総額も飛躍的に増加。創設時の優勝ボーナス1000万ドルから、2024年には2500万ドル(約36.5億円)へと膨れ上がり、さらにLIVゴルフの創設など外圧に対抗するPGAツアーの戦略的な意図も反映された。

最新の動向(2025年以降)

フェデックスカップの歴史に、再び大きな転換点を迎えたのが今年だ。2025年シーズンから、2019年に導入されたストローク・ハンディキャップ制を廃止。

新しいフォーマットでは、最終戦に進出した30名の選手全員がイーブンパーからスタートする、完全なストロークプレー。最終戦の優勝者が年間王者となる仕組みは維持されるため、真にその大会を制した選手が年間王者の栄冠を手にすることになる。

この変更は、ハンディキャップ制に対する選手からの批判(特に公平性の問題)に応える形で、再び「競技としての公平性」を重視する方向への回帰と見ることができる。また、この改革に合わせて、フェデックスカップのボーナス総額は1億ドルに増額され、さらに優勝ボーナスが初めて「公式賞金」として記録されることになった。これにより、フェデックスカップの権威はさらに高まり、選手のキャリア通算賞金ランキングにも反映されることになる。

フェデックスカップの歴史は、「ファンにとっての分かりやすいエンターテイメント」と「選手にとっての競技の公平性」という2つの価値の間で、常に最適なバランスを探求してきたPGAツアーの姿を映し出している。

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