高初速と寛容性という相反する性能を両立したFW
FWやUTは、パターと並び、契約メーカー以外のクラブをバッグに忍ばせるツアー選手も珍しくない。それぐらい、自分が満足のいくものに出合うと、なかなか替えられないクラブと言えるだろう。その好例として挙げられるのは、数年前から「飛距離がすごい!」と評判になり、契約外の選手が忍ばせることの多いクラブとして知られるRMXのFWだ。評判なのは、チタン製の22年モデル、24年モデルで、FWで飛距離を稼ぎたい選手にとっては、手放せない存在のクラブとなっている。
さて、先日発表され、間もなく発売を迎える新しい「RMX DD」にも当然FWがある。しかし、今回はあえて“脱チタン”を図ったという。飛ぶRMXにとって、飛距離の面ではマイナスには働かないのだろうか。RMX DDの開発担当者に話を聞いた。

RMX DD FW。フェース素材は高強度のC300(マレージング鋼)を採用。番手は3W(15度)、5W(18度)、7W(21度)が用意されている

ヘッドは丸みを帯び、フェース面もしっかり見えてやさしい印象

スコアラインのピッチ(間隔)が狭い。フェースの視認性が高まるとともに、水はけ効果も抜群

ソール後方がやや上がった形状で、あらゆるライで据わりのよいアドレスが可能
「これまで培ったRMX FWの飛びのDNAを絶やすことはありえません。フェース素材をチタンからC300、いわゆるマレージング鋼に変えましたが、それは当然飛距離面においてメリットが大きからです」
C300は強度が高い素材のため、前モデル(RMX VD)比で26%もフェースを薄くできたという。
「フェースを薄くできれば、たわみが大きくなり飛距離アップに貢献します。薄くすれば割れる懸念もありますが、そこは高強度のC300によってクリアできました。ちなみにフェースの中央部は1.9ミリ、外周部は1.6ミリという相当“攻めた”薄さ。反発性能も高いけれど、耐久性も十分、というところを狙いました。これにより、反発性能は前作比で10%向上しています」
前作の飛ぶRMX VDのFWから、さらに10%反発性能が上がるというのは、かなりの進歩だ。
「そして、もう一つこだわったのが低重心化です。FWは地面から打つ機会の多いクラブ。そのためには重心は低いほうが、実際の打点とのずれが小さくなります。理想は実際の打点である下から16㎜付近。そこに出来うる限り近く重心を設定することで、インパクトの効率が上がり、飛距離アップにつながります」
重心が高めのほうが、スピンが入りやすくボールを浮かせられるという考えもあるが、実際には、打ち出しが低くなり、スピンが多めになる傾向がある。低重心にして重心近くでヒットできるほうが、打ち出しが高くなりスピンのバラつきが低減されて安定感が生まれ、かつ初速も上がり飛距離アップできる、というのがヤマハの考えだ。

RMX DDのFW、UTにスイッチし、日本女子オープンで4位タイに入るなど、調子を上げている髙木優奈
「さらに新しいRMX DDのFWで求めたのは、寛容性の向上です。前作、前々作は高初速を狙い、かなりの浅重心・低重心設計で、飛びに特化していました。正確にフェースセンターでとらえられる人やヘッドスピードが速めの人には大いに武器になりますが、そうじゃない人にとっては使いづらい面もありました。今回はいったん重心を下げられるところまで低くし、そこから重量を左右、後方に振って、重心深度やMOIの最適化を図っています」
やさしさの工夫は、フェース面にもなされている。
「構えるとフェース面が際立って見えます。黒いフェースに白いスコアラインが入ることでフェース面が良く見え、ロフトをしっかり感じます。ボールが上がりやすそうで、見た目にやさしく思えるはずです。実際にルールの範囲内で、スコアラインの間隔を狭くして本数を増やしているのですが、これは雨の日の“水はけ”効果に大きく寄与します。ウェットな状態の時でもスピンを安定させ、飛距離、精度の誤差を最小限にとどめることが実証済みです。スコアラインを増やすとフェースの強度的には低くなるのですが、この懸念もC300を使うことで解消できました」
長めのネックにはワケがある
RMX DDのUTもまた、ツアーで注目を集めつつある。こちらはFWとはまた違うアプローチによって設計されたようだ。

RMX DD UT。番手は3UT(19度)、4UT(22度)、5UT(25度)、6UT(28度)が用意されている

ヘッドサイズは、前作よりひと回り大きくなり、安心感が増している

ネックは長めな一方で、ソールのトウヒール側を左右に広げることで重心を低くし、慣性モーメントを大きくすることを狙った

ロフトが増えるほどフェース下部でのヒットが増えるため、その部分を薄肉化。は高い反発性能を広範囲で実現
「UTの役割を考えた時に、飛距離も大事ですが、しっかり狙ったところに球を運べることが重要。またアイアンとのつながりを考えると、ただ低重心にして飛ばしに走るのはよろしくない。アイアンとの距離のギャップができてしまいますから。適正な距離を打て、しっかりグリーンで止められる。そしてやさしさも引き上げる。UTはそこを目指しました」
設計陣が着目したのは、ネック部分を含めたヘッドの形状だった。
「今回は従来モデルに比べて、ネックを長めにしました。これに関しては、最近のトレンドとは異なります。しかし、ネックが長ければ、重心から遠い所に重さを持ってこられる。つまりMOIを大きくできるんです。一方で、ネックが長くなると重心が高くなりすぎてしまう懸念があります。そこで今度はヘッド形状。ヒール下、トウ下ともに出っ張らせています。底辺が広い感じですね。ヘッドはより下に、より外側に重さを持ってきているので、重心を低くしつつMOIも大きくできています。ネックとヘッド形状によって、UTとして実戦的な性能を発揮できる重心位置が確立できたと思います」
重心の高さは適正で、かつネックが長いことでややヒール側に重心位置がある。これによりつかまり性能もアップ。これも狙いの一つだという。

長年、他社のUTを使っていた永井花奈だが、夏前からRMX DDにチェンジ。夏場以降の活躍は目覚ましいものがある
「前作は、フェースセンターに重心を持ってくることを目指しました。しかし、打点のバラつきが出た時に、スライスのミスが多く出る、という声も聞かれました。なので、今回はややヒール寄りに重心位置を設定することで、ドライバー、FW同様、スライスを軽減する“つかまりの良い”ヘッドになっています。加えてヘッドサイズも大きくなったことで見た目の安心感もある。FW同様に、スコアラインも増やし、ロフトをより感じられるデザインになっている点も、永井花奈プロらが早々とスイッチした決め手にもなっていると思います」
フェース素材は、マレージング455を採用。UTというクラブの特性上、(FWに使用している)C300ほどの反発性能はあえて求めていないためだ。しかし、フェース自体はしっかりと反発するように薄肉、偏肉化が施されている。ロフトが寝るほどフェース面の下側でヒットする傾向になるので、特にフェース下部は薄肉化を施し、番手に応じて十分な飛距離を得られる設計になっている。
FWもUTも高弾道のボールが楽に打てる
では、RMX DDのFWとUTの性能を確かめてみることにしよう。テスターは谷古宇智紀プロ(HS43m/s)、そして岸部華子プロ(HS38m/s)の2人にお願いした。

谷古宇智紀プロ、岸部華子プロ。ヘッドスピードの異なる2人のプロが試打を行った(CLUB HOUSE 所属)。ショットデータはいずれもナイスショット3球の平均(計測:TRACKMAN)
【RMX DD FW×岸部プロ】楽に上がってキャリーが伸びる。FWではとても大事
最初に岸部プロがFWを試打。まず注目したのはそのヘッド形状だ。
「フェースの高さが薄め(シャロー)で、ヘッドの形は丸みが強くいかにもやさしそう。個人的に、FWはトップなどのミスが多いクラブなので、リラックスできる形状なのは好印象です」

フェースの高さが低めに設定されているので、見た目にもボールが高く上がりそう
打つと楽に高弾道のショットが打てることに好感触。
「FWって、ボールが高く上がることがとても重要。アマチュアの方でも、FWでボールが上がらない悩みを抱えているケースが多いですが、このFWならハイロフトのUT並みに高く上がる雰囲気があります。結果キャリーが伸びて、飛距離も出る。やさしく飛ばせるFWだと思います」

「しっかり上がるので、キャリーが伸びます。かなり飛ばせるFWですね」(岸部プロ)
【RMX DD FW(#5)計測データ】
・ヘッド速度:35.4m/s
・ボール初速:52.4m/s
・ミート率:1.48
・打ち出し角:13.1度
・スピン量:3670rpm
・キャリー:172.1Y
・トータル:191.3Y
【RMX DD UT×岸部プロ】楽に振って自然につかまる安心感がある
続いて、UTの試打に移ろう。ここでもFW同様、まずは構えた時のやさしさに注目した。
「FWの時も思いましたが、白いスコアラインの効果で、フェース面がしっかり見えます。これだけフェース面が主張すると、ボールが上がる安心感がすごいです。ボールを上げにいこうと思わないので、そこに起因するミスは減りそうですね。ヘッドが黒くて精悍なのに、大きくてやさしさも感じる。かっこかわいいって感じです(笑)」

「細かなスコアラインが効いています」(岸部プロ)
UTはつかまりづらいクラブという印象を抱く岸部プロ。しかし、RMX DDのUTはその心配がないと言う。
「4UTぐらいロフトが立っていると、つかまりにくいからつかまえにいって、逆に左へのミスが出たりしますが、このUTは自然に振ってつかまるので、素直にスウィングできますね。すごく安心感があって、扱いやすいクラブです」
【RMX DD UT(#4)計測データ】
・ヘッド速度:33.8m/s
・ボール初速:48.7m/s
・ミート率:1.44
・打ち出し角:16.2度
・スピン量:4774rpm
・キャリー:155.3Y
・トータル:168.9Y
【RMW DD FW×谷古宇プロ】やさしい雰囲気だけどRMXらしい球の強さはそのまま
一方の谷古宇プロ、まずはFWに求める条件を聞いた。

「飛距離は大事だけど、個人的にはそれ以上に球の上がりやすさも重視します」という谷古宇プロ
「基本的には、ボールが上がりやすいこと。でも飛距離も欲しい。これって性能的には相反するものだと思うんです。それを踏まえたうえで、どっち寄りの性能を求めていくか。それによって選んでいます。私はあまり飛距離が出るほうではないので、FWでもグリーンに止められる性能が必要。なので、どちらかというと上がりやすいFWを選択しています」
その点で、まずはRMX DDの見た目は大いに気に入ったようだ。
「岸部プロも言うように、白いスコアラインがフェースを広く大きく見せていかにも上がりやすい雰囲気。それから、ソール面が後方に向かうにつれてなだらかに上がっていくのがいいですね。これならどんなライにも対応できそう。地面から打つ機会の多いFWでは大事なポイントだと思います」
実際に打つと、やさしさもあるが球の強さも実感。

「高さがありつつ、ドーン! と前に強い球で飛んでいきます」(谷古宇プロ)
「さすがRMXのFWですね、飛距離がかなり出ます。高さも出ますが、同時に前へ前へ飛ぶ感じを私は強く受け取りました。構えるとやさしいのに、球は強い。この感じは、なかなかないと思います」
【RMX DD FW(#5)計測データ】
・ヘッド速度:40.9m/s
・ボール初速:60.8m/s
・ミート率:1.49
・打ち出し角:11.6度
・スピン量:3639rpm
・キャリー:210.7Y
・トータル:228.5Y
【RMX DD UT×谷古宇プロ】長い距離でも狙いを絞って飛ばせるUT
続いてはUT。こちらの印象はどうだろう。
「いい顔ですね。私の思ういい顔は、球が引っかかりそうな感じがしないこと。その点で、このUTは、トウからフェースにかけての流れがきれいで、フェースがかぶって見えず、ピタッとスクエアに構えやすいです」

「引っかかる感じのしないヘッドシェイプ。安心して構えられます」(谷古宇プロ)
ショットすると、まず直進性の高さが非常に印象的だと言う。
「アドレスでのフェースの向き、その方向にイメージ通りに球が飛んでいく。直進性が高いですね。しかも、操作性がすごくいい。少しカットに入れたり、つかまえたりが自在で、長い距離でも狙いを絞って飛ばしていけるUTですね。地面からだとねじれのないストレートボール、ティーアップするとちょっとつかまって飛距離も十分。どちらからでも高い性能を発揮してくれます」

「イメージ通りにコントロールできる。UTに必要な性能です」(谷古宇プロ)
【RMX DD UT(#4)計測データ】
・ヘッド速度:38.0m/s
・ボール初速:55.6m/s
・ミート率:1.47
・打ち出し角:14.7度
・スピン量:3987rpm
・キャリー:189.3Y
・トータル:205.1Y
ドライバーやアイアンに比べて、選ぶのが後回しになりがちFWやUTだが、ミスヒットが多い難しいクラブだからこそ、そのチョイスは吟味する必要があるだろう。飛距離だけでなく、実戦での扱いやすさも追求して設計され、結果ツアーでの評価も高いRMX DDのFWとUT。ぜひ一度手に取って、そのパフォーマンスの高さを実感してほしいクラブのひとつだ。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi、Hiroaki Arihara、Hiroyuki Okazawa
THANKS/CLUB HOUSE