
東京農工大学大学院・小池伸介教授
1979 年生まれ、名古屋市出身。専門は生態学。ツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係などを研究し、日本クマネットワークの代表も務める。『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(辰巳出版)など多数
連日、クマの目撃や被害の報道が続くが、日本のクマ事情はどうなっているのか。生態学が専門で、クマに詳しい東京農工大学大学院の小池伸介教授に話を聞いた。

北海道や東北、北陸のゴルフ場を中心にクマの目撃情報が多数寄せられており、プレーヤーのみならずコースの悩みの種となっている
「国内でのクマの分布域は、ここ40年で2倍に拡大しています。その主因は人口減少です。昔であれば奥山にクマが、平地に人が住んでいて、その間の耕作地である中山間地域が緩衝地帯となることで、クマと人が接する機会が限られていました。ところが、日本の人口が減っていくにつれて、都市に人が集まる一方、山から人が撤退していきました。その結果、緩衝地帯として機能していた耕作地が森に戻り、クマなどの動物の分布域になったのです。
そして昨今のクマ被害の拡大は、そうしたクマと人との物理的距離の接近に加え、人間が出した生ごみをはじめ、柿や栗などクマのエサとなるものの管理が不十分なことに起因します。森のなかの木の実などに比べ、人間の食べ物は栄養価が高く、効率がいい。そういった魅力があるからこそ、森から出て人間由来の食べ物を食べに来ます。そこで被害が起きるわけです。特にこれからの季節は、クマが冬眠に向け食べ蓄える時季で、その活動も活発になるため、年内いっぱいは注意が必要です」(小池伸介教授・以下同)

2012年に環境省により絶滅宣言が出された九州や、歴史上他の地域と森がつながったことがない千葉を除き日本各地にクマが生息。人口は減少する一方で、クマの個体数は増加の一途をたどり、もはや社会問題と化している
クマが盛んに活動する秋は、ゴルフのベストシーズンでもある。そこで気になるのが、ゴルフ場への被害も増えるのかという問題。
「ゴルフ場というのはきちんと整備され、また葉が落ちるような木が少ないので、落葉樹の木の実を好むクマにとって、エサが少ない環境と言えます。また、見通しがよく、姿を隠しながら移動ができない点でもクマに魅力的な場所とは言えません。ですが、森と隣接しているので、クマがコースを横切ったり、入り込んでしまう可能性は十分あります。そのため、ゴルファーもクマの対処法を知っておいたほうがいいでしょう」
最近の主なクマ被害事例
“クマ”でトーナメントも影響を受けた!
ステップ・アップではクマ出没で最終日が中止に
【5月・石川県】ツインフィールズレディース
ステップ・アップ・ツアーの第6戦では、最終日の競技中にコース内でクマの出没を確認。競技が一時中断されると、警察と行政からの指示を踏まえて協議を行った結果、最終日の競技中止の決定がなされた。

石川県
クマでプロアマと初日中止無観客での開催に
【7月・宮城県】明治安田レディス
明治安田レディスの開幕前日に行われたプロアマ戦の最中に1番ティーの後方でクマを発見。プロアマ戦と初日が中止となり、3日間の短縮競技に。安全面を考慮して、急遽無観客での開催となった。

宮城県
クマは首都圏にも!
神奈川県清川村のゴルフ場付近に出没
7月に清川村のゴルフ場の入り口付近でクマが目撃されているほか、東京の青梅市などでも目撃。北海道や東北、北陸だけでなく、首都圏でもクマには要注意。

神奈川県