「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

今後はシャフトのマッチングに糸口がある

GD これは私の仮説ですが、ドライバーは2021年、アイアンは2011年に完成の域に到達したのではないかと見ています。テーラーメイド最後のチタンフェース『SIM2』が発売されたのが2021年。重心位置、初速、扱いやすさなど、現在でも高い評価を受けている紛れもない名器です。
 
アイアンは『ミズノ MP-59』が2011年に発売され、5年間販売される人気ぶりでした。クラブ契約フリーのプロが『MP-59』をこぞって手に取り、「ミズノの最高傑作」と称賛しています。ロフトも7番32度、PW46度。現在のプロモデルのストロングロフト化の先駆けとなったアイアンです。
 
“クラブの完成形”というものがあるとしたら、この2モデルが根っこにあるんじゃないかと思うんですが、どうでしょう。

長谷部 アイアンは軟鉄鍛造回帰がここ数年続いているものは、製造技術が格段に上がったのと中空構造が難しいと言われながらも受け入れられる市場ができてきたので、まさに2000年前半の20数年前にあったフルキャビ、チタンフェース、カーボンフェースといった飛び系の構造から、最近は打感と飛びのバランスというところが注目されてきています。目標とする重心位置や打感、形状が十数年前に完成されていたと言われても不思議ではないと思います。
 
ドライバーに関していうと、2020年頃からのコロナ期を含めた時期にある程度目標となる重心距離、重心高さが定まっていたというのが、後からわかりましたね。その当時は、「まだまだ機能アップが行けるぞ」と思っていたかもしれないですけど、2、3年後を見てみると、「あの時の重心設計のバランスはよかったよね」というのが中古市場での評価などを含め、皆さんのいい声があってそのような見解になるのも理解できます。

画像: 左から『テーラーメイド SIM2』、『ミズノ MP-59』

左から『テーラーメイド SIM2』、『ミズノ MP-59』

GD 今いろんな意味で慣性モーメントの寄り戻りであり、アイアンのストロング化の寄り戻りが言われていて、曲がらない、飛ぶと言っていたものがちょっと行き過ぎたことによって、扱いにくくなっているんじゃないかというように考えれば、完成形をもう通過しているような気がするんですけど。

長谷部 そうですね。クラブの長さも戻ってきたというのと同じように、クラブの軽量化も行き過ぎて戻ってきたということからすると、人間の体力とかスウィングが大きく変わらない限り、「適正なもの」はある程度定まっているし、どのメーカーもつかんでいると思います。
 
だから「新製品の魅力はどこなの?」ってなった時に、新しいギミックという言い方をすると文字上きついんで、別の言い方をしないといけない。セールスポイントだったり、魅力を伝えることに今は注力しているのかなって気がしますね。

GD 数年前のクラブと今のクラブを打ち比べると明らかに違いを感じるんですが、それを飛距離だけで考えるとそんなに変わらないかもしれない。でもフィーリングは明らかに違う。そこを進化ととらえれば進化なんでしょうけど、一番わかりやすいのは飛びです。そこをなかなか感じにくくなっているので、クラブ買い替えのきっかけが薄らいでいるような気がします。

長谷部 飛ばすために何が有効なのかって言ったら、これまではヘッドのパフォーマンスを上げます、反発性能を上げます、曲がらなくするために慣性モーメントを高めますというのが、クラブメーカーの最大の目標値だったんですけど、行き詰まっているって言ったら失礼ですけど、もうやり尽くして限界に来ているとしたら個々のプレーヤーとシャフトを含めたマッチングが今後はより注目されるのかなと見ますね。

GD そうなるとフィッティングの話になってきますが、今のフィッティングは試打の領域の中にあると思うんですよ。ある程度限られたヘッドとシャフトの中からどれがいいですか?という選択の中でフィッティングをしている所も多いので、今後はフィッティングの進化が進むという感じでしょうか?

長谷部 「テーラーメイド」が東京駅近くに「フィッティングラボ」という名前をつけてオープンしましたけど、そこにメーカーのメッセージがあるのかなと思います。クラブメーカーとしては“ヘッドのマッチング以上にシャフトのマッチングが大切”だということを実は理解している。
 
だからカスタムシャフトのラインナップが豊富なんですけど、どうしてもマーケティング上、人気のシャフト、最新のシャフトを入れざるを得なくて、それが主流になってしまうことにジレンマがあるのも確かです。性能を軸にしたフィッティングが本当にできるようになるんだったら、メーカーが提供する機会に頼るのもアリなのかもしれません。

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