「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回はデフリンピックに関するお話です。

11月15日から開催される「東京2025デフリンピック」には、81の国・地域(加えてろう者個人中立選手、デフリンピック難民チーム、デフリンピックチーム)、3081選手がエントリー。

国立オリンピック記念青少年総合センターには「デフリンピックスクエア」が登場。様々なイベントや最新のデジタルコミュニケーションなど貴重な体験が楽しめる(入場無料)。ぜひ行ってみてはいかがでしょうか?

画像: デフリンピックスクエア

デフリンピックスクエア

前日セレモニーでのテープカット。静寂のなか日本語、英語、日本手話、国際手話を交えて進行。手話も1つの言語だと再認識させられる。拍手も手話(顔の横で両手を「キラキラ/ひらひら」)です。

画像: 前日セレモニーでのテープカット風景

前日セレモニーでのテープカット風景

取材した14日は開幕へのカウントダウンもあと1日。日本全国を回った「カウントダウンツアー」で集まった折鶴は4000羽を超えた。ドラマで人気になった俳優・ドラムさんが最後の折鶴を入れ、大会の成功を祈願!

画像: ドラムさんが大会の成功を祈願

ドラムさんが大会の成功を祈願

デフリンピック日本代表は5人!

さて、11月18~21日に若洲ゴルフリンクスを舞台に開かれるゴルフ競技の日本代表選手5名を紹介します。

①年齢②ゴルフ歴③HC(平均スコア)④ベストスコア⑤持ち球⑥ドライバー平均飛距離⑦好きな&目標とするゴルファー⑧勝負カラー⑨勝負飯⑩苦手なもの⑪リフレッシュ法

「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」
渕暢之(ふちのぶゆき)

画像: ➀49歳②20年③HC0.6④69⑤ドロー⑥230Y⑦フレッド・カプルス⑧赤⑨トンカツなどカツ系⑩特になし⑪ソファで横になってダラダラする

➀49歳②20年③HC0.6④69⑤ドロー⑥230Y⑦フレッド・カプルス⑧赤⑨トンカツなどカツ系⑩特になし⑪ソファで横になってダラダラする

兵庫県姫路市役所に勤める渕選手は、薬の副作用により5、6歳の頃に難聴となりました。ゴルフを始めたきっかけは、「会社の同僚に誘われて」。人数合わせからだったと言いますが、すぐにハマり猛練習。JOYXGCのクラチャンを取る腕前となりました。ゴルフをする理由は「単純に楽しいから」。ゴルフの魅力は、「自分の思い通りにならない点」だと言います。得意クラブは58度のウェッジ。「飛距離がないためパーオン率が低く、寄せを武器としています」。

課題は長いクラブの精度。「歳も歳なので、効率よいスウィングイメージを大切にして練習しています。デフゴルフはコミュニケーションの取り方が難しい。特に私は手話ができないので、なんとか身振りや素振り、手のひらに文字を書いて伝えるなど工夫をしています」。将来の目標は「デフスポーツの周知、デフスポーツ人口を増加推進、後世の指導」。「耳が聞こえないことは個性。健聴者にはわからない自分だけの個性です。この個性を最大限に生かして、武器になるよう胸を張って頑張りましょう!」。最年長として粘りを見せつつ、チームを引っ張る姿が見られることでしょう。

「常に良い目的を見失わずに努力を続ける限り、最後には必ず救われる」
袖山哲朗(そでやまてつろう)

画像: ➀37歳②28年③HC1.8④67⑤理想はフェード(実際はドロー)⑥290Y⑦マイク・オースチン⑧赤⑨しゃぶしゃぶ⑩トマト⑪ワンちゃんたちと遊ぶ/インスタ@tetsurosodeyama

➀37歳②28年③HC1.8④67⑤理想はフェード(実際はドロー)⑥290Y⑦マイク・オースチン⑧赤⑨しゃぶしゃぶ⑩トマト⑪ワンちゃんたちと遊ぶ/インスタ@tetsurosodeyama

NPO法人日本デフゴルフ協会の事務局長でもある袖山選手。スポーツメーカー、アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームのカスタマーチームで働きながら活動しています。生まれつき聴覚障害を持ち、2歳のとき「感覚性難聴」と診断されました。小3のとき、ゴルフ好きの父の影響でゴルフを始め、そこからはプロゴルファーを目指し、「ゴルフをするからには目標達成に向けて、全力で取り組みます」。茨城GCのクラチャンを獲得、デフゴルフの世界大会だけでなく健常者のアマチュア大会でも活躍してきましたが、ゴルフの魅力を「社会人になっても先輩後輩とのゴルフの付き合いや家族との交流ができること。生涯スポーツで、健康のためになり、いろいろな出会い、つながりができ、人生を豊かにしてくれます」と語ります。

上達のため「マイク・オースチン法スウィングを習得、APS aperfectswingmethodのインストラクター資格を持つ妻からスウィングチェックをしてもらい、動きやクセなどを確認・修正しています。レッスン時、口頭で説明するよりも身振りで教えてもらうことが多く、情報量が健常者と比べて少ない。動画を見て分析し、何回も繰り返して練習し、技術を習得しています」。また、得意クラブは「キャッシュインパター。ラインに合わせて打ち分けられます」といずれもマニアックな答え。「国際大会で男女ともに個人戦&団体戦で金メダル獲得を目指したい」という“国際派”は、名実ともに日本デフゴルフ界の代表として、心技体でチームを引っ張っていきます。

「諦めない心~ゴルフを楽しもう!」
前島博之(まえじまひろゆき)

画像: ➀37歳②28年③平均スコア74④63⑤フェード⑥290Y⑦タイガー・ウッズ(彼の努力と不屈の精神には非常に感銘を受けています)⑧青色(冷静さを保つための色であり、精神を落ち着け、集中力を高めてくれる色)⑨うどん(軽くて消化にもよいですし、エネルギー補給にも最適)⑩長時間の練習(集中力を保つことが難しく、短時間で効率よく練習するほうが得意)⑪美味しいものを食べて、寝ること/インスタ@hiro515monkey

➀37歳②28年③平均スコア74④63⑤フェード⑥290Y⑦タイガー・ウッズ(彼の努力と不屈の精神には非常に感銘を受けています)⑧青色(冷静さを保つための色であり、精神を落ち着け、集中力を高めてくれる色)⑨うどん(軽くて消化にもよいですし、エネルギー補給にも最適)⑩長時間の練習(集中力を保つことが難しく、短時間で効率よく練習するほうが得意)⑪美味しいものを食べて、寝ること/インスタ@hiro515monkey

県立鳥取ろう学校の教師でもある前島選手は、生まれつき耳が聞こえません。小学生の頃、父に打ちっぱなしに連れて行ってもらったことがきっかけでゴルフを始めましたが、学生時代は陸上競技に打ち込み、デフリンピックにも走り幅跳びや十種競技で3回、出場した経験があります。メダルには惜しくも届かずゴルフ競技に転向、今に至ります。「ゴルフは誰でも楽しめるスポーツで、技術だけでなく精神力や集中力も重要。自己との闘いが生まれますし、毎回異なるコースや状況での挑戦があります。また、自然の中でプレーすることができリラックスした気持ちで過ごせることも魅力。加えてゴルフは成績に直結する要素が多いため上達する喜びもひとしおです。自分の集中力や技術を高めることができるだけでなく仲間や他の選手と一緒にプレーできるのも楽しい。デフゴルフというシーンで結果を出すことで、同じ境遇の人たちにも希望を与えられると感じています」。得意クラブはドライバー。「遠くに飛ばすことが好きだから」。課題はアプローチショット。「異なる距離に応じて異なるクラブを使う練習をしています。

たとえば、PW、SW、56度や60度のウェッジなどを使い分け、同じ距離を打てるように調整している。また、30Y、50Yなどの同距離で決まった打ち方を繰り返して手のひらや体の動きがどのように変わるかを意識して練習しています。デフゴルフは音を頼りにプレーできないため、ショットのタイミングや距離感を完全に視覚や感覚でつかむ必要があります。またコース上での指示や声がけも、手話や視覚的なサインを使ってコミュニケーションを取ります。そのため、周囲との連携をしっかりと築き、練習や試合に臨むことが重要。視覚や触覚を最大限に活用し、グリーンやコースの状態をしっかりと把握することが求められます」。

詳細に説明してくれた言葉に、アツい想いが溢れます。今大会でのメダル獲得はもちろん目標ですが、「その後もデフゴルフの発展に貢献できるような活動をしていきたい。特に、若い世代に向けてデフゴルフの楽しさを広めゴルフを通じて自分の可能性を広げるサポートをしたい。最終的にはゴルフを通じて社会にポジティブな影響を与える存在になりたいです。障害があっても夢を追いかけることができるスポーツとしてのゴルフの魅力を伝え、どんな状況でもチャレンジできる環境を作りたい。子どもたちにはゴルフを通じて諦めない心を育み、どんな困難にも前向きに取り組む力を身に付けてほしいと思います」。誰よりもアツいプレーで多くの世代にアピールします。

「継続は力なり」
辻結名(つじゆうな)

画像: ➀19歳②9年③平均スコア77④71⑤ストレート⑥220Y⑦西村優菜プロ⑧ピンク⑨焼き肉⑩パプリカ⑪寝ること

➀19歳②9年③平均スコア77④71⑤ストレート⑥220Y⑦西村優菜プロ⑧ピンク⑨焼き肉⑩パプリカ⑪寝ること

チーム最年少の辻選手は日本大学に通う学生。生まれつき中度の難聴です。ゴルフは10歳頃、叔父さんの影響で始めました。今も伸び盛り。昨年の第14回世界デフゴルフ選手権大会(オーストラリア・ゴールドコースト、RACV ロイヤルパインズリゾート)では、一般女子の部で銅メダル(ジュニア女子の部では銀メダル)を獲得しました。強みはショートゲーム。「アプローチが好きです。ウェッジがクラブの中で一番好きで得意です」。一方、課題は「飛距離です」ときっぱり。大会では、常日頃から意識しているという平常心と笑顔のプレーが見られそうです。

「挑戦を楽しむ」
中島梨栄(なかじまりえ)

画像: ➀41歳②4年③平均スコア80④77⑤?⑥210Y⑦稲見萌寧プロ⑧なし⑨梅干し⑩なし⑪家族キャンプ、ショッピング/インスタ@rienee.n

➀41歳②4年③平均スコア80④77⑤?⑥210Y⑦稲見萌寧プロ⑧なし⑨梅干し⑩なし⑪家族キャンプ、ショッピング/インスタ@rienee.n

障害アスリート雇用でAPRESIA Systems株式会社に所属する中島選手。生まれつき重度の聴覚障害者で、普段は主に手話で、聴者とのコミュニケーションは文字起こしアプリを使い、文字を打って見せることが多いとのこと。ゴルフを始めたのがきっかけは旦那さん。「夫が始めたので私も挑戦してみたら、今ではすっかりハマっています」。実は、デフフットサルの日本代表として15年にわたって活躍してきた中島選手。

ゴルフでもわずか4年で日本代表の座を手にしました。「ゴルフの魅力は自然の中で集中できること。コースごとに攻略方法が違うところが楽しい。いかにベストスコアを更新できるか、その挑戦を楽しんでいます」。アプローチが得意ですが、「ショットの安定性やパッティングの距離感が課題。50Y以内のアプローチを多めに練習しています」。デフゴルフの難しさは、「風の音や良い当たりなのか判断しにくいところ。体の感覚で覚えます」。

将来は世界大会で3位以内を狙いたいと言います。「経験の浅い私でも努力を重ねることで実力を発揮できると子どもたちにも伝えたい。どんな環境でも、自分のペースで挑戦を続ければ夢はつながります。ゴルフを通じて、努力する楽しさを知ってほしいです」。根っからのアスリートの真剣プレーに注目です!

(次回は、デフリンピック直前の選手たちの声をお届けします)

写真/日本デフゴルフ協会、ご本人提供

*11月1日現在。各選手へのアンケートをもとに構成しました。

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