「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は先週に続き、横浜カントリークラブで開催されたPGAツアー「ベイカレント C レクサス」での一幕をご紹介します。

大会の合間にCRSスポンサーとなった麻生グループが、障害者ゴルファーの皆さんを「クリニック」に招待。あいにくの雨で、室内での開催になってしまいましたが、今季DPワールドツアーに参戦している中島啓太プロの貴重な話を聞くことができました。

参加したのは、7年前脳梗塞となり5年前にゴルフを始めた櫻田新児さん(左半身片麻痺障害)、18歳で骨肉腫となり左肩周辺の筋肉を取り人工関節を入れている吉村泰知さん(左上肢障害)、脳卒中となり昨年3月までは車椅子生活でしたがリハビリで歩けるようになりゴルフを再開した中野智昭さん(左片麻痺障害)の3名です。

画像: 熱心に教わる吉村さん、中野さんは試合も観戦。「コリン・モリカワ選手のスウィングが憧れ。テークバックでゆっくり上がっていく感じが好き。再現性がすごくてずっと同じテンポで同調性もすごかった」(吉村)「すごいヘッドスピードで球が追えませんでした」(中野)

熱心に教わる吉村さん、中野さんは試合も観戦。「コリン・モリカワ選手のスウィングが憧れ。テークバックでゆっくり上がっていく感じが好き。再現性がすごくてずっと同じテンポで同調性もすごかった」(吉村)「すごいヘッドスピードで球が追えませんでした」(中野)

皆さん、自身のゴルフ上達のために日々工夫と努力を重ねているからか、中島プロに投げかける質問も鋭いものが多いのです。各人が持つ障害から生まれる悩みもぶつけていました。今回は、この場で鋭く“深堀り”質問をしていた櫻田新児さんの、メンタル面についての中島プロとのやり取りをご紹介します。

櫻田 障害者だからではないですけど、1ラウンドのなかでミスが続いてへこむことも多くある。中島選手はそのようなことがありますか? そのようなときのレジリエンス、いわゆる回復力についてはどう考えていますか?

画像: 大学院に通ったり、吹き矢の大会に出たり、多才な櫻田さんは、とにかく研究熱心。ゴルフも工夫でメキメキと上手くなっている。中島プロにも、次々と質問を投げかけていた

大学院に通ったり、吹き矢の大会に出たり、多才な櫻田さんは、とにかく研究熱心。ゴルフも工夫でメキメキと上手くなっている。中島プロにも、次々と質問を投げかけていた

中島 確かに僕もボギーが続いたりすると落ち込んだりしますけど、そこからまたいいショットをガンガン打って回復できるように考えています。そのためにも、目の前のボールにだけに集中するようにしています。

櫻田 目の前のボールに集中するというのは具体的にはどのようにするのですか?

中島 ボールを打つ前に、スウィングを素振りで確認します。また、風はこうでボールをここに打ちたいから……など、いろいろと計算しながらマネジメントを考える。こういったルーティンをしっかりすることで集中できるんです。

櫻田 打った結果が、イメージとアンマッチしてしまった場合は?

中島 ミスも想定しています。たとえば、グリーン手前のミスだったらそこまで大きなミスではない。“いいミス”をするようにまずはマネジメントしています。

櫻田 いいミスと悪いミス、もう少し教えてください。

中島 たとえば、ピンが左奥に切ってあったとして、ピンの2、3ヤード右を狙って打つんですけど、そこからちょっと右に飛んでいくミスというのは、ピンに対して手前に乗るので上りのバーディパットになりますけど、あまりにピンを狙ってしまうと左の奥に行くこともある。アプローチも左奥からと右手前からでは全然難易度が違ってくるので、そういったリスクマネジメントは徹底しています。

画像: どんな質問にもクールに真剣に答える中島啓太プロ。いつも「準備と集中」の大切さを口にする中島らしい受け答えだった。今週、インドで開催されている欧州ツアーでもロケットスタート

どんな質問にもクールに真剣に答える中島啓太プロ。いつも「準備と集中」の大切さを口にする中島らしい受け答えだった。今週、インドで開催されている欧州ツアーでもロケットスタート

櫻田 パットのときのいいミスと悪いミスを教えてください。

中島 パットは、僕は100ヤードショットと同じように考えていて、カップの周りにボールを集める感じにしています。ラインがフックだったらしっかり右からボールが集まるような意識です。実際に入れるときは、カップの入口を先に決めて、そこからラインを取るようにしているんですけど、なるべく浅いラインになりすぎないように考えています。2mくらいまでは絶対に入れたいですね。5mなんかだとカップ周りに集めるようなイメージです。

櫻田 入口はどうやって決めますか?

中島 タッチとラインが自分のなかであるから、そのイメージをして入口を決めてラインをつくります。ラインを作ったまま打つ感じ。カップのなかに留める練習器具を持ってるんですけど、それはボール1個ぶんしか入口がない練習器具で、スライスとフックライン、両方で練習するんけど、弱すぎても強すぎても入らないので、その入口からしっかり入るように、自分のタッチが合うように練習します。オーストラリアのブラッド・ケネディ選手が開発した器具で、日本の(JGA)ナショナルチームの選手は皆、支給されて持っています。

櫻田 ありがとうございます。中島選手も練習器具、開発してください。

中島 はい(笑)。

中島啓太プロは2023年の麻生飯塚ゴルフ倶楽部で開催された「ASO飯塚チャレンジド」で金谷拓実プロとのプレーオフを制して優勝しました。昨年、同じコースで開催された「日本障害者オープン」の片麻痺障害の部門で優勝した櫻田さんは、「僕もあのコースで優勝したんです!」とアピール。「今回、中島選手のお話を聞いて、連覇できそうです」と素晴らしい向上心を見せていました。

画像: 同じコースから生まれた2人のチャンピオン!23年のASO飯塚チャレンジドで優勝した中島啓太と、24年の障害者ゴルフオープン片麻痺部門で優勝した櫻田新児さん(写真真ん中)

同じコースから生まれた2人のチャンピオン!23年のASO飯塚チャレンジドで優勝した中島啓太と、24年の障害者ゴルフオープン片麻痺部門で優勝した櫻田新児さん(写真真ん中)

中島も、障害者ゴルフについて、彼らが障害をどのように工夫してスウィングしているか、試合のルールなどを聞き、多くを学んだようです。ヨーロッパでの残りの試合で全力を尽くすことを宣言して、皆さんの前から去っていったのでした。

PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Shinji Osawa

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