測ってわかった! 順回転は一般的なパターの5割増し

『スパイダー ツアーX』3タイプと、『スパイダー ZT』をテスト
「ここまでの順回転の数字は、あまりお目にかかったことがないです」、というのは、パッティングをデータ解析し、レッスンに落とし込む第一人者、大本研太郎コーチ。調査したパターは数知れず、そんなパッティングのプロをして「あまり見ない順回転」と言わしめるのが、今回計測した『スパイダー ツアーX』だ。

大本研太郎コーチ。スウィング理論、特にパッティングに関しての見識の深さには定評があり、ツアープロからアマチュアまで幅広くコーチングする。主宰する「GPC恵比寿」にはパット解析器「クインテック」を常設する
「パットでは、打ち出されたボールはスキッド(横滑り)の後、地面の摩擦によって順回転がかかりますが、『スパイダー ツアーX』は、この順回転の数値が、一般的なものと比べて150%ぐらい多い。ただ、順回転の量は多すぎるのも良くない。転がりが強くなり、狙ったところに止めることが難しくなるからです。ですので、スキッドと順回転のバランスが良いパターが“タッチが合う”ことになりますが、『スパイダー ツアーX』の順回転は、“適正”の範囲内で理想的な多さ。アマチュアゴルファーの多くが、順回転量が不足気味なことを考えれば、このパターを打てば大多数の人が、“転がりの良さ”を実感できるはずです。

パット計測器「クインテック(Quintic)」を使って、ボールの転がりを計測

右下の数値「Club Twist」も限りなくゼロに近く、インパクト時の打点ずれの強さを証明
【SPIDER TOUR X 計測値】
・打ち出し角(Launch Angle):1.80度
・Forward Spin:+72rpm
この転がりの良さ(順回転の多さ)を生むのが、「ピュア ロール」インサート。フェース面の溝には、インサートの奥から手前に斜め下向き45度の角度がついている。これによりインパクト時にボールに触れる部分(溝と溝の間)がいったん下方向にたわむが、すぐに元の位置に戻ろうと復元するため順回転がかかる。これが「ピュア ロール」インサートの仕組みだ。

順回転を強く発生させる「ピュア ロール」インサート。「打感は非常にソフトです」(大本コーチ)
「ピュア ロールの効果でしょう。ボールがフェースに乗る感じがします。結果ターゲットにボールが向かっていく感じが強くなり、転がりだけでなく、方向のイメージが出しやすいことも強みに感じます」(大本コーチ)
打点ずれに滅法強いのも大きな特長
慣性モーメント(MOI)の大きさ、つまりミスヒットへの強さも、スパイダーのDNAのひとつ。同じく『スパイダー ツアーX』で、あえてセンターを外して打ってもらった。

トウ、ヒールにも外してテストした
「トウ側に外してもヒール側でも、フェースが動くような感覚はほとんどありません。ボール初速が芯で打った時と変わりませんし、方向性もキープされています。当たり負けしづらいのは、まさに重心が深めでMOIが大きいことの表れ。また一般的に、トウ側に当たるとフェースが開いてロフトが増え、逆にヒールだとフェースが閉じてロフトが減るので、それに伴って順回転の量が不安定になりがちですが、このパターは一貫して順回転量が増えて安定する。これは他にはない興味深いデータですね。あえて芯を外して打ちましたが、実際には“芯を外しにくい”というのも『スパイダー ツアーX』で感じたことでもあります。これは強みですね」
考え抜かれた『スパイダー ツアーX』のアライメント
『スパイダー ツアーX』は、アライメントにも定評がある。白い帯がY字状に施された「トゥルー パス アライメント」がそれだ。

「トゥルー パス アライメント」。TP5、TP5xボールで展開されている「ストライプ」バージョンのラインの幅とも合致
「個人的には、アライメントは白が好きです。白の明るさが浮き上がって見えて、非常にライン取りがしやすい。太い帯状になっている点も、適度な“アバウト感”につながるのでいいですね。視界がいい意味でぼやっとすることで右脳が刺激され、感性が生きます。これが細いラインだと凝視してしまうので、末端の小さい筋肉が動きやすくなり、スムーズにストロークするのが難しい場面が出てきます。また白い帯の後方が二股に分かれているのもイン・トゥ・インのストロークのイメージが湧きやすい。パターにライ角がある以上、“真っすぐ真っすぐ”のストロークはあり得ず、必ずヘッドはアークを描くので、このアライメントのデザインは、ストロークイメージと合いやすい。これが仮に一直線だとしたら、ストロークしづらいと思います。色、幅、デザイン……よく考えて設計されていると思います。このアライメントも、芯を外しにくいことに一役買っていると思います」
知っておくことが大事! 3タイプのネックの特性
『スパイダー ツアーX』には、「ダブルベンド」、「クランク」、「スモールスラント」の3つのネックタイプがある。それぞれどんな特性の違いがあるのだろうか。

左から「ダブルベンド」、「クランク」、「スモールスラント」の順。トウの下がり方(トウハング)の違いに注目
「3本を台の上に乗せると、トウ側が下がる角度が違います。よく言われるのが、トウが下がるほうが“操作性が高い”、“つかまる”ということ。これはもちろん正しいです。しかし、私が検証したところ、その差は微々たるもので、目隠しをして打ったらわからないレベル。それよりも、“スモールスラントはつかまる”、“ダブルベンドはより真っすぐなストロークに合う”という“情報”を知っておくことが大事。それを踏まえておけば、人間は無意識に体が反応して、イメージ通りのストロークをするようになり、良い結果を生むパターになるでしょう」
『スパイダー ZT』はケタ違いの転がりの良さ
スパイダーシリーズには、最新モデルの『スパイダー ZT』もある。注目を集める“ゼロトルク系”パターの中でも抜群の人気を誇るが、大本コーチはその測定値に驚きを隠さない。

コバルトブルーのソールが印象的な『スパイダー ZT』。ZTは“ゼロトルク”を意味する

「フェースに乗る、いきなり順回転が始まる」と大本コーチ。この感覚は『スパイダー ZT』ならでは
「さらに順回転の量が増えますね。これは本当にすごい数値。まず見たことがありません。シャフトがヘッドの重心付近に挿さっているので、オンセット(シャフト軸線よりフェース面がターゲット側に出た状態)になっています。それを解消するために、1度ハンドファーストにシャフトが傾いている、ということです。多くのアマチュアは、インパクトでリリースしてしまい、ロフトが増えて当たり回転が悪くなる傾向にありますが、これは“自動ハンドファースト機能”ともいうべき性能があります。適正なロフト角でインパクトできることで、強い順回転が生まれ、球足が伸びます。同じピュア ロール インサートでも、『スパイダー ツアーX』よりも順回転が強いのは、その点が影響していると思います」

『スパイダー ZT』もクインテックで計測。『スパイダー ツアーX』以上の転がりの良さを記録
【SPIDER ZT 計測値】
・打ち出し角(Launch Angle):1.92度
・Forward Spin:+102rpm
アライメントについては、フェース面側がシルバー、後方がブラックという明度差によって、構えやすさにつなげている。またシルバーのフェース面側の上部には、ゴルフボールの幅と同じ幅で精密にミルド加工された細いラインが描かれ、ボールのセットもしやすくなっている。

ターゲットに対して、フェースをスクエアに向けやすい、シルバーとブラックのカラーリング
「このカラーリングは、トレンドと言ってもいい。フェース面の向きが際立つので、ターゲットに対してスクエアを出しやすいですね。先ほどネック違いのところで、ストローク軌道について触れましたが、パットで一番大切なのは“フェースの向き”です。フェース面が狙ったところに向いているか、これは軌道の3倍は大事。それを考えると、この“フェース面意識”のデザインは優れています」
第2回の連載で触れたように、『スパイダーZT』の最大のメリットは、どんなタイプのストロークの軌道に対しても、常にフェース面が“直交する”ということ。これによりスクエアインパクトが実現しやすくなり、方向性がよくなる。大本コーチが言う“軌道より、フェース面が3倍大事”という事実と、『スパイダーZT』の設計コンセプトが符合する点は、パットの向上を目指すゴルファーにとって見逃せないだろう。

ストレート・トゥ・ストレートに近くても、アークが強いタイプでも常にフェース面が軌道と直角に動かせるのが、『スパイダー ZT』の最大の強み
大MOIによるミスヒットへの強さ、フェース面をスクエアに向けやすいアライメントの工夫、そして抜群の順回転性能。パターにおいて重要視される3つの性能が高い次元で融合した『スタイダー ツアーX』、そして『スパイダーZT』は、パットの精度を向上させる可能性に満ちている。今回の調査で、いま改めて巻き起こっているスパイダー人気の理由を、まざまざと感じさせられた。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi THANKS/GPC恵比寿




