「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は”真のインクルーシブゴルフの実現への道”についてお話しします。

先月、障害者ゴルフの大きな大会が2つ、日本で行われました。日本障害者ゴルフ協会が主催、身体障害者を中心とした障害者ゴルファーの日本一を決める「日本障害者オープンゴルフ選手権」と耳が聞こえない、聞こえにくいアスリートのための国際大会「東京2025デフリンピック」です。どちらも記念すべき大会で、前者は30周年を迎え、世界各国からも選手が参加していましたし、後者はスタートして100年を迎えた国際大会が初めて日本で開催され、ゴルフ競技で日本チームが参戦することも初めてでした。

実は、それぞれの大会に出場した選手、吉田隼人さん(右大腿切断)と袖山哲朗さん(感音性難聴による聴力障害)には以前から交流があります。両人とも世界大会でも活躍する“国際派”。各団体の選手たちを引っ張る存在です。

画像: 東京デフリンピックに出場した袖山さん。日本デフゴルフ協会の事務局長と選手の二刀流ゴルファー

東京デフリンピックに出場した袖山さん。日本デフゴルフ協会の事務局長と選手の二刀流ゴルファー

吉田さんは日本プロゴルフ協会のティーチングプロA級の資格を持つプロゴルファーであり、現在世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)では日本選手でトップ。袖山さんは選手として活躍するのみならず日本デフゴルフ協会の事務局長として、さまざまなイベントを企画し、デフゴルフの普及・育成に努めています。吉田さんもまた、レッスン会の講師を行ったり、いろいろなイベントに参加し、障害者ゴルフの普及・育成に努めているところも共通します。

袖山さんが、自身のイベントで「ゴルフを教えてくれないか」と依頼したことから交流が始まったという2人。このレッスン会は今年すでに実現しており「耳の聞こえない方でも教えることは変わらない。楽しかったです」と吉田さんは言います。

「実は袖山さんに、デフリンピックでキャディをしてほしいと依頼されたんです。すごくやりたかったんですけど、ちょうど自分の試合(日本障害者オープン)と重なってしまって。残念でしたけど、これからも交流していきたいです」(吉田)

画像: 大会の始球式を務める吉田。ここからまた自身が成長する姿を見せることが、後進の育成につながると考えている

大会の始球式を務める吉田。ここからまた自身が成長する姿を見せることが、後進の育成につながると考えている

今回、吉田さんはスペインのホアン・ポスティゴに敗れて2位、袖山さんは本来の実力が発揮できず上位には入れませんでした。しかし、悔しい気持ちをステップとし、2人ともすでに前を向いています。目標は世界の上位選手になること、また障害者ゴルフの普及だと言い切ります。

「今の時代は共生社会と言われています。誰1人も取り残さないこと。ゴルフ界は今、バラバラです。JGA、PGAなどと僕たちがもっと協力して日本のゴルフ界を盛り上げていきたい。健常者も障害者も――片麻痺の方も切断された方も知的障害のある方も1つにまとまったらいいな」と語っていた袖山さん。

画像: 欧州ツアーで活躍するプロも出場するなかでの戦いだった。「アプローチの精度はじめすべて足りない。もっと頑張らないと」(袖山)

欧州ツアーで活躍するプロも出場するなかでの戦いだった。「アプローチの精度はじめすべて足りない。もっと頑張らないと」(袖山)

「吉田さんともお互いに情報交換して協力して、自分たちだけの世界に閉じこもらず、励まし合い支え合い、さらに日本のゴルフ界全体で一緒になってやっていきたい。積極的に健常者の試合にも出たりしたいです」(袖山)

障害者ゴルフの世界に壁を作っては元も子もなくなる。真の“インクルーシブゴルフ”実現への道を言葉にしてくれたように感じました。

画像: デフリンピックの日本チーム。来年の世界デフゴルフで個人も団体もメダルを。袖山は常にデフゴルフの発展を願って行動する

デフリンピックの日本チーム。来年の世界デフゴルフで個人も団体もメダルを。袖山は常にデフゴルフの発展を願って行動する

PHOTO/Yasuo Masuda,Tsukasa Kobayashi

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