「伊沢は3年前から変わった。いい意味でチャランポラン」

01年国内ツアー5勝を挙げ、賞金王に輝いた伊澤利光(左)と国内ツアー3勝を挙げ、賞金ランク2位の片山晋呉(右)
――日本のツアーも丸山が米ツアーに渡った後、伊沢、片山を中心とした勢力図ができてきましたが。
尾崎: 許せないことの2つ目だ(笑)。何でオレが伊沢や片山に負ける? そのこと自体、許せない。伊沢や片山に負けるわけにはいかないんだよ。
――でも伊沢のショット、片山の勝負強さは際立ってますね。
尾崎: 結果がでることによって、ゴルフに対する前向きさ、楽しさ、すべての要素がプラス思考となっている。それが今の彼らのプレーと順位を維持しているんだろうね。プロスポーツなんだから、若い選手の台頭は必須条件。ゴルフ界発展のためにも大いにプラスだろう。でもオレはオレ個人として、なぜ、彼たちに負ける。それが大問題なんだ。
――年齢的な部分の克服が鍵?
尾崎: それは関係ない。年齢が違うとか、複雑に考えてしまうと面白くない。スポーツなんだから。一般的には、誰がみたって年齢的には敵わない。でも自分の中では違う。単純に考える。年齢なんて関係ないからね、勝負の世界は。条件が違いすぎるって、そう思った時点で面白くなくなる。
――ところで、愛弟子・伊沢選手ですが、プレー内容、賞金、伊沢のすべての基準がジャンボ。目標にされることについてはどう感じますか?
尾崎: 誰が何を目標にするか、それは人それぞれだから。
――では、その伊沢に抜かれたって感じた瞬間はありましたか?
尾崎: ナイナイ。自分本来のゴルフができなかっただけ。だからこういう結果になった、としかオレは思わない。ただひとつ思うのは、伊沢の振り抜きのよさ。残念ながら負けてるなと感じざるを得ないね。もっとも伊沢は昔から振る力を持っていた。天性のものだろう。でもここ一番でガッと振れるあの小気味よさは卓越している。残念ながら自分にはない部分だな。
――しかし伊沢は変わりましたね。抜群のショットには定評がありましたが、ここ数年、本当に強い。以前、「伊沢はチャランポラン」と評していましたが、今はどうですか?
尾崎: チャランポランという表現は、捉えようによっては「いい加減で」という悪い意味になるが……、どう捉えても悪いか(笑)。でも深く考えれば、くよくよしない、めそめそしない、前向きな姿勢でもあるんだ。気持ちの切り替えができる。伊沢はいい意味でのチャランポランを持っている。
――心と技術の潜在能力がかみ合ってきたって感じですか?
尾崎: 3年くらい前からかなぁ。伊沢に自覚がでてきたんだ。トレーニングにしても「どうしたいから、何をする」って、自分なりに目標を持って工夫できるようになってきた。その瞬間だよ、「あぁ、伊沢も変わってきたな」って感じたのは。
――最高の能力を持ってても、自分で気づかなければ始まらないということですかね。
尾崎: そりゃそうだよ。潜在能力、そして環境、いくら最高のモノを与えられても、活かすも殺すも自分次第だから。だって長いこと、ウチ(ジャンボ軍団)がランキングのトップだったろ? その中にいて、自分を発見する。今までにない自分を見つける。伊沢はそれができたんだ。トップに立つ人間はいったい何をしているのか……。それを自分に当てはめるというか”感じ”を察知して取り入れる。取捨が思い切りできる。生来のいい加減さ、プラス思考のチャランポランが、いい方向に作用しているね。
――資質と環境だけではダメなんですね。
尾崎: 吸収できる、気づける。そういう能力が兼ね備わっていないと、トップにはなれないってことだよ。もっとも伊沢や片山については、現時点でも大成功だと思うけど、彼たちにしてみれば、「長い人生、そんなに急がなくてもいいや。今肝心なポイントはこれとこれだけ。それだけキチッとしとけば大丈夫」っていう単純明快な回答をしっかり持っている。
――伊沢本人によれば、理想的なスウィングとはちょっと違う、でも今それを修正すると、ボールの出だしのラインが崩れるから追々にできればいいんです、と言っていました。
尾崎: いいんじゃないか、それで。性急に完璧を求める必要はない。羨ましい限りだよ。認めざるを得ないところだろうけど、オレの場合、残念ながら残された時間の長さが違う……。伊沢たちは、先を見ながら行動できる。だけど、オレは今をいかに見つめていくか、それが最大の課題となる。
「パーフェクトを目指す。これは譲れないオレの本能」

この優勝を決めた88年の日本オープンでの仕切り直しのパッティング以降、パッティングの調子が落ちたと語る
――さて、王座奪回の最大要因は飛距離の回復ということでしたが、01年のシーズン中は、常にグリーン上で悩まされていた印象が強いのです。
尾崎: あのパッティングじゃ、話にならんだろう。
――でも数字は良くなっています。
尾崎: 違う違う。過去において、数字ではトップだったこともあるけど、自分自身じゃちっとも満足していなかった。数字じゃないんだよ。パットが巧いなんて思ったことはない。振り返れば、日本オープンでの仕切り直しから始まった。
――以来、パットには悩み続け?
尾崎: イップス持ちは、どんなことがあっても、精神的に安定することはないだろう。自信は作れないけど、その中である程度のことはできたんだが……。
――解決策が見つかりましたか?
尾崎: やっと明るい日差しが見えてきたんだ。最後の最後、日本シリーズ辺りで……。「あーこれか。これいいな」って。
――それは心の置き所ですか? それとも技術的な部分?
尾崎: もちろん技術。技術者は技術的に納得いかないと、心の安定は図れないものなんだ。しかし、追い求める程に、悪い分野ばかりが目についてくる。
――追い詰めて、突き詰めて、そしてジャンボのゴルフができ上がった。
尾崎: 結果的にね。ショットでもそう。10回ショットして8回いいショットできても、あとの2回が許せない。その辺、いい意味でチャランポランな伊沢との違い(笑)。そういえば、トム・ワトソンが「1ラウンドに10のミスは許される」って何かに書いてあったな。1回ミスしても、あと9回ミスできるんだって。ああこれがワトソン流の心の処方箋だなと。ゴルフに対する気持ちだなと思った。でもオレにはできない。ワトソンがそう言ったって、こりゃいいやって飛びつくことはできないんだ。
――あくまで他人の流儀ですからね。ジャンボにはジャンボ流の処方箋がある。
尾崎: そんな偉そうなもんじゃないよ。長いこと、それしかできなかったってこと。他の方法をやろうと思ってもできないんだ。
――何で追い詰めるんですか?
尾崎: ミスは、その要因がハッキリと分かるからだよ。だからパーフェクトを目指す。こればっかりは譲れない。オレの本能だよな。
「すべては勝利の美酒を味わうために」
――飛距離が伸び、納得のバッティングができれば王座奪還が見えてくると。
尾崎: やはりトーナメントで、余裕のラウンドで65台前後のスコア、これが現実的な理想。50台なんて目指したって出やしない。でも余裕の65なら、安定した68が出せるってこと。だから、その目標は変えられない。でもその目標が達成できないのなら、自分のあり方を変えなきゃいけない、変身し続けなきゃいけない。
――ゴルフの道を究めた感じですか?
尾崎: 全然。究めるなんておこがましい。ぶきっちょなんだよ。それだけ。究めたい気持ちがないわけじゃないよ。でも一生かかっても無理。だからこそ、無理は承知で立ち向かっていくことだね。これはぶきっちょな男にしかできない姿勢じゃないのかな。
――追い求める対象として、目指すゴルファー像ってあります?
尾崎: ないね。ただ常に世界のトップはどういうゴルフをするかは意識している。それが一時のニクラスでありワトソンでありノーマン……。歴代のトップゴルファーはすべてライバル。

1995年のマスターズでタイガー・ウッズとラウンドする尾崎将司
――今ならタイガーですね。
尾崎: そう。オレのゴルフ人生の中で、最初はサム・スニードだった。日本でいえば中村寅さん。そして今はタイガー。日本じゃ誰だ? 伊沢、片山? 絶対に負けないね。考えてみれば、アメリカの半世紀、日本の半世紀、そうした歴史の中でのトップはずっとライバル視していたよ。これは、オレ自身のまったく個人的な自慢だけど、世界広しといえど、オレしかいないよな(笑)。
――ジャンボにとって、ゴルファーとしての最終的な着地地点とは。
尾崎: オレは……、過去のこともこだわっていないけど、先のことも考えない。今このときに何をするか。それだけなんだ。
――なぜ、そこまでやるんですか。
尾崎: 勝利のためだよ。ひたすら自分のゴルフ、姿勢、プライドを持ち続けてきただけだ。カップを掲げる己の姿を思い浮かべ、勝利の美酒を味わうために、プレーしているんだから。すべては勝つためだよ。
――55歳にして衰えぬ闘争心、全国のジャンボファン、ゴルフファンも安心でしょう。
尾崎: 55歳ってのは、関係ない!
――ありがとうございました。


