20年ぶりに無冠に終わった2001年。 賞金ランク11位、平均ストローク8位と54歳という年齢を考えれば立派な成績だが、ファンにとってはもの足りない結果となった。それは、ジャンボにとっても同じ。「不満、不満、大不満」という2001年を終え、2002年に復権をかけるジャンボに王座奪還のシナリオを語ってもらった。

「伊沢は3年前から変わった。いい意味でチャランポラン」

画像: 01年国内ツアー5勝を挙げ、賞金王に輝いた伊澤利光(左)と国内ツアー3勝を挙げ、賞金ランク2位の片山晋呉(右)

01年国内ツアー5勝を挙げ、賞金王に輝いた伊澤利光(左)と国内ツアー3勝を挙げ、賞金ランク2位の片山晋呉(右)

――日本のツアーも丸山が米ツアーに渡った後、伊沢、片山を中心とした勢力図ができてきましたが。

尾崎: 許せないことの2つ目だ(笑)。何でオレが伊沢や片山に負ける? そのこと自体、許せない。伊沢や片山に負けるわけにはいかないんだよ。

――でも伊沢のショット、片山の勝負強さは際立ってますね。

尾崎: 結果がでることによって、ゴルフに対する前向きさ、楽しさ、すべての要素がプラス思考となっている。それが今の彼らのプレーと順位を維持しているんだろうね。プロスポーツなんだから、若い選手の台頭は必須条件。ゴルフ界発展のためにも大いにプラスだろう。でもオレはオレ個人として、なぜ、彼たちに負ける。それが大問題なんだ。

――年齢的な部分の克服が鍵?

尾崎: それは関係ない。年齢が違うとか、複雑に考えてしまうと面白くない。スポーツなんだから。一般的には、誰がみたって年齢的には敵わない。でも自分の中では違う。単純に考える。年齢なんて関係ないからね、勝負の世界は。条件が違いすぎるって、そう思った時点で面白くなくなる。

――ところで、愛弟子・伊沢選手ですが、プレー内容、賞金、伊沢のすべての基準がジャンボ。目標にされることについてはどう感じますか?

尾崎: 誰が何を目標にするか、それは人それぞれだから。

――では、その伊沢に抜かれたって感じた瞬間はありましたか?

尾崎: ナイナイ。自分本来のゴルフができなかっただけ。だからこういう結果になった、としかオレは思わない。ただひとつ思うのは、伊沢の振り抜きのよさ。残念ながら負けてるなと感じざるを得ないね。もっとも伊沢は昔から振る力を持っていた。天性のものだろう。でもここ一番でガッと振れるあの小気味よさは卓越している。残念ながら自分にはない部分だな。

――しかし伊沢は変わりましたね。抜群のショットには定評がありましたが、ここ数年、本当に強い。以前、「伊沢はチャランポラン」と評していましたが、今はどうですか?

尾崎: チャランポランという表現は、捉えようによっては「いい加減で」という悪い意味になるが……、どう捉えても悪いか(笑)。でも深く考えれば、くよくよしない、めそめそしない、前向きな姿勢でもあるんだ。気持ちの切り替えができる。伊沢はいい意味でのチャランポランを持っている。

――心と技術の潜在能力がかみ合ってきたって感じですか?

尾崎: 3年くらい前からかなぁ。伊沢に自覚がでてきたんだ。トレーニングにしても「どうしたいから、何をする」って、自分なりに目標を持って工夫できるようになってきた。その瞬間だよ、「あぁ、伊沢も変わってきたな」って感じたのは。

――最高の能力を持ってても、自分で気づかなければ始まらないということですかね。

尾崎: そりゃそうだよ。潜在能力、そして環境、いくら最高のモノを与えられても、活かすも殺すも自分次第だから。だって長いこと、ウチ(ジャンボ軍団)がランキングのトップだったろ? その中にいて、自分を発見する。今までにない自分を見つける。伊沢はそれができたんだ。トップに立つ人間はいったい何をしているのか……。それを自分に当てはめるというか”感じ”を察知して取り入れる。取捨が思い切りできる。生来のいい加減さ、プラス思考のチャランポランが、いい方向に作用しているね。

――資質と環境だけではダメなんですね。

尾崎: 吸収できる、気づける。そういう能力が兼ね備わっていないと、トップにはなれないってことだよ。もっとも伊沢や片山については、現時点でも大成功だと思うけど、彼たちにしてみれば、「長い人生、そんなに急がなくてもいいや。今肝心なポイントはこれとこれだけ。それだけキチッとしとけば大丈夫」っていう単純明快な回答をしっかり持っている。

――伊沢本人によれば、理想的なスウィングとはちょっと違う、でも今それを修正すると、ボールの出だしのラインが崩れるから追々にできればいいんです、と言っていました。

尾崎: いいんじゃないか、それで。性急に完璧を求める必要はない。羨ましい限りだよ。認めざるを得ないところだろうけど、オレの場合、残念ながら残された時間の長さが違う……。伊沢たちは、先を見ながら行動できる。だけど、オレは今をいかに見つめていくか、それが最大の課題となる。

「パーフェクトを目指す。これは譲れないオレの本能」

画像: この優勝を決めた88年の日本オープンでの仕切り直しのパッティング以降、パッティングの調子が落ちたと語る

この優勝を決めた88年の日本オープンでの仕切り直しのパッティング以降、パッティングの調子が落ちたと語る

――さて、王座奪回の最大要因は飛距離の回復ということでしたが、01年のシーズン中は、常にグリーン上で悩まされていた印象が強いのです。

尾崎: あのパッティングじゃ、話にならんだろう。

――でも数字は良くなっています。

尾崎: 違う違う。過去において、数字ではトップだったこともあるけど、自分自身じゃちっとも満足していなかった。数字じゃないんだよ。パットが巧いなんて思ったことはない。振り返れば、日本オープンでの仕切り直しから始まった。

――以来、パットには悩み続け?

尾崎: イップス持ちは、どんなことがあっても、精神的に安定することはないだろう。自信は作れないけど、その中である程度のことはできたんだが……。

――解決策が見つかりましたか?

尾崎: やっと明るい日差しが見えてきたんだ。最後の最後、日本シリーズ辺りで……。「あーこれか。これいいな」って。

――それは心の置き所ですか? それとも技術的な部分?

尾崎: もちろん技術。技術者は技術的に納得いかないと、心の安定は図れないものなんだ。しかし、追い求める程に、悪い分野ばかりが目についてくる。

――追い詰めて、突き詰めて、そしてジャンボのゴルフができ上がった。

尾崎: 結果的にね。ショットでもそう。10回ショットして8回いいショットできても、あとの2回が許せない。その辺、いい意味でチャランポランな伊沢との違い(笑)。そういえば、トム・ワトソンが「1ラウンドに10のミスは許される」って何かに書いてあったな。1回ミスしても、あと9回ミスできるんだって。ああこれがワトソン流の心の処方箋だなと。ゴルフに対する気持ちだなと思った。でもオレにはできない。ワトソンがそう言ったって、こりゃいいやって飛びつくことはできないんだ。

――あくまで他人の流儀ですからね。ジャンボにはジャンボ流の処方箋がある。

尾崎: そんな偉そうなもんじゃないよ。長いこと、それしかできなかったってこと。他の方法をやろうと思ってもできないんだ。

――何で追い詰めるんですか?

尾崎: ミスは、その要因がハッキリと分かるからだよ。だからパーフェクトを目指す。こればっかりは譲れない。オレの本能だよな。

「すべては勝利の美酒を味わうために」

――飛距離が伸び、納得のバッティングができれば王座奪還が見えてくると。

尾崎: やはりトーナメントで、余裕のラウンドで65台前後のスコア、これが現実的な理想。50台なんて目指したって出やしない。でも余裕の65なら、安定した68が出せるってこと。だから、その目標は変えられない。でもその目標が達成できないのなら、自分のあり方を変えなきゃいけない、変身し続けなきゃいけない。

――ゴルフの道を究めた感じですか?

尾崎: 全然。究めるなんておこがましい。ぶきっちょなんだよ。それだけ。究めたい気持ちがないわけじゃないよ。でも一生かかっても無理。だからこそ、無理は承知で立ち向かっていくことだね。これはぶきっちょな男にしかできない姿勢じゃないのかな。

――追い求める対象として、目指すゴルファー像ってあります?

尾崎: ないね。ただ常に世界のトップはどういうゴルフをするかは意識している。それが一時のニクラスでありワトソンでありノーマン……。歴代のトップゴルファーはすべてライバル。

画像: 1995年のマスターズでタイガー・ウッズとラウンドする尾崎将司

1995年のマスターズでタイガー・ウッズとラウンドする尾崎将司

――今ならタイガーですね。

尾崎: そう。オレのゴルフ人生の中で、最初はサム・スニードだった。日本でいえば中村寅さん。そして今はタイガー。日本じゃ誰だ? 伊沢、片山? 絶対に負けないね。考えてみれば、アメリカの半世紀、日本の半世紀、そうした歴史の中でのトップはずっとライバル視していたよ。これは、オレ自身のまったく個人的な自慢だけど、世界広しといえど、オレしかいないよな(笑)。

――ジャンボにとって、ゴルファーとしての最終的な着地地点とは。

尾崎: オレは……、過去のこともこだわっていないけど、先のことも考えない。今このときに何をするか。それだけなんだ。

――なぜ、そこまでやるんですか。

尾崎: 勝利のためだよ。ひたすら自分のゴルフ、姿勢、プライドを持ち続けてきただけだ。カップを掲げる己の姿を思い浮かべ、勝利の美酒を味わうために、プレーしているんだから。すべては勝つためだよ。

――55歳にして衰えぬ闘争心、全国のジャンボファン、ゴルフファンも安心でしょう。

尾崎: 55歳ってのは、関係ない!

――ありがとうございました。

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