解説:中村修(なかむらおさむ)
1968年、千葉県出身。26歳でゴルフを始め、2005年に日本プロゴルフ協会(PGA)入会。PGAティーチングプロB級会員。桑木志帆のコーチとしての実績を持ち、「みんなのゴルフダイジェスト」特派記者として、ツアー会場から現地の様子をレポートしている
チャンスを掴み取れるか、ルーキー! 第二の荒木優奈出現の予感
まずは注目の若手選手の話題から。
今年のプロテストで合格したルーキーにもかかわらず、QTをトップで通過した倉林紅選手を筆頭に、同期の伊藤愛華選手や前年度合格者の加藤麗奈選手ら、前半戦の出場権を獲得した若手にまずは注目したいですね。
彼女たちはプロテスト合格を目指すことに留まらず、その先にあるQTを通過してレギュラーツアー参戦、さらにはシード獲得や初優勝のイメージまでできていたはず。この"ゴール設定の仕方"が今回の結果につながったのだと思います。
今シーズンに引き続き、来季も誰が優勝するのかわからない戦国時代が続きます。ですから、ルーキーイヤーにして初優勝を勝ち取るチャンスはある。彼女たちが第二の荒木優奈選手となる可能性は十分にあります。
良質な経験を生かせるか⁉︎ 飛躍に期待がかかる3人の選手たち

レギュラーツアーで実績を残し、着実に経験値を上げている河本結、菅楓華、荒木優奈に期待
若手に加えて期待したいのが、一昨年から連続して複数回優勝を果たしている河本結選手、そして今季初優勝を飾った菅楓香選手と荒木優奈選手です。
河本選手自身『圧倒的な強さを持って年間女王を狙いたい』と言っていましたし、何より彼女は“考える”選手ですから、レギュラーツアーで上位に入賞し続けて培った経験値を存分に生かしたプレーで戦っていくでしょう。
また、手首の怪我の影響で夏場から休養していた小祝さくら選手も来季は復帰して来るので、今年トップ10入りした選手たちの図式に、どのように食い込んでくるのか注目したいですね。
今年のツアー初優勝者は計12名となりましたが、これを言い換えると、“複数回優勝”を達成できた選手が少なかったいうこと。そのなかで初優勝を皮切りに通算4勝を挙げた佐久間朱莉選手はやっぱりすごいですし、複数回優勝の難しさを物語るシーズンとなりました。
その一方で、今は海外を舞台に戦う山下美夢有選手・竹田麗央選手・岩井明愛・千怜姉妹などがいた一昨年は、複数回優勝が珍しくないという状況になっていました。シーズンによってこれだけ異なってくるので、来季はその数が増えるのかどうか、その辺を観戦することも楽しいと思います。
戦国時代を勝ち抜き、王座に輝くために必要なこと

“瞑想”に取り組んだことで2024年の「NEC軽井沢72」で5年ぶりの優勝を飾った河本結。近年、トレーニングの幅が広がっている
選手がひしめく混戦をくぐり抜けて勝ち切るためには、オフシーズンの練習を実りあるものにすることは欠かせません。
スポンサー関係やプロアマなどのイベントが多かった12月は、体力を落とさない程度にトレーニングに取り組んでいたと思います。そして、年末年始のひとときの休暇を取り終えたら、いよいよ各自がそれぞれの課題克服に向けて全国に散らばり、本格的に練習を開始します。この時点で初戦の開幕まで2カ月足らずとなり、おちおちしていられない時期に突入しているわけです。
では、時間がないなかで、何を優先するのか? 打ち込みのトレーニングを行う者もいるでしょうし、合宿に参加する人ももちろんいるでしょう。それだけではなく、現在はトレーニングの仕方も多種多様になっていて、従来のようにウェイトトレーニングだけをやればいいわけじゃない。昔、諸見里しのぶ選手がよくやっていた“滝行”を行うようなこともなくなっていて、課題に特化したトレーニングが見つかることが現代の良さです。
この環境を生かしてオフにしかできないことにどれだけ集中できるか、これがあとあと優勝につながってくるでしょう。そこで重要になるのは、これから二人三脚で歩んでいくトレーナーとともに、“成績に結びつけるためにはどうしたらいいのか? ”を考えること。今の選手たちには練習内容を取捨選択していくことが求められています。
そして、特にルーキーたちは、初めて1年を通して連戦に挑むことになります。全国を移動しながら、試合ごとにころころ変わる天候や芝の状態、グリーンのスピードなどに毎週適応していかなければならない。一年間を戦うだけの体力を養えるかどうか。これもかなり重要なことですね。
例えば河本選手は、“今この瞬間”に意識を向けるためにマインドフルネスを鍛える座禅に静かに取り組んでいるそうです。その一方で、サッカー選手が行うようなラダーを使用したアジリティトレーニングに励む人もいます。今年年間女王に輝いた佐久間朱莉のように、オフシーズンに課題を明確に持ち何かに絞って練習することが、優勝へ辿り着くための最初の一歩となりそうです。
QT突破組は注目選手だらけ

QTを9位通過した六車日那乃、15位通過した川﨑春花、18位通過した横峯さくらなどの活躍に注目だ
QTを突破し、前半戦の出場資格を得た選手たちが、リランキングに向け身を粉にして闘う姿も見逃せません。
QTファイナル初日は93位と出遅れ、第1回リランキングまでのほぼ全試合に出場できるボーダーラインの35位以内に入ることが危ぶまれたものの、一気に巻き返して9位に入った六車日那乃選手。24年から休養していた植竹希望選手。彼女たちを含めた前半戦に出場できる選手たちの奮闘は、もちろん注目すべきところです。
特に見逃せないのは、シードを落としてしまった選手たちの存在。川﨑春花選手や金田久美子選手、横峯さくら選手、尾関彩美悠選手など、過去に優勝経験のある名が通った選手が揃っています。実績を持つ彼女たちがシード復帰に向けて必死で戦うわけですから、上位に君臨する選手ですら、そう簡単には勝てないはず。そのぶん誰にでも優勝のチャンスがあると思いますよ。
ステップ・アップ・ツアーからも目が離せない
ここまでレギュラーツアーに挑む選手たちのなかから注目選手をピックアップしましたが、本当に"戦国時代"と呼ぶに相応しいラインナップであり、互いを刺激し合いながら、誰もが優勝を賭けて挑む様子は想像に難くないですね。こんな状況化では盛り上がりを見せる予感しかしませんし、選手たちはより華やかな舞台でますます脚光を浴びることになるでしょう。
しかし、その陰で悔しい思いをした選手たちの存在も、忘れてはなりません。QTの結果がふるわず、レギュラーツアーへの出場資格を逃した選手の中にも、臼井麗香選手や山内日菜子選手などの優勝経験者がいます。彼女たちは悔しさを噛み締め、来季はステップ・アップ・ツアーを主戦場として戦うことになります。
選手たちにとっては悔しい結果ではありますが、これによりステップ・アップ・ツアーのレベルは確実に上がるでしょう。「なんとしても上に上がりたい」という強い思いのもと、熾烈な戦いを見せてくれるはずですから、その動向を追っていくのも面白いと思いますよ。
※2025年12月30日10時17分一部修正しました






