あけましておめでとうございます。本コラムは今年も「障害者ゴルフ」のさまざまをご紹介し、皆さんと共に考えていただけるような場にしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、2025年、耳が聞こえない、聞こえにくいアスリートのための国際大会「東京2025デフリンピック」が初めて日本で開催され、ゴルフ競技に初めて日本チームが出場しました。大きな大会は、終わってからの“振り返り”が大事であり、それを次につなげることが必要です。本大会を支えた皆さんに、感想や意見を聞いていきたいと思います。
まずは競技スタッフとして通訳と運営を担当した袖山由美さんにお話を聞きました。由美さんは世界デフゴルフ連盟の事務局メンバーであり、日本語、日本手話、アメリカ英語、アメリカ手話、韓国語、韓国手話、香港手話、台湾手話、スペイン語、国際手話の“10の言語”を操る才女です。デフリンピックで担当した仕事は、スポーツディレクター(SD)の通訳で、豊富な経験と知識・技術を生かして、国際手話から日本手話に変換したり、ルーリングや抗議対応をするための審判員と選手間の通訳も行いました。また、会場整備や競技進行の補助など運営面にも携わり、まさにフル稼働の活躍です。
「デフリンピックに携わって、まず感じたことは大会規模の大きさです。世界デフゴルフ選手権にも関わってきましたが、今回は東京都の支援による潤沢な資金で、スタッフ・設備ともに最高レベルでした。YouTubeの中継スタッフは10名以上、スコアラーは約80名、リアルリーダーボードも設置し、司会者やカメラワークも充実していました。現地にいなくても中継で楽しめる環境が整い、観客も選手も満足していました」

ゴルフ競技の会場、若洲ゴルフリンクスで“フル稼働”していた袖山由美さん(左)と増成真理さん。「私の耳になって通訳してくれました」(由美さん)
大変だったことを聞くと、「文化の衝突を“つなぐ”役割」「『ろう文化』と『聴文化』の違い」というキーワードが返ってきました。
「ろう文化は、聞くことより見ることを重視します。聞こえる人の“常識”が、聞こえない人には高圧的に感じられることもあり、そのずれを調整し、双方が歩み寄れるように斡旋しました」
それだけではなく、ろう者同士でも起きる“異国文化”と“教育格差”も感じたと言います。
「言語を十分に学べた人と、そうでない人では、理解の速度が違います。感情的になる場面も多く、双方の言い分を聞きながら調整しました」
由美さんは、ろう学校を卒業後、大手企業に就職したものの単身渡米、アメリカの大学で学び直し修士号を取得。帰国後も外資系の企業に勤めたりしながら活動を広げ、その存在感が映画『みみをすます』(2005)のモデルにもなったパワフルな女性。文化や価値観、手話の違いなどを乗り越えるため大切にしていることがあります。
「私は『ろう文化』『聴文化』『異国文化』をすべて経験しているので、“傾聴”と“確認”を徹底しています。伝わらなければ別の言い方にしますし、ジェスチャーやアイコンタクトで理解しているかどうかを確認し、通訳者の表情も見て、意図が正しく伝わっているかもチェックします」
コミュニケーションは「言語」だけでなく、「態度」と「確認」が大切だと実感しているそうです。
さて、デフリンピックで由美さんとデフゴルフSD協働通訳、デフリンピックスクエアでのJSL(日本手話)通訳の仕事を担当した増成真理さんの話も紹介しましょう。協働通訳とは、ろう者通訳者と聴者通訳者がチームを組んで行う手話通訳体制で、多様なコミュニケーションに対応し、「情報保障」の幅と質を高めることを目的とした取り組みです。この「情報保障」は障害者ゴルフにも重要な取り組みであると感じます。

「ろう文化」は、聞くことより見ることを重視するという
普段は主婦と手話通訳という二足の草鞋を履く真理さんは、大学ゴルフ部に所属していましたが、卒業後はゴルフから離れています。だからまずは、デフリンピックを生で見られたことに感動したそうです。
「一生記憶に残る素晴らしい大会でした。通訳者としても関われたことがとても嬉しかった。東京開催だったおかげで、いくつかの競技会場で応援もでき、デフ選手の息使いや国を超えての応援の盛り上がりも鮮明に残っています。国際手話、音声英語が多かったことで、改めて国際大会であることを実感しました。オリンピックと同じ記録を競う大会で、選手たちの試合に一喜一憂。技術の進歩により、デフリンピックの始まった100年前にはなかった音声認識ツール、多言語翻訳ツールなど、視覚情報化するコミュニケーション方法は、手話を知らない、聞こえる人と聞こえない・聞こえにくい人をつなぐ有効なツールだと多くの場面で感じました」
真理さんが使えるのは日本手話のみ。これだけでもすごいことなのですが、「国際手話ができれば、もっと多くの選手たちと直接コミュニケーションも取れたのだろうと思いました」と語ります。そして、由美さんも感じたという“教育格差”についても、同様に感じたとのこと。
「ある国の選手が国際手話や手話などで他の選手とコミュニケーションが取れず、プレー中にストレスを感じているようでした。その国の聞こえる通訳者から『地域手話以外わからないので、感情のコントロールが難しい』と話があったとき、ろう教育など誰でも教育を受けることのできる環境がどの国にもあるわけではないこと、教育を受ける権利の大切さを感じました」

「コミュニケーションは『言語』だけでなく、『態度』と『確認』が大切だと実感しています」(由美さん)
“聞こえる”手話通訳者である真理さんは、今回、「ろう文化」を見て感じ、「協働」の意義を理解したそうです。
「選手同士を見ていて、自国以外の人と国際手話など共通の手話などで話をしているとき、お互いにわかり合おうと近寄る姿勢、豊かな表情を見て、音声言語にはない“ろう文化”を感じました。会場において、国際大会における国際手話のできるろう通訳者の存在が大変貴重でした。これからますます、ろう通訳者と聞こえる通訳者の協働が国際大会だけではなく、社会のなかでも増えていくことを期待しています。そして、競技のSDが大会前から状況を理解し、スムーズな運営の工夫をしていたこと、他の選手たちが相手国の文化や環境の違いを汲み取ろうとする姿勢も、スポーツマンシップに則って、フェアで素晴らしいと感じました」
PHOTO/Tsukasa Kobayashi
(次回に続く)


