「ただ、愛されたかった」。PGAツアー復帰戦の1番ティー、“メジャーハンター”として5勝を挙げたブルックス・ケプカの心は、かつてないほど揺れていた。だが彼を待っていたのは「おかえり」の温かい声援。強面の裏に隠された不安と、息子が思い出させてくれたゴルフへの愛。虚勢を張る必要のない安堵と喜びに包まれた帰還初日、その心の内と「楽しさ」の正体に迫る。
画像: PGAツアー復帰戦初日を1オーバーの101位タイで終えたブルックス・ケプカ(写真は25年全米オープン、撮影/岩本芳弘)

PGAツアー復帰戦初日を1オーバーの101位タイで終えたブルックス・ケプカ(写真は25年全米オープン、撮影/岩本芳弘)

太平洋からの冷たい海風が吹き荒れるトーリーパインズ・サウスコース。その1番ティーに立った時、メジャー通算5勝を誇る鉄人、ブルックス・ケプカの胸は、かつてないほど高鳴っていた。

「ああ、間違いなく緊張していた」

試合後、彼はそう認めた。メジャーの優勝争いでも動じない男が、予選ラウンドのスタートで震えていたというのだ。

「なぜ緊張したのか? それは僕が『気にしている(care)』からだ」

PGAツアー復帰戦となる初日、ケプカはラドビッグ・アバーグ、マックス・ホーマと同組で回り、1バーディ・2ボギーの「73」(1オーバー)でホールアウトした。順位は101位タイ。スコアを見れば静かな滑り出し、順位を見ると出遅れた感はあるが、彼がこの日感じたものは、数字よりもはるかに重く、そして温かいものだった。

【動画】ケプカの復帰後初バーディは最終18番!【PGAツアー公式X】

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「疎外感を感じたい人間なんていない」

かつてLIVゴルフへと移籍した際、彼は一部のファンやメディアから激しい批判を浴びた。ヒール役を演じ、敵対心すらエネルギーに変えてきた男だ。しかし、長い不在を経て戻ってきた「家」の玄関を開ける時、不安がなかったと言えば嘘になる。

「正直、どうなるか分からなかった。何かを予期していたわけでもないが、不安がなかったわけじゃない」

だが、コースに足を踏み入れた彼を待っていたのは、ブーイングではなく、「おかえり(Welcome back)」という温かい声援だった。

「誰も追放されたような気分にはなりたくない。ただ愛されたいんだ。それが人間の本性だと思う」

強面で知られるケプカが、ふと漏らした本音。ギャラリーからの「おかえり」の声は、ホールを重ねるごとに彼の心を解きほぐし、落ち着かせていった。

「全ホールでその声を聞いた気がする。最高だったよ」

かつては気に留めなかった他人の評価や視線。しかし、一度外の世界を知ったからこそ、彼は今、自分が温かく迎え入れられることのありがたみを痛感している。

息子が思い出させてくれた「ゴルフへの愛」

なぜ、これほどまでに感情的になったのか。ケプカは「ゴルフに再び恋をした」と表現する。

そのきっかけは、皮肉にも競技から離れていた期間と、自身の家族にあった。

「息子が少しゴルフをするのを見て、彼に自分が良いプレーをしているところを見せたいと思ったんだ。このゲームが僕にどれだけのものを与えてくれたか、どれほど楽しいものかを知ってほしくてね」

14週間という長いオフ。ソファに座って考える時間は十分にあった。そこで彼は、かつて当たり前だと思っていた「競技ゴルフ」への情熱を再確認したのだ。世界最高峰の舞台で、最高の選手たちと競い合うことの意味。それを息子に誇れる父親でありたいという願いが、彼を突き動かしている。

「楽しむ」という境地

「楽しかった」「楽しんでいる」。会見中、彼がこの言葉を繰り返した回数は数え切れない。ゴルフの内容自体は、ドライバーでフェアウェイを捉えきれず、パットも決まらない我慢の展開だったというが、それでも、彼の表情は明るい。

「ボールストライキングは良かった。フェアウェイに行けば良いショットが打てていたからね。ただ、試合勘を取り戻すには少しプレーし続ける必要がある」

PGAツアーのセッティング、そして世界ランク上位が集うフィールド。そのすべてが、今のケプカにとっては「生きている実感」そのものなのだろう。 かつては「メジャー以外は興味がない」と公言して憚らなかった男が、平場の試合の初日で、ただコースにいることを噛み締めている。

「僕は今、この状況を楽しんでいる。世界で僕一人しか経験していないような状況だから説明は難しいけど、本当に楽しんでいるんだ」

一人の「ゴルフを愛する人間」として帰ってきたブルックス・ケプカ。101位タイからのスタートとなったが、この「楽しむ」男が2日目以降どのような巻き返しを見せるのか、注目だ。

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