デフリンピックゴルフ競技には3人の競技委員がいました。その1人として試合を支えた中島和也さん。以前はJGTO(日本ゴルフツアー機構)で競技委員やツアーディレクターもされていました。

プロゴルファーとしての経験も豊富だが、東松苑GC、五浦庭園CCの社長も務める中島和也さん。広い視野でゴルフ界に関わっている
「当初は、競技委員を離れてから年月が経っていたので、迷惑をかけるかもしれないからとお断りしていたんです。その他の競技委員は日本のPGAとLPGAでの現役の競技委員でしたから。でも熱心にお願いされたので、お役に立てるなら、と参加しました」
「障害者ゴルフ」全体で考えると、中島さんが現役プレーヤーだったとき、PGAが主催している身体障害者を中心とした大会「フィランスロピー障がい者ゴルフ大会」には携わったことはあったそうですが、デフゴルフに関しては初めてだったそうです。
「私は特に事前にレクチャーを受けていませんし、もちろん手話を教えてもらったわけでもありません。ただ、PGA出身のチーフレフェリーの方が事前の打ち合わせをしたり、細かいことを認識していらっしゃいました。また基本、プロトーナメントと同じルール、R&AとUSGAの基準に沿って、行われました」
会場となった若洲ゴルフリンクスについては、「実は若洲についてはほとんど知らなかったんです。昔『よみうりオープン』を数年やっていて、一度だけウェイティング選手として練習ラウンドしたことがあるのと、PGAが主催している『フィランスロピー障害者ゴルフ大会』のお手伝いをしたときにコースチェックはしました。ただ今回、以前の印象より面白くなった感じがしましたね。改造もされたんでしょう。バンカーの配置やグリーンの形状も良い方向に変わっていました」。
選手からは「風が強くて難しい」という評価が挙がっていました。
「風の読みが難しいというより、まず単純に風が強いですからね。そしてグリーンが硬い。土壌が硬くなりやすいですから、風が吹くとよりボールが止まらなくなるので、リンクスコース風のプレー、ボールを転がす技術などを使う必要もありますから」
今回の大会では、3人の競技委員でコース内を三分割したうち、中島さんは一番奥側を担当されました。試合を終えて感じた今後の課題を挙げてもらいました。
「『ゴルフだったら長くできるし、皆で一緒にできるのがいい』と選手たちは言っていました。デフの方同士であれば、手話や空気感でコミュニケーションを取りながらゴルフを楽しめる。そこに健常者が入った場合は、やはり難しくなることもあるのかなとは思いますから、コミュニケーションの取り方は1つの課題ですよね」

「耳からくる情報は多い」と中島さん。「風の音」で風の強さや重さなどの、「風切り音」でスウィング修正に役立つ情報を得ている。デフゴルファーはこれらのデメリットを鍛錬で乗り越える
しかし、それ以上に、ルール、エチケット・マナーが必要だと中島さんは言います。
「まず、ルールを理解していない選手がかなりいました。今回、競技委員が3名いましたけど、選手たちが判断を要請してくれれば何とか対応はしましたが、確認せずにそのまま進んでしまった場合、いろいろな問題が起きるだろうなということが容易に想像できる状況でした。たとえば道路(障害物)からの救済を受けなければならないときに、その方法をまったく知らない選手がいた。ルーリングが必要なときは本部に連絡して、そこから手話通訳者が現場に来るという手順だったんですけど、それでは時間がかかりすぎてプレーのペースに問題が出てしまう。だから現場で即、対応しないといけない。『ここだったらここ』ということを僕自身が構えて、ニアレストポイントからワンクラブの範囲にドロップする、ということを身振りなどで伝える必要がありました。でも実はそれは選手自身で認識しておかなければならない範囲のルールだと思います。そういったケースは参加選手全体の3分の1以下のイメージでしょうか」
また、エチケット・マナーについては、「デフゴルファーにとって大切なことは、健聴者ともゴルフをしていくことだと思います。マナーのなかにはプレーのペースも入ります。今回、プレーのペースに問題があった選手も結構いました。大事な課題です」。
デフゴルフ特有の方法として、スロープレーには旗を出して警告したと言います。
「頻繁に出させてもらいました。もちろん音の情報がないぶん、自分の番になっていることに気がつかないこともある。ちょっとしたことで時間が伸びてしまうのはやむを得ない。もともとタイムテーブルも厳しすぎるのではという感じはありました。でも、かなり前が空いてしまった組、1時間くらい遅れていた組もあります。対策は、本人の意識が一番ですけど、技術差による組み合わせを考慮したりすることもできるかもしれません。
障害の有無関係なく、多くのゴルファーが一番嫌うのはプレーのペース。上級者でもプレーが遅い方はたくさんいますしね。ルールの間違いは悪意がなければ許される部分はありますけれど、知らないことにも限度はあります。ですから、この2つは両方取り組んで行かないといけません。技術の習得はもちろんですが、その前にルール、エチケット・マナーをしっかり身に付けること。これは世界共通だと思うんです。
もうひとつ、僕の持論を言わせていただくと、『適当』がいい。プレーが早過ぎるのもエチケット違反かなとも思います。相手に変なプレッシャーをかけますから。技術がないのに変に急ぐと慌てて何度も打つ羽目になり、かえって時間がかかったりします。前後のプレーを見て、適度な間隔を維持すること。行き過ぎるとゴルフの楽しさがなくなってしまいます。あとは安全面。隣のホールに打ち込んでしまったとき、声が届かないから危険回避が難しい。そこは一番気になりますね。こちらは、健聴者と一緒に回るなど、何か考えていくことは必要です」

相手のいいプレーに対してアクションで伝えることは大切だ。「それを一切怠らずにきちんと行っていくことに感動もしましたし、見習うべきところだとも思います」(中島)
ルールやマナー、安全に対して、すべてのゴルファーが自身の意識レベルを底上げしていくことが、結果としてインクルーシブで豊かなゴルフ文化につながっていくのでしょう。(次回に続く)
※デフリンピックの“振り返り”記事は週刊ゴルフダイジェスト2月24日号に掲載しています。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi


