
初日の出遅れもなんのその。最終的に3位タイでフィニッシュしたスコッティ・シェフラー(撮影/岩本芳弘)
初日のラウンド後、世界ランキング1位の男は無言だった。首位と10打差の89位タイ。「73」という屈辱的なスコアを叩いたスコッティ・シェフラーは、メディア対応を拒否し、怒りを押し殺すように練習場へと消えた。
「正直、昨日はゴルフコースで最悪の一日だった」
後にそう振り返るほどの絶望的なスタート。しかし、そこからの72時間で彼が見せたのは、世界No.1だけが持つ、冷徹なまでの修正能力と「底力」だった。終わってみれば通算16アンダーの3位タイ。優勝には届かなかったものの、シェフラーは再びリーダーボードの上位という“定位置”に帰ってきた。
第2ラウンドで見つけた「グリップ」の違和感
初日の不調の原因は何だったのか。第2ラウンドで「65」をマークし、息を吹き返したシェフラーは、その秘密を明かした。
「トーナメント週にいじりすぎるのは好きではないが、グリップに少し修正を加えたんだ」
彼が感じていたのは、クラブと手の「密着度」の欠如だった。
「手がクラブをしっかりと握れていない感覚があった。そこを修正したことで、今日ははるかにボールをうまく打てたし、ゲームをコントロールできている感覚が戻った」
初心者が正しい握り方を覚えるための「練習用グリップ」を愛用するほど、基本中の基本であるグリップに人一倍のこだわりを持つシェフラー。クラブと肉体を繋ぐ唯一の接点であるこの場所を修正しただけで、彼は「迷子」の状態から脱却した。
この日、SG: Total(トータル・ストローク・ゲインド)は「5.287」を記録。初日の「-2.114」から劇的なV字回復を果たした瞬間だった。
タイガー、マキロイに通じる「最大のスキル」
3日目も「67」で回り、上位争いに加わったシェフラーに問いかけた。「調子が良くなくても優勝争いに絡む。それはかつてタイガー・ウッズやローリー・マキロイが語っていたことと同じだが、共感できるか?」と。 シェフラーは深く頷き、自身の強さの核心について語った。
「ここ数年の結果を見れば、僕の最大のスキルは『常にリードの近くに留まり続けること』だと思う。ベストの状態じゃなくても、そこにしがみつく。それが僕が最も誇りに思っていることの一つだ」
調子が良い時に勝つのは当たり前。真の王者は、どん底の状態からでも「負けない位置」まで這い上がる。初日の出遅れを帳消しにする粘り強さこそが、彼を世界ナンバーワンたらしめている所以なのだ。
データが示す「異次元の3日間」
最終日、シェフラーは再び「64」を叩き出し、リーダーボードを駆け上がった。4日間のスタッツを分析すると、初日の大ブレーキと、そこからの修正能力の凄まじさが浮き彫りになる。
【S・シェフラー WMフェニックスOP スタッツ分析】
● 初日(Score: 73)
・ SG: Total:-2.114(89位タイ)
・ SG: Approach to Green:-0.521(80位)
・ SG: Around The Green:-1.901(118位)
● 最終日(Score: 64)
・ SG: Total:5.685(2位タイ)
・ SG: Approach to Green:1.327(15位)
・ SG: Around The Green:1.499(6位)
初日、シェフラーを苦しめた最大の要因は、「アプローチ(グリーン周りのショートゲーム)」だった。SG: Around The Greenはマイナス1.901でフィールド118位。得意のショット(SG: Approach to Green)も不発で、世界一のボールストライカーが精彩を欠いていた。
しかし、グリップを修正した後は別人のようなパフォーマンスを見せた。とくに最終日はショット(SG: Approach 1.327)が復調し、初日に足を引っ張っていたショートゲームのミスも消えた。第2ラウンド以降の3日間で叩いたボギーは、わずかに1つだけだった。
「初日さえもう少しマシだったら、という思いはある。でも、この3日間の戦いぶりには誇りを持っている」
優勝には3打届かなかった。しかし、初日の「2オーバー」から最終的に「16アンダー」まで巻き返した事実は、さすがシェフラーといえるだろう。
グリップの違和感を一夜で修正し、タイガー・ウッズの領域にあるメンタリティで戦い抜いたスコッティ・シェフラー。その背中は、今年もライバルたちにとってあまりに巨大な壁となるだろう。

