「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

ドライバーが飛びすぎて、3番ウッドの出番がない

GD 今年のマスターズは、ローリー・マキロイが連覇という結果になりました。メジャーの結果から最新クラブがどのように評価されているのか、トッププロのセッティングを見るとわかってくる部分があると思います。長谷部さんから見て、今年のマスターズで気がついた点はありますか?

長谷部 シェフラーが2勝、マキロイも連覇ということで、ここ5年で見るとテーラーメイドが4勝しているんですよね。マキロイにしろ、フリートウッドにしろ、「Qi4D」をしっかり使いこなしている点を見ると、単なるクラブの進化というよりは、テーラーメイドのフィッティングのレベルが、他社より図抜けて高いのかなという気がしました。

GD 前作の「Qi35」は巷の評価だと賛否あって、実際プロが使わなかったり、「Qi10」に戻したり、あるいは旧モデルから替えなかったりということもありましたが、「Qi4D」に関しては一歩前進したというふうに見えますか?

長谷部 そう見ていいでしょうね。男女国内ツアーを見ても「Qi4D」使用者が優勝しています。そういう意味ではツアーレベルで高い水準を保っていると言えるんじゃないですかね。

GD 最近だと「コアモデル」を使うプロが増えていますが、マキロイもコアモデルでしたね。

長谷部 フリートウッドは「LS(ロースピンモデル)」でしたけど、もう「LSが本当に必要か」という次元まで来ているのかもしれません。各メーカーともLSモデルをやさしくしようと工夫していますが、今はコアモデルのバリエーションやウェイト調整、特に「Qi4D」は可変度合いを高めていたりもするので、その寛容性にプロも慣れてきた。LSよりも直進性を選んでいるように見えます。
 
実際、マキロイのショットも、言い方は悪いですが「右にすっぽ抜ける」ようなミスが出ていました。一方で、曲がり幅が狭くなったため、逆に思うような曲げ具合ができなくて、飛びすぎてコースを突き抜けてしまうシーンが何度もあったほどです。そういった直進性の高い性能をプロも理解した上で使っているのでしょう。

GD マキロイは36歳になっても飛距離が伸びています。技術なのかフィジカルなのか、あるいはクラブなのか。数モデル前よりも飛ぶ要素が入っているのでしょうか。

長谷部 難しいところですが、「Qi4D」は一見マイナーチェンジのように見えて、実は「熟成されている」という言い方が正しいのかもしれません。基本構造が大きく変わっていなくても、余剰重量を常に追求しているテーラーメイドとしては、「フィッティングでどうにでもなる」という域まで完成度を高めている。
 
数年前の「ステルス」などに比べると、最新モデルはフィッティングによって飛びのレベルが上がっていると言い切っていいと思います。

GD フィッティングの幅が広がり、より個々の状態に寄せていけることが飛距離につながっていると。

長谷部 スウィングの進化に合わせやすくなっている、という言い方がいいでしょうね。プロも常に一定の状態ではないですから。特にPGAツアーは、体力やスウィングの技量を上げ続けないと戦えない。
 
常にトレーニングし、スウィングを調整している中で、その時の状態に合わせた微調整ができるヘッドがあのフィールドでは求められているのだと思います。

GD 大会前にタイトリストが通常よりも早めに「GTS」シリーズをツアー投入してきましたが、その辺の動きはどう見ましたか?

長谷部 詳細を調べる必要がありますが、トップ10にはいなかったかもしれません。キャメロン・ヤングも「GT3」を使っていたと思いますが、まだフィッティングを調整しきれていなかった可能性もあります。彼の場合はTPCソーグラスを「GT3」で勝っていますから、その勢いで来たと思うので、マスターズでは替えづらかったのかもしれません。
 
注目すべきは、「GTS」も可変機能を高めている点です。テーラーメイドほどではないですが、ウェイト調整で重心を変えられるようになっている。やはりツアーの高いレベルでは、その「調整幅」が求められているのでしょう。

GD PGAツアーでいうと、一時期よりも「PING勢」が目立たなくなった印象があります。日本国内だと使用者が多いイメージですが。

長谷部 これは契約の問題もあるので、一概にシェアが性能と直結するわけではありません。ただ、PINGは一貫して「寛容性」を中心としたクラブづくりを続けています。PGAツアーの超トッププロのレベルになると、今の彼らのニーズとPINGの方向性が、たまたま合致する場面が少なかっただけではないでしょうか。

GD 一時期はバッバ・ワトソンなどが目立っていましたよね。

長谷部 彼が強かった時は、PINGの注目度も非常に高かったですね。レフティでピンクのドライバーを使っていたりと目立つ動きもありましたし。その時の印象に比べると、今のツアーでのイメージは若干落ち着いているかもしれません。

GD リー・ウエストウッドなどもいましたし、強い選手がPINGを使っている印象がありましたが、今は契約の関係などで目立っていないと見たほうがいいわけですね。

長谷部 決して性能的に劣っているわけではなく、たまたま今の世界ランク上位に契約選手が少ないということでしょう。

GD そうなると、かつてミケルソンが看板だったキャロウェイも、彼が抜けた後はザンダー・シャウフェレくらいしか象徴的な選手がいなくなり、ツアーからのフィードバックが得にくくなっているのでしょうか。

長谷部 海外メディアの情報によれば、マスターズでキャロウェイの「クアンタム」は13名が使用してキャロウェイ使用者の半数以上が使っていました。2026年の新製品ドライバーとしては最も使われていたんですね。今回、シャウフェレがまだ切り替えていなかったことや、「クアンタム」を使っていたジョン・ラームが低調だったことなど、注目選手の結果が目立たなかっただけのような気もします。

GD セッティングの話で言うと、今回は3番ウッドよりもショートウッド系(高ロフトのウッド)を入れる人が増えた印象です。ドライバーの飛距離とコース全長の兼ね合いもあると思いますが、どうでしょうか。

長谷部 オーガスタはツーオン可能なパー5ホールが多いですが、「ティーショットを飛ばせば、アイアンで狙えるセッティング」とも言えます。グリーンが硬いセッティングであると言われた今年はロブウェッジに入れ替えるだけでなく、ウッドもハイロフト、つまり7番や9番の投入もあったようです。
 
マキロイは3番・5番ウッドという普通のセッティングでしたが、シェフラーは7番、フリートウッドが9番というショートウッドを入れていました。これらのショートウッドは高い球で止めることが容易ですから、ドライバーの飛距離アップに伴う第2打に必要な要素が、高い弾道とスピンで硬いグリーンを攻略することになるとしたら、マスターズだけでなく他のメジャーなどでも通用する組み合わせなんでしょうね。

GD アマチュアが参考にすべき点はありますか?

長谷部 もし3番ウッドをバッグに入れているアマチュアがいるなら、早めにそれを手放して、7番や9番ウッドを検討したほうがいいでしょう。パー5、パー4に関わらず、「グリーンを点で狙えるクラブ」として打ちこなすことを考えたほうがスコアに直結すると思います。

GD プロでも「16.5度(HL)」をドライバーの下に入れるケースが増えています。この動きはどう分析しますか。

長谷部 今のボールは低スピン化が進んでいて、高い打ち出し角が求められますので、よりボールが上がりやすいクラブを選んだりするセッティングに移行していますね。
 
アイアンのロフトが立ってくる動きとは逆行しますが、ウッドに関しては「ハイロフト化」して打ち出しを上げて飛ばす。16.5度のHLやバフィー(4番ウッド)が、ドライバーに次ぐ選択肢として注目されています。これだけのトッププロが選ぶのですから、アマチュアも3番ではなく5番や7番にシフトすべきでしょうね。

GD アマチュアで言えば200ヤード前後を狙うクラブが詰まってきている中で、例えば「ウッドの21度」と「ユーティリティ(UT)の21度」はどう使い分けるべきでしょう?

長谷部 クラブの長さと重心設計が大きく違うので一概には言えませんが、簡単に言えば「UTは低い球でランも稼げる」、「ショートウッドは高い弾道で点で狙える」と割り切ったほうがいいかも知れません。200ヤード前後を打つにしても、弾道が全然違います。グリーンを直接狙いたいのであれば、7番ウッドのほうが圧倒的に有利です。

GD 最近のUTは飛距離重視で「止める」性能が削られているものもありますが、あえて昔のUTやウッドを使い続けるプロもいます。最新の進化と過去のモデルの兼ね合いはどう考えますか。

長谷部 ボールは、我々がプロと全く同じものを使える唯一の道具と言えます。そのボールが「低スピンで飛ばす」トレンドにある以上、どの番手でも打ち出し角を稼がなくてはなりません。昔タイガーが打っていたような「スティンガーショット」を見かけなくなったのも、ボールの性質が関係しています。ですから、意図して高い打ち出しを作れる番手選びが必要です。
 
ウッドのほうが長くて当てにくいと感じるならUTでもいいです。ウッドは左右の曲がり幅が大きくなるリスクもあります。自分の技量と振りやすさで選ぶべきですが、「弾道は高く上がるものが求められている」という時代の流れには抗えないと思います。

GD アイアンに関しては、マスターズのような大会だとマッスルバック(MB)の使用率が一気に上がります。4番だけキャビティにするような構成ですが、アイアンに「飛び」を求めるプロはほとんどいません。

長谷部 とはいえ、一昔前に比べればMBでもロフトは2度ほど立ってきています。ただ、やはりマスターズのようにアンジュレーションが激しく、球を曲げ、スピンコントロールをしなければならない状況では、寛容性が高すぎるアイアンだと操作性が失われてしまう。だからこそトッププロはマッスルバックを常用しますし、それを使いこなす技量がないとあのフィールドでは戦えないということでしょう。

GD 「下の番手のほうがやさしい」という理屈なら、プロがストロングロフトの9番アイアンで、MBの7番と同じ距離を打ってもいいはずですが、そうはなりません。

長谷部 アマチュアは「7番より9番が打ちやすい」と感じますが、それはスウィングのばらつきによるものです。プロはどの番手でも同じ精度で打てる。確率論だけで言えば、ロフトの立った高性能アイアンの方ほう真っすぐ飛ぶかもしれませんが、コースは常に真っすぐではありません。曲げる必要がある場面では、ストロングロフトの直進性の高いアイアンは選択肢に入らないのです。

GD アマチュアは飛距離や直進性を最優先しがちですが、スコアメイキングを考えれば、コントロール性も無視できない要素ですね。

長谷部 インドアやシミュレーションゴルフなら、フラットな状態から打てるので高性能な「飛ぶアイアン」でいいでしょう。しかし実際のコース、特にマスターズの解説でも言われるように、常に足場が傾斜している状況で普通のスウィングができるか。プロでもスウィング調整を強いられる環境で、「真っすぐ飛ばせばいい」というだけのやさしいクラブで4日間戦えるのか。そこには疑問が残りますね。

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