「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で障害者ゴルフの取材記事を執筆してきたベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせ、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は、車椅子ゴルファーについて。

この春のドラマで車椅子ラグビーが題材になり話題になっていますが、障害者ゴルフにも車椅子ゴルファーがいます。今回は、車椅子ゴルファーであり「車椅子カート」の製作者でもある藤田宏(ひろむ)さんとのラウンドの一幕をご紹介します。

1969年生まれの藤田さんは20歳のとき、モトクロスのレースの練習中に脊髄損傷を負いました。

「子どももまだ1歳で明日から仕事はどうしようと……。痛いというようなことより、妙に冷静でした」

その後、車のコーティングなどが仕事となったそうですが、もともと機械をいじるのが大好きな藤田さん。知人に頼まれ、どうしたら速く走れるようになるかを研究しているうちに、レース関係にどっぷりハマっていったと言います。

「自分で車に乗るのは趣味程度だったのに、結局スピード感が好きなんですね。僕はオートマ車にしか乗れないので、マニュアル車(MT)とはハンディがある。でも、どこがハンディかはわかっているので工夫できるんです」

四輪レースで活躍し、日本で初めて車椅子ユーザーとしてB級ライセンスを取得。地区大会では優勝するほどの実力となりました。そんな藤田さんは、44歳のときにゴルフと出合います。

画像: レース仲間から続くゴルフ仲間の伊藤さんと談笑しながら進む藤田さん。「車椅子だから遅い、と思われるのは絶対嫌です」

レース仲間から続くゴルフ仲間の伊藤さんと談笑しながら進む藤田さん。「車椅子だから遅い、と思われるのは絶対嫌です」

「息子と嫁が楽しそうにゴルフをしているので、練習を見に行ったんです。ドライバーを打ってみたら、150ヤードくらい飛びました。軽いものを思い切り振って、バーンと飛ぶ感じが気持ちよくて。次に近くのショートコースに行くため、自分でカートを作りました」

自分で作ってしまうのが藤田さんのすごいところ。高齢者などが使う“シニアカー”を拾い、バッテリーを新品に代え、自分がやりたいように椅子が回るようにしたそうです。

画像: ティーアップは同伴競技者の力を借りる。できること、できないことを伝え合える関係作りと、理解者を得ることが大切なのだ

ティーアップは同伴競技者の力を借りる。できること、できないことを伝え合える関係作りと、理解者を得ることが大切なのだ

ハーフデビュー時のスコアは「55」。

「何て気持ちよくて贅沢な空間だって。こんな広い所を4人だけで回るなんて。芝がダーッとある景色にも感動しました」

日本で障害者ゴルファーの受け入れに難色を示すコースはまだ多く、特に車椅子ゴルファーには風当たりも強いようです。しかし藤田さんは、「自分たちが楽しむ場は自分たちで切り開いていく」という精神で、自分で声をかけたり、周りのプロゴルファーなどの協力を得たりして、現在は岐阜の8コースほどでラウンドできるようになったと言います。

お互いの「理解しよう」という気持ちがあれば、変えられることは多くある。車椅子ゴルファー・藤田宏からの発信なのです。

現在の藤田さんのお気に入りのコース「麗澤瑞浪GC屏風山C」は、地元岐阜にある“本格”9ホールコース。2年前、旧南コースをリニューアルオープンし、おしゃれなクラブハウスを設置してカジュアルにゴルフを楽しめるアメリカンスタイルのコースです。

ここは、女子プロの神谷そらと、妹のひな、ももの“神谷三姉妹”、そして多くのプロゴルファーを輩出した麗澤瑞浪高校の敷地内に1962年に開場した岐阜で2番目に古いゴルフ場。同倶楽部の高原コースの支配人が藤田さんの友人だったことがきっかけで、屏風山コースにも通うようになったそう。

画像: 力強いティーショット。「200ヤードくらいは飛ばしたいんですけど、なかなか」。ライバルは家族。ここにも「車椅子だから」は、ない

力強いティーショット。「200ヤードくらいは飛ばしたいんですけど、なかなか」。ライバルは家族。ここにも「車椅子だから」は、ない

さあ、ラウンドをリポートしましょう。スタート前、「車椅子ゴルファーとラウンドするのは初めてですか? 今日はよろしくお願いします」とニコリと笑う藤田さんです。

今回の同伴競技者は、藤田さんのレース仲間だった伊藤孝男さん(53歳・平均スコア100・ゴルフ歴30年)。現在は藤田さんの“ゴルフ仲間”です。 伊藤さんたちは、同じく同郷の車椅子ゴルファーで、昨年(2025年)イギリスで行われた世界大会「G4Dオープン」にも出場した大村実法さんも交えて、5~6組のコンペを行うこともあるとか。

「周りは皆、2人を盛り上げたいと思っているんです。でも、障害者だからって変にいたわったりはしませんよ。基本は自分でやりたい、何とかしたい人たちですから。何より楽しくプレーすることが大事ですしね!」

とはいえ、ティーアップでは特に人の手を借りねばならない車椅子ゴルファー。藤田さんのティーを刺す位置を、伊藤さんはしっかり理解しています。

「藤田さんのボール位置はヘッドの先のほうで、大村さんは真ん中めです。その日の球筋などを見て位置を変えたりもしますよ。スライスが出ていたら前のほうに置いたりします」

画像: 自分と仲間のため、後進のためにも「プレーファスト」を徹底する藤田さん。「トップスタートなら、4人で1時間30分くらいでは回れます」

自分と仲間のため、後進のためにも「プレーファスト」を徹底する藤田さん。「トップスタートなら、4人で1時間30分くらいでは回れます」

藤田さんの全身を効率よく使って力強く放たれたボールは180ヤード近く飛んでいるでしょうか。実は奥さんと息子さんはもっと飛ぶらしく、「藤田さん、『一緒のティーは嫌やな』とボヤくこともあるんですよ」と伊藤さんの告げ口が……。終始、言いたいことを言い合う2人の姿を見て、絆の深さを感じます。

そして、打ったらすぐに動く。車椅子カートでもまったく遅れを感じさせません。カートにクラブを積んで動くので、ボールがある位置に行ったらすぐに打つ準備もできます。何より会話を楽しみながら回る余裕がありますし、私たちのプレーに必ず「ナイスショット!」「ドンマイ」と声をかけてくれるのです。

「なるべく早いプレーを心がけています。これは自分の周りの車椅子ゴルファーにも徹底するように伝えています」 まさにゴルファーの鑑とも言える藤田さんのゴルフっぷりに、まずは心を奪われるのでした。(次回に続く)

PHOTO/Yasuo Masuda

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