前回に続き、車椅子ゴルファー、藤田宏(ひろむ)さんとのラウンドをお届けします。ゴルフはすべて自分の責任で行う“心”のスポーツだから面白いという藤田さん。プレーファスト自体、“心”にもメリットを与えるそうです。
「フェアウェイからグリーンに上がっていく段階で傾斜やラインを見ておき、グリーンに乗ったらすぐに判断してパッティングを行う。おおよそを先に決めておけばグリーンに乗っても悩まずに打てます」
グリーンでは「グリーンには真っすぐに入っていったんそのまま出る」「ハンドルを切らない」「カップの周りにはなるべく行かない」などを徹底しています。今回一緒にラウンドして、これが単なる目標ではないことがわかりました。実際に自分の番が来たら迷わずすぐに打つ藤田さん。プレーファストでも決して1打を疎かにせず、しっかり寄せて入れてきます。

できること、できないこと、それぞれの思いや意見をぶつけてこそ、お互いの理解が深まります。「車椅子ゴルファーが増えてほしい。マナーが徹底されていれば問題ないと思うのです。新しく入る方にもマナーから。僕たちが楽しむことにもつながりますから」(藤田・伊藤)
「雨が降ってもプレーさせてもらえるときもあります。そんなときは特に、試合でなければグリーンに乗ったら自動的に『2パット』として換算したりもします。そのほうがスコアがいい人もいますよね(笑)。もちろん、僕は平均32パットを目指しますから、自動的に36パットになることはよくないのですけど、それでもグリーンを傷つけないこと、プレーファストと安全確保のほうが大事です」
藤田さんのゴルフは工夫と研究の連続です。
「ゴルフの攻め方はカーレースとも近い。手前のストレートのコーナーでミスしたらスピードが出ません。だからそこは抑えた走り方をする。ゴルフも同じです。ドライバーだけ飛ばせばいいというものでもない。グリーンから逆算することも大事ですしね。クラブでいうとアイアンはひざが邪魔になるので打ちづらいんです。グリップが低い位置になるのでライ角を寝かせるため、自分の工場で削ったりしています」
車椅子カートについても同様。自分のものだけではなく、日本の車椅子ゴルファーのカートも多く作っているのです。
「同じような体の人間が作るほうがハマるのです。僕のものは少しだけシートが立ち上がるように改造しています。するとひざが邪魔にならずに打てる。大村(実法)くんのものはキャディバッグを前に乗せられますし、『ブレーキを強化してほしい』という依頼でローターを加工して付けたりしています。川﨑(賢一)くんもこの前シートを交換してほしいと送ってきましたね。シートが回転して途中で止めたいときに止められるようにしたり、ガタガタしないようにしたり、その人によってアレンジしています。
ヨーロッパの選手が使っている500万円くらいするカートは、馬力もありますしタイヤが乗用カートと同じサイズなので確かに芝は傷めませんが、やり方にもよります。逆に馬力がないほうが、どれだけパワーを全開にしてもゆっくりしか進まないので、いいときもある。タイヤもいろいろと使ってみて、細かい調整はしています。今は中国製のシニアカーで、大きなモーターがあるものを使っているんです」

コース側が車椅子ゴルファーのプレーで最も気にするグリーン上では「ウロウロしない」ことを徹底。「グリーンに乗る前にラインを読む、ハンドルを切らない、真っすぐに運転する、など。周りにも伝えています」
藤田さんが作る車椅子カートのスピードは平均で15km/h程度出せるものに工夫されています。
「人の早歩きが約6㎞/h、乗用カートの平均が約12㎞/hでマックスが約20㎞/h。人に遅れないように一緒にプレーでき、乗用カートに付いていくこともでき、危険が少ないものを作っています。また、乗用カートに遅れない運転技術も習得しているんですよ」
ギアや技術の工夫と同様、車椅子カートにも多くの工夫があるのです。初期制作費は基本、20万円程度。改造は、工賃はもらわず部品代だけでやっているのだとか。
「僕は車のレースもしていたし、機械などをいじることは好き。何でも“やりたがり”ですしね。頼まれたら何でも作りますよ」

すべてにおいて「準備」が大事だという藤田さんの“相棒”を全角度から拝見。「予備バッテリーは僕の車椅子カートには必要不可欠。平坦なコースなら1個でOK。でも急に落ちたりすることもあるので2個は装備しています」
さて、車椅子ゴルフの普及にも一役買っている藤田さん。車椅子ゴルファーをイメージだけでとらえるのではなく、現状をしっかりと見てもらい、話し合うことが大切だと言います。
たとえば名門コースで大会を行うときも、事前にキーパーや支配人の前で実際にプレーし、「これなら足で踏んだ跡と同じ。タイヤの跡も芝が倒れているだけなのでそんなに変化はなく大丈夫ですね」と認めてもらい、大会開催につながっていくのだそうです。
「コンパクションが硬めでスピードを速くしているグリーンは意外と跡は付きにくいです。また、岐阜でいえば8コースくらいは回らせてもらえるようになりました。自分たちでも声をかけますけど、プロの皆さんが口添えしてくれたりして。もっと広げたいと考えています」
これは、“ゴルフ仲間”伊藤孝雄さんにも共通する思いです。
「僕たちも、藤田さんたちがプレーできるゴルフ場は増やしたい。無理矢理認めてもらうのも嫌なのですけれど。でも、時代の流れもあり理解は深まっていますし、僕もいろいろな人脈を使って頑張っています」
素晴らしい仲間がいて、彼らを引き寄せる熱意がある。この春の車椅子ラグビーが題材のドラマ(TBS系日曜劇場『GIFT』)でも、「仲間」と「戦術・戦略」の大切さが物語として描かれています。車椅子ゴルフもまさに同じです。
ラウンドの途中、伊藤さんは藤田さんに関して、「藤田さん、この辺では有名な“やんちゃ”でした。命を失わなくてよかった……。自業自得です。神様が試練をくれたんです。もともと優しいけれど、よりいい人になりました」と何度も仲間としての心からの言葉をくれました。
「10年前から僕たちが無理矢理いろいろなところに連れて行って。最初はボウリングもしましたけど、ボールが重くて投げられない。ゴルフは当初、三輪車でプレーしていて不安定で転んだりしていました。でも、少しずつ改良して今は皆で楽しくプレーできています」
藤田さんのゴルフについて、「レースのときはあがり症だったんですよ。ゴルフでもスタートでは緊張しているみたい。でもいい緊張に変えられている感じです。それに、車に乗っているときも絶対に人のせいにはしなかった。メンテナンスや準備はバッチリしていました」。

海外選手が使う車椅子は高性能だがやはり高額。また、日本で販売するメーカーはない。昨年、イギリスのG4Dオープンに大村実法さんが参戦し、藤田さんの車椅子カートが海を越えた。「オンリーワンだ!」の声も
ラウンド中、常に「先、お願いします!」「先に打ちます」とキビキビと声を掛け合い、楽しそうにプレーする姿を見て、ゴルフの魅力を改めて感じました。
一緒にラウンドした9ホールがあっという間に過ぎました。プレー時間も、取材しながらにも関わらず2時間を切っていました。
ホールアウト後、握手を求めてきた藤田さんは、「車椅子ゴルファーとのラウンド、どうでした?」とニコリ。この笑顔がすべてなのだと思います。
藤田さんとラウンドしたゴルファーは皆きっと、自分のマナーを見直し、ゴルフに向き合う姿勢を見つめ直し、何よりゴルフは楽しいものだということを改めて感じるはずです。
PHOTO/Yasuo Masuda


