
マスターズでも「飛ばないボール」で戦っていたキャメロン・ヤング(撮影/岩本芳弘)
意図せず選んだ「飛ばないボール」の真実
ヤングがこの「飛ばないボール」を手にしたのは、決して飛距離規制を見越したテストや、メーカーからの強制によるものではなかった。公式会見でその経緯を問われた彼は、約2年前にタイトリストが行ったボールテストでの出来事を振り返った。彼はそのボールが将来の規制に適合するかどうかなど全く知らずに、「ただ弾道が気に入ったから『このボールは何?』と尋ねただけだ」と語っている。
実は彼自身、自分が使っているボールが規制適合モデルであることを「つい数週間前まで知らなかった」と明かしている。それを知った時はある意味驚いたそうだが、「同時に、自分がそのボールで上手くプレーできていて快適だという事実は何も変わらなかった」と振り返る。完全な先入観なしでボールを選び、結果を出していたのだ。
多くのゴルファーが「規制後のボールは飛ばなくなる」と危惧するなか、ヤングの言葉は極めて明快で力強い。彼は他社のボールや、自身が以前使用していたボールと比較して、「目立った飛距離のロスは特にない」と断言している。もちろん魔法ではない。彼は「ドライバーを理想の弾道にするために、少しだけスピン量を増やす調整をした。それで完璧にプレーできる範囲に収まっている」と語り、適切なセッティングさえ見つければ飛距離のロスは補えることを自ら証明している。トッププロの圧倒的なヘッドスピードをもってしても飛距離ロスを感じさせないという事実は、ボール規制に対する我々の悲観的な見方を大きく覆すものである。
プロがボールに求める「真の性能」とは

公式会見でボールについて話をするキャメロン・ヤング(写真提供/PGAオブ・アメリカ)
では、なぜヤングは飛距離という要素を最優先しなかったのか。それは、トッププロがボールに求める「真の性能」が飛距離ではないからだ。ヤングがボール選びにおいて遥かに重視したのは、「アイアンやウェッジでのスピンコントロールのしやすさと一貫性」であった。
彼は現代のツアープロたちのギア選びの真髄について、核心を突く言葉を残している。
「飛距離だけを求めてボールを選んでいる選手は一人もいない。皆、アイアンやウェッジのコントロール性など、価値があると感じるものと引き換えに何かを犠牲にしている」
飛距離という「見栄えの良い数字」を手に入れるために、スコアメイクに直結するグリーン周りの繊細なコントロールを犠牲にするプロはいない。ヤングのこの冷徹な自己分析と道具への深い理解こそが、彼を世界トップ3へと押し上げた最大の要因なのだ。
アマチュアへの教訓。飛距離への固執は不要か
全米プロゴルフ選手権の主催であるPGAオブ・アメリカのCEO、テリー・クラーク氏も公式会見で、「私たちはレクリエーショナル・ゴルファー(一般アマチュア)を代弁することに重点を置いており、彼らがゴルフを楽しむことを妨げるような変更は避けたい」と明言している。また、プロとアマチュアでルールや道具を分ける「バイフケーション(bifurcation)」のアイデアについても、「もし何か変更が必要だとしても、我々はバイフケーションには賛成しない」と語っている。
だからこそ、プロであるヤングが適合ボールで結果を出している事実が、我々アマチュアにとって大きな希望(教訓)になる。
飛距離は確かにゴルフの魅力の一つだが、スコアを作る上で最も重要なのは「縦の距離感」と「スピンの安定性」である。ヤングはボールの未来について、メーカーの技術力は高く、規制後も良いボールが作られると全幅の信頼を寄せている。
我々アマチュアも飛距離に固執しすぎる必要はないのかもしれない。規制の足音を恐れる前に、ヤングのように「真の性能」を見極める目を持つことこそが、本当の上達への近道なのだ。




