全米プロゴルフ選手権には、過酷な予選を勝ち抜いた20人の「PGAクラブプロ(普段はレッスンやゴルフ場業務を行うプロ)」が出場枠を得る「Corebridge Financial Team」という独自の伝統がある。2026年、ペンシルベニア州のアロニミンクGCで開催された第108回大会。強風と極限のピン位置が多くのトッププロを苦しめる中、4日間の激闘を戦い抜き、見事クラブプロ最上位である「ロー・クラブプロ」の栄誉に輝いたのが、ベン・カーンであった。

オハイオのGM、普段のゴルフは「週に1回」

カーンの本職は、オハイオ州コロンバス郊外にあるヒッコリーヒルズ・ゴルフクラブのGM(ゼネラルマネジャー)だ。日々クラブ運営に奔走する彼を支えたのが、今回のキャディであり同クラブのメンバー、そしてクラブ会長でもあるランディ・ウェッチェルである。カーンは、「彼がクラブ会長だからこそ、仕事を離れてここに来ることができた」と周囲の温かい協力に感謝している。

GMとしての業務は多忙を極め、普段のゴルフは「メンバーと週に1回ラウンドする目標を立ててやっている」程度だという。そんな中、彼はメンバーと競うときは「プラス6」のハンディでプレーしている。アロニミンクの洗礼を浴びたカーンは、この大会が自身のハンディキャップに与える影響を問われ、「ここのコースレーティングは高いから、今日のラウンドで自分のハンディキャップが完全にデストロイされる(破壊される)だろうけれど、それはそれでいい」とユーモアを交えて語った。

世界のトップに通用した快進撃と至高の日曜日

練習不足の環境でありながら、カーンは一時、並み居るツアープロを差し置いて「フィールド最多のバーディ数」を記録する快進撃を見せた。彼が第2ラウンドで叩き出した「67」というスコアは、2000年以降の全米プロにおいてクラブプロが記録したスコアとしては史上3回しかない大記録であり、そのうちの2回は彼自身が記録したもの(2018年と今回)だ。

第2ラウンドでは、17番(パー3)で218ヤードからコントロールされた4番アイアンを放ち、風に乗せてグリーンを捉えると、35~40フィートのロングパットをねじ込んだ。

画像: 最終日最終ホールのグリーン上のベン・カーンと彼のキャディであるランディ・ウェッチェル

最終日最終ホールのグリーン上のベン・カーンと彼のキャディであるランディ・ウェッチェル

最終日には5番でグリーン奥から60度ウェッジのフェースを開いてチップインバーディ。さらに圧巻だったのは16番ホールだ。深いラフから255ヤードを残したセカンドショットで、彼はキャディに「このラフからなら5番ウッドが低く強い球で抜けそうだ」と伝え、見事にグリーン手前まで運んで約20フィート(約6メートル)のイーグルチャンスにつけてバーディを奪うなど、ツアープロ顔負けのパワーと技術を見せつけた。2018年大会での経験を胸に、「自分がソリッドなプレーをしている時は、この選手たち(ツアープロ)と対等に戦える」と揺るぎない実力を証明してみせたのだ。

最終日は、かつての世界ランク1位ルーク・ドナルドと同組でプレー。カーンは「なんて素晴らしい人だ。日曜日のメジャーで一緒に歩くのは本当に素晴らしいことだと思った」と喜びを語った。

大ギャラリーについて「非常に圧倒されました。観衆からの刺激がものすごく、普段の生活では全く縁のないものなので、本当に楽しかった」と笑いながら素直な驚きを口にし、土曜日の厳しい戦いを乗り越え、日曜日は「ただただ楽しんで、この経験に浸りたかった」と夢の舞台を完走した。

栄光の舞台から「未読メールの山」が待つ日常へ

画像: ロー・クラブプロに輝いたベン・カーン

ロー・クラブプロに輝いたベン・カーン

最高の1週間を終えた「働くプロ」を待っているのは、厳格な現実である。月曜日からは何が待っているのかという問いに対し、カーンはこう答えた。

「メールは一切見ていない。だから数日のうちにメール対応に戻るつもりだ。デスクワークを処理して、メンバーに今後の情報を発信しなければならない」

彼は、自分の留守中にゴルフ業務を切り盛りしてくれたヘッドプロのクリス・ミューズや、コースを守り抜いてくれたスーパーインテンデント(グリーンキーパー)のブライアン・マーティンなど、クラブのスタッフへの感謝を忘れない。

かつては彼もツアープロを夢見て、大学卒業後の数年間はQスクール(予選会)やミニツアーに挑んだ時期があった。しかし「毎週毎週の厳しい戦いはもう自分には合わない。結婚して今のビジネスに入り、自分がしていることにとても満足している」と彼は笑う。

一人のゴルファーとして世界最高峰の舞台で夢を追い、そして翌週からは「働く社会人」としてデスクに向かう。この泥臭くも圧倒的に自立した姿こそ、全米プロゴルフ選手権が長きにわたり愛され続ける理由なのだ。

写真/PGAオブ・アメリカ

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