スウィングの「オーナーシップ」と孤高の調整法
数々の栄光を手にしてきたマキロイだが、彼の強さを支える独自の哲学がある。それは、自身のスウィングに対する強いこだわりだ。公式会見で彼は、「自分のゲームとゴルフスウィングに完全なオーナーシップ(主導権)を持ちたい」「誰かにゲームを委ねたくない」と力強く語った。

公式会見に出席したローリー・マキロイ
現代のツアーでは、プロが常に専属コーチを帯同させてスウィングを微調整するのが一般的だ。しかしマキロイは、不調時に頼るべきは自分自身の感覚であるべきだと考えている。
「調子が悪くなったとき、コーチはコース上で一緒にいてくれるわけではない。自分で自分のパターンを管理する方法を知る必要がある」
自らの感覚を研ぎ澄まし、スウィングの主導権を誰にも渡さない。その職人気質は、メジャー大会における「孤高の調整法」にも表れている。彼は今年の「メモリアルトーナメント by ワークデー」で、メジャー特有の喧騒についてこう苦言を呈している。
「今のメジャー大会は、ロープの内側に『取り巻き』が多すぎるんだ。関係者があふれかえり、進行が信じられないほど遅くなっている。誰もが9ホールをプレーするだけで3時間もかかるという事実を、半ば諦めて受け入れているんだ。だから皆、あちこちから何球もボールを打って時間を潰すしかない」
だからこそ、彼は周囲のサーカス状態に巻き込まれない道を選ぶ。
「朝6時半にティーオフして、他の連中がバックナインを回り始める前の8時半にはハーフを終えるようにしている。とにかく誰よりも前に出ること、それしかないんだ」

火曜の練習ラウンドは一人で……というわけではなく、仲のいいトミー・フリートウッド、ジャスティン・ローズらと回ったマキロイ
自分のペースと感覚を徹底して守り抜く自己調整能力の高さこそが、彼の圧倒的な安定感に繋がっているのだ。
「罠」に満ちた名門コースと忍耐の戦略
圧倒的な飛距離でコースをねじ伏せる攻撃的なイメージが強いマキロイだが、今週のシネコックヒルズでは全く異なるアプローチを見せるつもりだ。全米オープンという過酷な舞台において、彼が最も強調するのは「忍耐」である。
彼がここまで慎重になるのには理由がある。月曜日の段階でグリーンの速さは「11.5フィート」ほどに達しており、マキロイはコースの脅威をこう予測している。
「木曜日は15〜18m/sの突風が予想されている。グリーンがこれ以上速くなると、11番グリーンなどではボールが止まらなくなってしまうから注意が必要だ」
今年のコースセッティングでは、風向き次第で1番や13番などのホールで一気にピン近くまでボールを運ぶことも可能だ。しかし、彼はその甘い誘惑には決して乗らない。
「グリーン近くまで運べる可能性があっても、深いフェスキュー芝に入れるリスクを冒す価値があるのか? このコースは非常に大きな忍耐を要求し、やってはいけないことをやるように誘惑してくる」
彼が導き出した答えは、シンプルかつ堅実だ。
「ボールをグリーンの中央に乗せ、ピンがどこにあろうとそこからパットでコーナーへ寄せる。それは決して悪い戦略ではない」

シネコックヒルズでの全米OPはピンを狙うのではなく、「グリーン中央に乗せることも悪くない」と話すマキロイ
このリスクを徹底して排除する「忍耐」の戦略を精神面で支えているのが、16〜17年にわたり指導を受けているスポーツ心理学者、ボブ・ロテラの存在である。
「彼(ロテラ)は物事を非常にシンプルにし、コースに持っていけるような『一口サイズ』に噛み砕いてくれる。結果に気を取られがちな今週のような試合でも、『これとこれとこれをやれば、結果はついてくる』と、自分がコントロールできることだけに集中させてくれるんだ」
全米オープンという極限のプレッシャーの中で手堅い戦略を貫ける裏には、こうした強固なメンタルコントロールがある。
円熟味を増したスーパースターの戴冠なるか
自らのスウィングを完全に掌握し、コースに潜む甘い罠を冷静に見極める。かつて圧倒的な才能と勢いで世界を席巻した若きスーパースターは今、経験という武器を携え、真に成熟したゴルファーへと進化を遂げた。
コース内の罠だけでなく、コース外の喧騒に対しても、今の彼は「自分がコントロールできること」にのみ集中している。その成熟ぶりは、ニューヨークの熱狂的なファンへの対応にも如実に表れている。
昨年、同州のベスページで開催されたライダーカップでの厳しいヤジを浴びた経験について問われると、彼は完全に達観した大人の余裕を見せた。
「ニューヨークはニューヨークだし、彼らは声を上げるものさ。でもそれは良いことだし、プレーするのに素晴らしい雰囲気だよ。(ヤジが)今の自分の人生を生きるための代償だというなら、僕はそれで構わない」
強風と深いラフが牙を剥くシネコックヒルズで、マキロイは「忍耐」のプレースタイルを最後まで貫き通せるのか。歴史的偉業に挑む円熟の王者が、日曜日の夕方にどんなドラマを見せてくれるのか。我々は今、新たな伝説が誕生する瞬間を心待ちにしている。
写真/USGA
