米国ニューヨーク州にあるシネコックヒルズゴルフクラブ。1891年に開場したこの名門は、19世紀、20世紀、そして21世紀という3つの異なる世紀すべてにおいて全米オープンを開催してきた唯一のコースだ。ゴルフの歴史と歩みを共にしてきたこの威厳ある舞台で、第126回全米オープンが幕を開けようとしている。

広くて「狭い」フェアウェイのパラドックス

今年の大会の行方を最も左右するのは、間違いなく「自然の脅威」だ。選手たちが一様に警戒を強めているのが、海から吹き付ける特有の重い西風である。特に大会初日の木曜日には、最大瞬間風速約15~18m/sという強風がコースを吹き荒れると予想されており、選手たちは初日から極限のサバイバルテストを強いられることになる。

画像: グリーン上のコンディションが気になると話すローリー・マキロイ

グリーン上のコンディションが気になると話すローリー・マキロイ

今年のマスターズ王者であるローリー・マキロイは、この木曜日の突風について「これ以上グリーンが速くなると、11番グリーンなどではボールが止まらなくなってしまうから(USGAは)注意が必要だ」とホールを名指しで警告しており、硬いグリーンと強風が合わさった時の恐怖をリアルに物語っている。

さらに、今年のシネコックヒルズを語る上で欠かせないのが、コースセッティングの妙である。フェアウェイの平均幅は約45ヤードと、全米オープンとしては比較的広く設定されている。しかし、その数字上の広さに騙されてはならない。

画像: フェスキュー芝のラフは伸びており、そこから「グリーンに乗せるのは不可能」とスコッティ・シェフラーは話す

フェスキュー芝のラフは伸びており、そこから「グリーンに乗せるのは不可能」とスコッティ・シェフラーは話す

世界ランク1位のスコッティ・シェフラーは「強いクロスウィンド(横風)と地面の硬さが加われば、見た目よりもはるかに狭くプレーされることになる」と警鐘を鳴らし、マキロイもまたその意見に強く同調する。強風に流され、硬く乾いた傾斜に弾かれたボールは、容易にフェアウェイの枠を越えていく。そしてひとたび深く生い茂るフェスキュー芝のラフに捕まれば、「そこからグリーンに乗せるのは事実上不可能になる」とシェフラーは断言する。

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広いフェアウェイと極小のグリーンが織りなすパラドックスが、選手たちの精度と想像力を極限まで試すことになる。

異例の「プレー中の散水」とマキロイの理解

2018年にシネコックヒルズで開催された全米オープンでは、フィル・ミケルソンが3日目の13番ホールグリーン上で動いているボールを打つなど、グリーンが硬く速くなりすぎたことで物議を醸した歴史がある。

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画像1: Phil Mickelson Hits Moving Ball in 2018 U.S. Open www.youtube.com

Phil Mickelson Hits Moving Ball in 2018 U.S. Open

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その教訓を踏まえ、今年のUSGA(全米ゴルフ協会)は極めて慎重にセッティングのタクトを振るっている。その象徴とも言えるのが、木曜日と金曜日の午前組と午後組の間に「グリーンに水を撒く」という、メジャー大会では極めて異例の措置だ。

この前代未聞の散水計画について、当初選手たちの間には少なからず戸惑いがあった。マキロイも公式会見で「最初に聞いたときの率直な感想は『馬鹿げている。なぜそんなことをするんだ?』というものだった」と明かしている。しかし、USGAから詳細な説明を受けた後、彼の見方は一変した。

画像: 強い風のなか公平にプレーを進めるためには競技中の散水も理解できるとマキロイ

強い風のなか公平にプレーを進めるためには競技中の散水も理解できるとマキロイ

「木曜日の重い強風を考えれば、競技の公平性を保つために理にかなっていると理解できた」とマキロイは語る。午前組がプレーした後に強風によってグリーンが極度に乾燥してしまうと、午後組にとってはボールが止まらないアンフェアな状況に陥りかねない。散水は、その午前と午後のコンディション格差をリセットするための措置だというのだ。

実は、このコースには特異な事情がある。普段プレーしているシネコックヒルズのメンバーたちは、風と乾燥の影響を考慮し、毎日午後2時になるとコースに水を撒いているというのだ。この土地を知り尽くした「地元流」のコース管理を、USGAが競技の公平性(コンペティティブ・インテグリティ)というギリギリのバランスの中で採用した。運営側の苦悩と、「アンフェア」の境界線と対峙するトッププロのリアルなやり取りが、この大会の異質さを生々しく物語っている。

極限のテストを乗り越えるのは誰か

猛威を振るう自然の「風」と、極限の公平性を追求するUSGAの「人工的なセッティング」。2026年の全米オープンは、この二つの巨大な壁に世界最高峰のゴルファーたちが挑む、壮絶な我慢比べとなる。

しかし、この究極のサバイバルを誰よりも待ち望んでいる男たちもいる。2022年王者のマット・フィッツパトリックは会見で、「バーディ合戦のような試合は好きじゃない。誰もが『コースの制御が効かなくなった』と騒ぎ立てるような、ドライで硬いコースになってほしい。強風の中でいかにボールをコントロールするかという忍耐のテストこそが、全米オープンだからだ」と語り、タフなグリーンへの闘志を燃やす。

過酷な環境下でパーを死守し、罠に満ちた18ホールを攻略するためには、圧倒的な技術だけでなく、自然とコースに対する深い理解と忍耐力が不可欠だ。異例の散水までをも味方につけ、3世紀にわたる試練の舞台で王者の称号を手にするのは果たして誰か。週末の熱戦に向け、期待は高まるばかりだ。

写真/USGA


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