
プレスカンファレンスに登壇したUSGA会長のケビン・ハマー(左)、USGACEOのマイク・ワン(中央)、USGAチーフ・チャンピオンシップ・オフィサーのジョン・ボーデンハマー(右)
「2030年一斉導入」への統一と、ツアー側からの“逆提案”
これまでのあらすじを簡単に振り返ろう。飛距離の際限なき増大(今回の会見でも、USGAのチーフ・チャンピオンシップ・オフィサーであるジョン・ボーデンハマーが「プレーヤーの飛距離は以前と比べて6.7ヤード伸びている」と明確なデータを示している)を危惧したUSGAとR&Aは、ボールのテスト条件(ODS)を厳格化し、事実上「ボールを飛ばなくする」ルール改定を推し進めてきた。当初はエリート競技で2028年、一般アマチュアには2030年に導入するという「段階的アプローチ」が提示されていた。
しかし今回の発表で、まずはこの段階的アプローチが撤回され、「2030年1月からの単一導入(一斉導入)」に一本化されることが明言された。業界からのフィードバックを反映した形だ。ここまでは、ある意味で予想された「落としどころ」である。
驚くべきはその先だ。USGA、R&A、PGAツアー、そしてDPワールドツアーが連名で出した「共同声明」には、方針転換とも取れる内容が記されていた。ワンCEOの言葉を借りれば、ツアー側のリーダーや選手諮問委員会(PAC)との話し合いのなかで、次のような懸念が示されたというのだ。
「ODSの変更(ボールのテスト基準変更)だけでは、望むような飛距離抑制の結果が得られないのではないか?」
これまで「ルール変更反対」の姿勢を見せがちだったトッププロやツアー側から、「今の規制案では効果が薄いのではないか」という声が上がったのである。これにはUSGAも驚いたに違いない。
再浮上する「プロ専用ルール(MLR)」の可能性
ワンCEOは会見で、「Collective willingness(共同の意欲)」という言葉を繰り返し使った。
ツアー側が飛距離増の事実を認め、かつ「もっと効果的で、市場全体への混乱が少ない代替案があるのではないか」と歩み寄ってきた。これにより、かつてツアー側の反対で棚上げにせざるを得なかった「過去のアイデア」を再検討するテーブルが、再び用意されたのだ。
その「過去のアイデア」の最右翼であり、記者の質問に対してもワンCEOが含みを持たせて答えたのが、「エリート競技専用のルール(MLR=モデル・ローカル・ルール)の導入」や「競技用ボール(コンペティションボール)の指定」である。
3年前、USGAが「プロだけ飛ばないボールを使わせる」というMLRを提案した際、PGAツアーはこれを明確に拒絶した。ワンCEOも会見で「3年前に、PGAツアーレベルで飛距離に関するMLRが導入されることはないと、かなり単刀直入に言われた」と当時の断絶を明かしている。そのため、USGAは「アマチュアも含めた全ゴルファーのボールを一律で規制する(ODS変更)」という強硬な手段に出ざるを得なかった背景がある。
つまり、「市場を巻き込んだ全体規制」という大鉈を振るおうとしたことで、プロ側が「それならエリート限定の規制を再検討しよう」と歩み寄りを見せたとも取れるのだ。
ゲームの面白さを守るための「真の協力」が始まった
現在の状況を整理するとこうだ。2030年からのボール規制(ODS変更)という選択肢は一旦キープしつつも、それまでの間に「よりシンプルで、より効果的で、よりアマチュアのゴルフ市場に影響を与えない解決策(例えばプロ専用ルールなど)」を、今回の声明を発表した4団体が本気で共同模索する時間が与えられた。
なお、2030年の導入予定を完全に撤回せずテーブルに残した理由について、ワンCEOは「すべての関係者に『緊急性(Urgency)』を持たせるためだ。これはさらに8年もかけるような取り組みではない。緊急性を持って直ちに取り掛かる必要がある」と説明する。ダラダラと議論を引き延ばすのではなく、期限を設けて本気で最適解を導き出そうとする統括団体の強い意志だ。
選手の意識も明らかに変わってきている。ワンCEOは「過去5年間で、今ほど選手たちがこのトピックに興味を持ち、建設的に話し合えたことはなかった」と語り、ここ数日のシネコックヒルズの練習場での生々しいエピソードを嬉しそうに明かした。
「多くの選手たちが私に話しかけてきて、どのようなアプローチ(解決策)があるのかと関心を示してくれた。正直に言って、ここ数年間はこの話題について『結構です(No, thank you)』以上の関心を感じたことはなかったから、とてもエキサイティングだ」

飛距離問題について尋ねられたケプカは「かつてのゴルフとは変わってきている」と話す
ケプカは火曜日の会見で、昨今の飛距離問題について尋ねられ、次のように語っている。
「かつては『まずフェアウェイに置いてから、次の展開を考える』というのがゴルフだった。しかし、いまの若い世代は『どれだけ遠くまで飛ばせるか。ボールは後から見つければいい』というプレースタイルに変わっている。大学を出たばかりの選手たちは皆、純粋なアスリートだよ。身長は193センチ(6フィート4インチ)もあり、長い腕としなやかな長身から放たれる大きなスウィングが、とてつもないパワーを生み出している」
現代のパワーゴルフ。それはそれで魅力的だが、シネコックヒルズのような歴史的コースが持つ「戦略性」が失われつつあるのも事実だ。
共同声明には、「ただ遠くへ飛ばすだけの『一次元的なゲーム』にならないようにし、ショットメイキングの価値を守る」という目的がはっきりと記されている。
この大義名分のもと、対立していた統括団体とプロツアーがようやく同じテーブルについた。2030年に向けたカウントダウンのなか、ゴルフというゲームの根幹を守るための“最適解”探しは、いよいよ核心へと迫っていく。
写真/USGA