2026年6月18日、米国ニューヨーク州のシネコックヒルズゴルフクラブ(7440ヤード・パー70)で開幕した「第126回全米オープン」。初日は早朝から濃霧による2時間の中断を強いられ、その後も最大瞬間風速約16m/sという猛烈な風が吹き荒れる過酷なサバイバルレースの幕開けとなった。そんな荒れ狂う名門コースで、世界中のゴルフファンに強烈なインパクトを与えたのがブライソン・デシャンボーだ。大会初日、彼は強風を切り裂き、なんと「427ヤード」という規格外のビッグドライブを叩き出したのだ。

飛距離だけではない「パインハースト流」の堅実なマネジメント

確かにこの一発には、フェアウェイを横切る道路(カート道ではなく国道!)でボールが跳ねるという「幸運」も味方している。しかし、これを単なるラッキーで片付けることはできない。なぜなら、その幸運を引き寄せるだけの異常なパワーが彼には備わっているからだ。

大会開幕前の月曜日と火曜日にドライビングレンジで計測された「RangeCast」のデータによれば、デシャンボーは月曜日にボール初速190mph(約84.9m/s)を連発して全体の上位を独占し、火曜日にはさらにスピードを上げて出場選手中最速となる「192mph(約85.8m/s)」を記録していた。この狂気的とも言えるパワーの仕上がりがあったからこそ、規格外の飛距離が生まれたと言える。

公式会見でこの驚愕の一打について問われると、彼は「ツアーでの自己最長飛距離だと思う。とても素晴らしいね」と、確かな手応えと自信を覗かせた。

【動画】デシャンボー自身が「ツアーの自己最長」と話す427ヤードショット【全米OP公式X】

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「427ヤード」という圧倒的な数字だけを見れば、彼が自慢のパワーに任せて力でコースをねじ伏せようとしているように思えるかもしれない。しかし、彼が語った戦略は、「規格外の飛ばし屋」というイメージからはかけ離れた、驚くほど緻密で堅実なものだった。

「打てる時はドライバーを打つけれど、ここ(シネコックヒルズ)では本当に戦略的になろうと努めている。それは(2024年に優勝した)パインハーストの時のようにね」

彼が徹底しているのは、メジャーの難セッティングにおける極めて冷静なリスク管理だ。

「グリーンの真ん中を狙って、自分に20フィート(約6メートル)のパットを残す。そのうちのいくつかが入ってくれればいい。そして何より、絶対に自分を悪い場所に置かないことだ」

誰よりも遠くへ飛ばすパワーを持つ男が、全米オープンという極限の舞台においては、誰よりも手堅く「グリーンの真ん中」を狙うマネジメントに徹している。この豪快さと緻密さの強烈なギャップこそが、彼がトッププロの中で異彩を放ち、圧倒的な強さを誇る最大の理由である。

過酷な初日を生き抜いた手応え

濃霧と強風に翻弄され、日没サスペンデッドとなる荒れた初日。デシャンボーは日没のホーンが鳴るまでに16ホールを消化し、スコアを「1アンダー」にまとめて暫定9位タイにつけた。最大瞬間風速約16m/sという、多くの選手がスコアを崩す暴風のなかでアンダーパーを死守しているという事実が、「悪い場所にボールを置かない」という彼の戦略の正しさを完璧に証明している。

プレーを終えたデシャンボーは、自身の現状を冷静に評価している。

「気分はとても良いよ。自分のゴルフゲームはソリッド(強固)な状態にある。今日は(悪い場所にボールを置かないという)目標を上手く達成できたと思う。明日も今日と同じ戦略を続けるだけだ」と、ブレない姿勢を強調した。暫定首位を独走するウィンダム・クラークを5打差で追う好位置。明日もこの緻密な戦略がハマれば、一気に首位を脅かす存在になるだろう。

「チョコミルク」で備える王者の余裕

過酷な環境下でも徹底される堅実なマネジメントと、いざという時に牙を剥く427ヤードの爆発力。心技体すべてが充実している王者は、明日からの激闘に向けて、今夜さぞかしストイックで特別な準備をするのだろう。誰もがそう思った矢先、インタビューの最後に「明日に向けて今夜何か特別な準備をするのか?」と問われたデシャンボーは、こう即答したのだ。

「チョコミルク(Chocolate milk)」

画像: 「特別な準備は?」の問いにルーティンである「チョコミルク(プロテイン入り)」と応えるブライソン・デシャンボー

「特別な準備は?」の問いにルーティンである「チョコミルク(プロテイン入り)」と応えるブライソン・デシャンボー

極限のプレッシャーと緊張感が渦巻くメジャー大会の舞台裏で飛び出した、あまりにも無邪気でユーモラスな一言。常識破りの飛距離と計算し尽くされた緻密な戦略、そして最後はチョコミルクで明日に備えるという愛すべきキャラクター。ブライソン・デシャンボーという男の底知れぬ魅力と余裕に、我々はまたしても心を掴まれずにはいられない。

写真/USGA


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