悪夢の「80」から8年――PWで190ヤードを飛ばした驚愕のイーグル
荒れ狂う風のなか、ローリー・マキロイは初日を1アンダー「69」でまとめ上げる見事なプレーを見せた。前回シネコックヒルズで開催された2018年大会、彼は初日に「80」を叩き、屈辱的な予選落ちを喫している。あの悪夢から8年、メジャーで勝つためのマインドセットとプレースタイルを再構築してきたマキロイは、見違えるようなタフさを身につけていた。

忍耐力をもってコースに挑んだローリー・マキロイ
「今日の条件なら、パー周辺のスコアは良いスコアだ。トーナメントに踏みとどまり、自分を脱落させないための日だった」
彼が徹底したのは、パーで十分と考え、ミスを最小限に抑えるという極限の忍耐力を持ったマネジメントだ。
その我慢が、前半の5番ホール(パー5)で信じられないスーパーショットを生む。ピンまで残り194ヤードのセカンドショット。マキロイが手にしたのは、なんとピッチングウェッジ(PW)だった。
「180ヤードキャリーさせるつもりだったが、結果的にPWで190ヤードキャリーした。それくらい風が強かったんだ」
強烈なフォローの風に乗せたボールはピンから約3.4メートルに。このパットを沈め、見事なイーグルを奪取した。実はこれ、マキロイが全米オープンでプレーした140回目のパー5にして、初めて奪った「パー5での」イーグルである(過去3回のイーグルはすべてパー4)。キャリアを通じてメジャーのタフなパー5に苦しんできた彼が、この強風下で殻を破ったことを数字が証明している。
【動画】マキロイ、イーグルを奪取した5番ホールの全ショット【全米OP公式X】
@usopengolf post on X
x.comさらに、この5番ホールでスコアを伸ばしておくことには大きな意味があった。事実、2018年大会でも初日の5番ホールでは3つのイーグルが出たが、残りの3日間(第2〜第4ラウンド)の合計ではわずか2つしかイーグルが出ていない。風やピン位置がやさしい(受容的である)タイミングで確実にスコアを伸ばしておくことが、シネコックヒルズ攻略の絶対条件であることをこのデータが裏付けている。
世界No.1を苦しめる理不尽――「良いショットが罰せられる」サバイバル
一方で、今大会でタイガー・ウッズに次ぐ歴代3位となる「13大会連続で世界ランク1位としてメジャー選手権に出場」という大記録を継続し、無敵の強さを誇示するスコッティ・シェフラーは、シネコックヒルズの理不尽さに苦しめられていた。

「Good Shot」ではなく「Great Shot」が必要だったと話すスコッティ・シェフラー
初日のスコアは2オーバー「72」。これにより、彼は全米オープンにおいて実に10ラウンド連続でアンダーパーを出せていない(期間中トータル14オーバー)という苦闘を強いられている。
彼を惑わせたのは、USGA(全米ゴルフ協会)が仕掛けたコースセッティングの「裏側」にあった。強風でボールがグリーン上を転がってしまうのを防ぐため、USGAが前夜にグリーンへ「エキストラ・ジュース(散水)」を施したのだろう、とシェフラーは推測する。彼は「硬くて遅い」グリーンを想定していたが、実際のグリーンは彼の想定以上に柔らかく、そして遅かったのだ。
「多くの『良いショット(good shot)』が罰せられる日だった。罰を避けるには『素晴らしいショット(great shot)』が必要だったんだ」
ホールアウト後、彼は疲労感を滲ませた。完璧に打ったはずのショットが、想定外のグリーンの柔らかさと気まぐれな風によって思わぬ方向へ弾かれる。「9番でパーパットを打つ前に『今日を2オーバーで上がれる』と言われたら、喜んで受け入れていたよ」という本人の吐露が、この日の異常な難易度を雄弁に物語っている。
USGAの「罠」に対する2人のアプローチの差
この初日のハイライトは、USGAが強風対策として意図的に作り出した「遅く、柔らかいグリーン」に対し、世界トップ2がいかに異なるアプローチで挑んだかという点にある。
マキロイは、グリーンが打ったボールをピタリと受け止めてくれる状態(レセプティブ)であることを最大限に活かした。風がどれほど強くても、グリーンに落ちればボールが止まると判断した彼は、5番ホールのPWでのセカンドショットのように、強風を利用して高弾道でデッドにピンを狙い撃つ技術を遺憾なく発揮した。風とコースコンディションのパズルを完璧に解き明かしたのだ。
対するシェフラーは、事前の想定とのギャップに苦しんだ。本来の緻密な計算が狂い、「完璧なショットでも手痛いキックを食らう」という理不尽さとの過酷なメンタル戦を強いられた。しかし、不運や逆境に苛立ちを見せつつも、大崩れすることなく「2オーバー」で踏みとどまるあたりは、さすが世界No.1の底力と言える。
週末へ続く、世界最高峰の知恵比べ

全米OP初日は似たような色味のアウターを着たマキロイとシェフラー
キャリアグランドスラムか、同一年メジャー2冠か。歴史的偉業を懸けた世界トップ2の戦いは、まだ最初の18ホールが終わったばかりだ。 そもそもこの2人は、直近に行われた6つのメジャー大会のうち、それぞれ2勝ずつを挙げているという圧倒的な実績を誇る。まさに現代ゴルフ界を二分する2強の直接対決なのだ。
初日を終えて、1アンダーのマキロイは暫定9位タイ、2オーバーのシェフラーは暫定49位タイと順位こそ大きく開いているが、スコアの差は「わずか3打」しかない(暫定首位のウィンダム・クラークとはマキロイが5打差、シェフラーは8打差)。強風のシネコックヒルズにおいて、3打差など1つのホールで簡単にひっくり返る差だ。
初日こそ2オーバーと出遅れたシェフラーだが、決して彼を侮ることはできない。現在、PGAツアーにおいて「76試合連続予選通過」というツアー最長の大記録を継続中であり、どんなに理不尽な状況で出遅れても、確実に修正して週末のサバイバルに生き残る無類の「底力」を持っているからだ。
さらに過去5年間の全米オープンにおいても、実に4度のトップ10入り(21年7位タイ、22年2位タイ、23年3位、25年7位タイ)を果たすなど抜群の成績を残し、「パー4スコア平均(3.88)」と「パーオン率(71.99%)」で全体1位を記録している驚異的な安定感がある。明日以降、コースが乾いて硬くなり、他の選手がスコアを崩し始める週末にこそ、彼の精密機械のようなショット力が真価を発揮するはずだ。
気まぐれに変化するシネコックヒルズを舞台に、最高峰の技術と頭脳が交錯する知恵比べ。日曜の夕暮れに歴史の扉をこじ開けるのは果たしてどちらなのか。ゴルフ史に残る極限のサバイバルは見逃せない。
写真/USGA
