料金箱に小銭を投げてスタート! 英国に実在する「気軽で本格的」な9ホール・リンクスの魅力

ライダーカップの前身とされる歴史的なインターナショナルマッチが1926年に初めて開催された(写真はウェントワースC公式HPから引用)
18ホールのコースをプレーするには、ほぼ1日かかってしまう。家からコースまでの移動時間もプレー時間に組み込まれるからだ。もし家の近く、もしくは車で30分以内の場所に、バンカーやグリーンが本コース並みに造り込まれた9ホールのコースがあり、全長は9ホールながら3600~3700ヤード級だったら、かなり嬉しいはずだ。もちろんプレー料金もリーズナブル。レストランはカフェを兼用していて、近在の人も訪れて食事やコーヒーなどを楽しむことができる。
土地が安価な国では可能性はあるが、日本のように国土が狭い国では法的な制約もあり、実現はかなり難しいと思われる。なぜこのような考えに至ったかと言えば、英国には9ホールのコースが多数存在し、その多くが本格的なリンクスで難易度も高いからだ。
料金は思いのほかリーズナブルで、コースによっては無人営業の場所もある。小さなハウスに規則などが掲示され、素朴な料金箱が設置されているだけ。近在のゴルファーは気軽に訪れ、プレー料金を箱に投げ入れるとスタートホールへと向かう。9ホールだからこそ、早朝や夕暮れなど、ゴルファーの都合の良い時間にフラリとやってくることができるのだ。
日本の場合は「ゴルフ場利用税」が関わるため、プレーヤーはスタート前にフロントで名前を記帳しなければならない。これだけで人件費が必要になってしまう。さらに夏は高温多湿で汗をかくことから、シャワーなどの設備も不可欠だ。英国のように自宅からゴルフシューズを履いたまま訪れ、車のトランクからクラブを取り出してそのままスタートへ向かう、という気軽なスタイルがとれないのが難点だといえる。
かつて、ウェールズのセントデビッズという町に簡素な9ホールのコースを見つけたことがある。小さな小屋は無人で、料金とルールが書かれた張り紙があるだけ。しかし海が一望でき、周囲には牧場や畑といった田園風景が広がり、そこにいるだけで心が解放されるような感覚になった。近在の少年達は、学校から帰るとクラブを担いでプレーにやってくるのだろう。そんな原風景を、ロンドン郊外の名コース、ウェントワースC(ウェストコース1927年開場/ハリー・コルト設計・18H / 7284Y / P72)を訪れた際にも思い出した。
ちなみにウェントワースには、ウェストのほかイースト(1924年開場/ハリー・コルト設計・18H / 6201Y / P68)、エディンバラ(1990年/18H / 7004Y / P72)に加え、1902ヤードの9ホールコースも併設されている。

写真はブキット・パンダワG&CC(ブキット・パンダワG&CC公式HPから引用)
海外のリゾートにも目を向けてみよう。日本人観光客も多いインドネシアのバリ島にある「ブキット・パンダワG&CC(2016年開場・18H / 3025Y / P54)」は、全ホールがパー3のコースだ。高低差があり距離の長いホールや、海風の影響でドライバーを手にするホールもあってかなりタフな造りになっている。
パー3の18ホールを造った理由について、コース側は「忙しい中でも気軽にゴルフを楽しみたい、リゾートに滞在しながら少しだけゴルフをしたい、午前中や午後だけサクッとプレーしたい、という要望に応えた」と説明していた。確かに、通常の18ホールのプレーでは、旅行中の貴重な1日をほぼ費やしてしまう。
ひるがえって日本にも、こうした魅力を持つコースが存在する。大島にある1958年開場(前身の大島ゴルフ倶楽部)の「伊豆大島リゾートGC(9H / 2715Y / P35)」だ。
ハウス横からの打ち下ろしホールでは遠く富士山を眺望でき、島の右端には灯台が見える。伊豆半島方向から吹き付ける風は想像以上に強く、打たれたボールは容赦なく右方向へと流されていく。この程よい高低差と強い海風こそが、このコースの最大の特徴だ。プレーは乗用カートで回れるため疲労感も少なく、快適なラウンドが約束されている。
伊豆大島は、行政区分としては東京都に属する。調布から空路で、あるいは都内の竹芝桟橋や熱海から高速船でアクセスできる。つまり、空と海から気軽に行くことができる「都内のコース」なのだ。
英国のリンクスのように程よい高低差があり、砂丘のマウンドが視界を妨げ、季節や時間によって気まぐれな風が吹き抜ける。こんな条件が身近に揃っていたら、ゴルフというゲームは限りなく面白くなるし、ゴルファーの技量向上も大いに望めるだろう。
次世代の日本のゴルフ界を見据え、生活圏内にこんな本格的なショートコースを誰か造ってくれないだろうか。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中




