「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で障害者ゴルフの取材記事を執筆してきたベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせ、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回はに大会初参加者の参加意図について聞いた。

先日、山梨の小淵沢CCにて行われた「第3回中部障害者オープンゴルフ選手権」(日本障害者ゴルフ協会/DGA主催)。今回は、本大会に初参加したゴルファーたちのお話をご紹介しましょう。

1日目、88でラウンドを終えた田村和久さんは、「まあ、こんなもんかなあ」と言いながらクラブハウスに戻ってきました。

18歳のときにケガで右腕を失った田村さんがゴルフを始めたのは27歳のとき。仕事の招待旅行のゴルフに参加するためだそうです。

「取引先の方に気に入られて、『お前を連れて行きたいからクラブを買って練習してこい』と。『片手でできますか?』と聞くと『下手でもいいんだ。始めないと一緒に行けない』と。それで始めました」

野球、剣道、テニス、サッカーをしていたスポーツマン。上達は早く、仲間内で“遊ぶ程度”に楽しんでいましたが、10年程前、若洲GLで行われている障害者ゴルフの大会、「フィランスロピー障がい者ゴルフ大会」(PGA主催)の存在を知り参戦、「自分としては普通に回ったら順位が下位で……世の中にはすごい人たちがいるなあと、そこから一生懸命練習したんです」

当時は練習場に行けば700球打ったりもしたそう。

「最初は左打ちも考えましたけど振ってみたら球がバラついて。右打ちだとクラブが同じところに戻ってくる。それに、左打ちはクラブの数や練習場の打席が少ないですから。テークバックが大きすぎると安定しないので、そこは気を付けています」

画像: 田村和久さんがゴルフを始めて早30年。左片腕の大きなアークで飛ばす。「工夫は、クラブを短く持ちミート率を上げることです」

田村和久さんがゴルフを始めて早30年。左片腕の大きなアークで飛ばす。「工夫は、クラブを短く持ちミート率を上げることです」

飛距離は240ヤード、ベストスコアは74。

「ベストはたまたまです。今は体力が大事なので、練習での球数は控えていますね」

障害者ゴルフの第一人者、小山田雅人プロから誘われていたこともあり、DGAが開催する大会の存在は知っていましたが、地方での2日間競技などもあり、仕事を休みづらく参加を見合わせていたそうです。しかし昨秋、早期退職をして時間に余裕ができました。

「それで今年は大会に出場してみようと思い、ここにいます。今年はすでに53ラウンドしているんですよ」と笑う田村さん。

「ホームコースは茨城の扶桑CCで、週2くらいやっています。ゴルフ、楽しいですよ。でも月例は自信がなくて1度も出ていません。僕のハンディだとAクラスに入ってしまうので、バックティーからのラウンドになる。Bクラスでレギュラーティーから回りたいんですけど参加できないんです。

それに、マッチプレーを見学させてもらいましたけど、やっぱり皆さんすごいですし、あの中でやるのはなかなか……。でも競技って緊張感があるのもいいですよね。この大会は、若洲の大会よりもっと競技っぽいです。実は、練習ラウンドのスタートホールで、ティーショットを空振りしました。しかも、試合のスタートホールはチョロ。少しは前に飛んでよかったけど、ノミのメンタルだなあと(笑)。でもゴルフは、よかったらまたやりたくなるし、ダメでもまた次!となる。不思議です」

田村さんにはもう1つ目標があります。

「世界ランキングを取りたい。今回、クラス分け担当の方と面談して写真撮影をしました。1つの励みになりますし、周りにも『今、世界ランク何位だ』なんて言えますから。世界大会出場に関しては、もうちょっと頑張らないといけませんね」

2日目は85で回りしっかりスコアアップ。ここから田村さんの新しい挑戦がスタートします。

広島から来た大黒晃一さんは、昨年初めて日本障害者オープンの予選会に出場しましたが、残念ながら通過できず。しかしその予選会で同郷の大原大地さん(上肢障害)と知り合い、ラインで情報交換をして、本大会出場を決めたそうです。

「今日は練習ラウンドのつもりで回りました。昨日“連ラン”できなかったので初見のコースですから。でも、周りの皆さんはいい方々でしたね。試合に関しては、よく“おひとり様ゴルフ”ってありますけど、それよりは緊張感があるなあと思いました」

画像: こちらは左打ちを選択した大黒晃一さん。「片腕で打つと、疲れてくるとどうしてもパフォーマンスが落ちる。そこは気を付けています」

こちらは左打ちを選択した大黒晃一さん。「片腕で打つと、疲れてくるとどうしてもパフォーマンスが落ちる。そこは気を付けています」

生まれてすぐにケガで右腕を欠損した大黒さん、学生時代はテニスをしていました。ゴルフには興味はなかったものの、6年前に周りの勧めで始めました。

「ゴルフを小学生くらいからやっている後輩が教えてくれました。最初の頃は小さい球を追いかけて何が面白いのだろうと。でも当たるようになると楽しくなる。結局ハマって(笑)。左腕1本で右打ちは何度かやったけど力が入らないし方向性が取れないので当たらなくて、左打ちのほうがいいなと。テニスの意識でやれば上手くいくとわかりました」

ラウンド数は年によってムラがあると言いますが、昨年は50ラウンドしたそう。

「旅行で2日連続ラウンドすることなどが重なったので。でも今年はまだ5回目です。メンバーコースはなくて、仲間同士で本当に遊んでいるだけです」

それでも、DGAの試合に出ようと思ったのは、ご自身の仕事に関係していると言います。

「僕は障害福祉の仕事、児童デイサービス、生活介護や在宅介護の会社をしています。今までは自分のこと(仕事)で精いっぱいでしたけど、仕事も人に任せられるようになってきたので、少し表に出ようかと。僕が出ることで、皆さんが面白がってくれたり、子どもたちが『自分もやりたい』と思ってくれたりするといいなと考えているんです」

障害福祉分野への民間企業参入は、2006年に制定された「障害者自立支援法(現在は障害者総合支援法)」などを背景に増加してきました。

「僕がこの仕事を始めて21年になります。自分に必要なことを人にもしてきた感じです。でも、誰かがやらなければいけないことですから」

これまで身をもって障害福祉に携わってきた大黒さんは、障害者ゴルフの世界でも身をもって、普及・促進につなげようとしているのです。

「スナッグゴルフもやりたいのですけど、なかなか室内でできる、広くて危険がない場所がなくて。でも、ゆくゆくはやりたいですね」

ゴルフの目標はスコアというより楽しくやることだと言いますが、「ただ、楽しくやるにはあらかた上手くないと。できれば90前半くらいでは回れるくらいでプレーしたいです。試合も楽しいですよ。いろいろな方と回れますし、さまざまな障害の方がどんなふうに打っているのか、どういう工夫をしてるのかがわかります」

今回の試合では、皆が見ていた最初のティーイングエリアではとても緊張したそう。

「メンタルが弱いので(笑)。でも、そこを過ぎてしまえば何とかなりました。寒くて体が回らなかったわりには、まあまあのスコアでした。これからは基本的に大会には全部出ようと思っています」

大黒さんの姿を見て、ゴルフを始める方が増えると信じています。

髙田寿美さんは、遠くからその立ち振る舞いを見るだけで「アスリートだなあ」と感じる女性です。聞けば、スポーツは水上スキーなどを“バリバリ”やっていたのだとか。ゴルフは2018年に始め、「あの頃は元気過ぎるくらいでした」と言う髙田さんを2年半前に悲劇が襲います。

「手術ミスで神経を切られて、足に麻痺が残ってしまったんです。走れない、自転車にもオートバイにも乗れない、すべてができなくなって、今まで通りの自分がそこにいないジレンマに陥りました。それでゴルフもやめようと思っていました」

画像: 近くで見ると右足のテーピングが痛々しい髙田寿美さん。美しいスウィングで女子の部の“新星”として今後の活躍が期待できます

近くで見ると右足のテーピングが痛々しい髙田寿美さん。美しいスウィングで女子の部の“新星”として今後の活躍が期待できます

しかし、周りのゴルフ仲間は放っておいてはくれませんでした。

「皆スパルタなんです(笑)。退院したその週には予約が入っていて、『足が動かないし無理だ』と言ったのに『リハビリだから』と連れていかれて……」

髙田さんのことを心から思っての行動なのでしょう。仲間は何よりの財産です。

「最初の頃はドライバーも100ヤードしか飛ばなくて嫌になって。少しずつレッスンを受けたり練習したりして、毎週コースに行っては泣いて帰ってきての繰り返しでした。コーチもけっこう厳しくて、バックティーからプレーしてみようなんて言うんですよ」

レギュラーティーからのベストスコア78、200ヤード飛ぶこともあったという髙田さんの“もどかしさ”はかなりのものだったでしょう。しかし、周りの“スパルタ”は、スポーツマンの髙田さんの潜在能力、何よりやる気や気力を引き出すための愛のムチなのでしょう。

そんなとき、障害者ゴルフの存在を知ります。

「周りの皆に言ったら、『そんなところに入らなくても』と言われましたが、自信がなくなっている自分からすると“居場所”がほしかったこともありました」

こうして大会に参加することを決めます。実はこの大会の前週、所属クラブの理事長杯予選に出場するも、「ボロボロで……やっぱり、少しでも自信が持てる場所があればモチベーションも保てるかなと思いました」

大会に参加してみて、「いろんな症状の方がいらっしゃるので一概には言えないのですけど、皆さんゴルフに対してアツい。すごいなあと思いました」

とはいえ、髙田さんも初日82という素晴らしいスコア。初出場者は表彰対象ではありませんが、優勝を狙えるスコアです。

今回も女子の部で優勝した、最近伸び盛りの高校生プレーヤー中島早千香さん(上肢障害)もうかうかしていられません。ライバルがいると燃えるタイプの早千香さん。切磋琢磨できる存在は大事です。

「すごい女性が入ったと、でも会ってお話ししたら、すごくよい方でした」(中島)

「おばちゃんでごめんねと言ったんです。彼女が春に優勝した大会(グリコパラゴルフ選手権)のホームページを見たら、早千香ちゃんのスウィングはすごく綺麗で驚きました。私のスウィングはひどいものですよ。今日はドライバーも曲がって」(髙田)

今はドライバーで飛んで180ヤード、ミスヒットすると150ヤードの飛距離。

「でも、笑っちゃうんですけど、昨年の秋、転んで右足のじん帯を伸ばしたときに飛距離が伸びた。今年の4月には階段から落ちて、同じ場所を伸ばして、また飛距離が伸びた。スウィング中、右足が悪いことをしている、使えないほうがいいのだと気づきました」

画像: 鈴鹿保子さん(軽度障害)とボランティアの今井文子さんと。「2人ともずっと話しかけてくれて。キャディさんも今日デビューの子で真剣にやってくれてよかったです」

鈴鹿保子さん(軽度障害)とボランティアの今井文子さんと。「2人ともずっと話しかけてくれて。キャディさんも今日デビューの子で真剣にやってくれてよかったです」

この“気づき”を持てることこそがスポーツウーマンの証し。

「ティーイングエリアが左足上がりだと右足に体重がかかるから全然ダメになる。ゴルフは飽きないけれどめげますね。でも、スポーツはずっと好き。私は止まっていることができないので、“まぐろ”と言われたり(笑)。座ってテレビを見ることもないですから」

静岡の浜松在住でホームコースはグランディ浜名湖GC浜名湖、ザ・フォレストCC。働く女性でもある髙田さんの練習時間は昼休み。ままならない体でも「もっと頑張りたい」と語ります。

「試合に関しては、会場が遠いと移動で足が痛くなるし、新幹線を使うとなると意外と怖くて、駅などで押されるとそのまま転んだりしてしまう。年齢が年齢なので……。お医者さんには、右足でどこまで維持できるかの勝負だねと言われますけど、歩くことはいいと言ってくれます。『ゴルフをやっていなかったら車椅子だったね』と。そういう意味でも頑張って続けたいとは思っています」

試合に挑戦する理由は人によって違いますが、その挑戦の場を提供できることこそ、大会継続の意義なのだと思います。

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