昭和のゴルファーか、冷徹な戦術家か:封印されたドライバー
クリーンでストイックなアスリートがひしめく現代のツアーにおいて、ブラウンの佇まいはどこか一昔前の「昭和のプロゴルファー」のような泥臭さと愛嬌に満ちている。しかし、タバコをふかす破天荒なビジュアルとは裏腹に、そのゴルフ脳は驚くほど冷静でクレバーだ。
わずかなブレが致命的なトラブルに直結する超高速リンクスを攻略するため、彼は今週、大胆なギア変更を敢行していた。
「今週は3ウッドを抜き、代わりに風に強くてティーショットでコントロールしやすい『ミニドライバー』をバッグに入れているんだ」
さらに初日のラウンドでは徹底したリスク管理を徹底。
「1打目からアグレッシブにいけるホールもあるけれど、僕は特定のバンカーの手前に刻む戦略をとった。今日、初めてドライバーを握ったのは8番ホールだったよ」と語る通り、じっと牙を潜める緻密なマネジメントが、あの難コンディションにおける「66」のビッグスコアを生み出したのだ。
ちなみに初日のベストショットを問われると、「13番の深いラフから完璧に寄せたチップショットかな。まあ、その後の短いパットを外してボギーにしちゃったんだけどね」と笑い飛ばす。どこまでも飾らない、人間味あふれる男なのだ。
ラウンド中のタバコと、親子の奇妙な絆
最先端のスポーツ科学に基づいた栄養管理やメンタルトレーニングが常識となっている現代ゴルフ界にあって、ブラウンのプレッシャー解消法は一味違う。彼は、メジャーのラウンド中にも平然とタバコを嗜むのだ。

年齢は31歳ながらどことなく昭和の香りがするダニエル・ブラウン
公式会見で記者から「ラウンド中に何本くらい吸うのか?」と問われた彼は、「お母さん、ごめんなさい」とチャーミングに前置きした上で、「1ラウンドで7〜8本くらいかな」と悪びれずに告白した。極限のプレッシャーがかかるメジャーの舞台。「ストレスレベルが上がれば上がるほど、本数も増えてしまうんだ」と語る姿は、なんとも人間味にあふれている。
さらに面白いのが、タバコにまつわる親子の奇妙なエピソードだ。
「子供の頃、タバコを吸っていた父に『体に悪いからやめて』と言って禁煙させたのに、大人になったら自分が吸い始めてしまったんだよね」
親の健康を気遣って禁煙させた本人が愛煙家になるという皮肉な展開を、彼は自嘲気味に笑いながら明かしてくれた。
見た目重視のタトゥーと、猛暑の長袖
彼の個性はそれだけにとどまらない。ウェアから覗く腕には「3羽の小鳥」など、約10個の小さなタトゥーが刻まれている。さぞかし深い意味や決意が込められているのかと思いきや、本人の口から出たのは意外な答えだった。
「理由なんて聞かないで(笑)。完全にただの見た目重視(for a look)だよ」
最初のタトゥーを入れたのはわずか3年前。「ちょっとやりすぎちゃったけど、もうこれ以上は入れたくないかな」と、あっけらかんと語る潔さも彼の魅力である。
また、初日の午後は気温が急上昇したにもかかわらず、彼は長袖のウェアを着て涼しい顔でプレーを続けた。記者からその「大胆な行動」を指摘されると、「世界中を飛び回って太陽を追いかけているから、暑さには慣れているんだ」と強気な一面を覗かせた。気まぐれな天候にも、自らのスタイルを貫き通す胆力がそこにある。
18年前のギャラリーから、リーダーボードの頂点へ
実は、彼のこの不敵な自信は、リンクスとの深い縁と確かな実績に裏打ちされている。
今回の全英がまだキャリア20戦目という若きルーキーではあるが、初出場だった2024年の全英オープン(ロイヤルトゥルーン)では堂々の10位タイに食い込んでいるのだ。本戦を前にブラウンは、「あの経験から、自分はメジャーや全英の舞台で十分に戦えるという自信を得た。2年前の自分より、今の自分のほうがずっと良い選手だよ」と豪語してみせた。
そして何より、彼にとってこのロイヤルバークデールは人生の原点でもある。
「僕が子供の頃、初めてナマで観戦に訪れた全英が、18年前(2008年)のここバークデールだったんだ。当時は13〜14歳だったね。その後の全英でも、同世代の少年たちと同じように、僕もタイガー・ウッズの後を必死に追いかけていたよ」と懐かしそうに振り返る。
18年前、憧れのスーパースターを遠くから見つめていた少年が今、タバコをふかしながらリーダーボードの頂点付近を堂々と闊歩している。重圧がさらに増していく週末、彼のタバコの本数がどこまで増えるのかは少し心配だが、この愛すべき異端のルーキーが過酷なリンクスでどのような夢の続きを見せてくれるのか。彼のプレーから、絶対に目が離せない。
写真/R&A提供
