1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在は日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄が、ラウンド中に話題になる「ゴルフの奥深い知識」を綴るコラム。第74回目は、「海沿いにある有名コース=すべてリンクス」というゴルファー共通の思い込みに対し、英国の老舗ゴルフガイド誌の厳密な分類を調べることで判明した、「シーサイドコース」と「リンクス」の意外な境界線と謎について紐解く。

羊飼いの遊びから始まったゴルフの原点と、老舗ガイド本がもたらした「ある違和感」

画像: 羊とバンカー(写真/Getty Images)

羊とバンカー(写真/Getty Images)

ゴルフはスコットランドの海岸に接する不毛の地、つまり「リンクス」で発祥したと言われている。ゴルフの起源として語り継がれているのは、羊飼いが羊を追いながら石ころを杖で打ち遊んだのがゲームのはしりであり、強い風を避けるため砂丘の崩れた部分に身を潜めた場所が「バンカー」になった、という有名なエピソードだ。

筆者はコースを調べる際、英国のゴルフガイド誌として名高い「GOLF COURSE GUIDE TO THE BRITISH ISLES」(1982年4月22日発売※自社調べ)を重宝している。英国の全コースが網羅されており、コース名や住所、開場年、設計者名(著名な場合のみ)から、規模、料金、近隣のホテル案内まで記載された非常に詳細な資料である。

あるとき、マッセルバラのコースについて調べていた際のことだ。海岸に接しているため当然「リンクス」だと思い込んでいたが、本での分類は「シーサイドコース」となっていた。この違和感から「おやっ」と思い、他のコースについても調べてみることにした。

セントアンドリュースも「シーサイド」? 厳密すぎるコース分類

このガイド本では、コースが非常に細かく分類されている。気になって思いつくままに有名コースを調べてみると、驚くべき事実が次々と判明した。

なんと、ゴルフの聖地であるセントアンドリュースすら「リンクス」ではなく「シーサイドコース」に分類されていたのだ。さらに、ロイヤル・トゥルーンやターンベリーも同じくシーサイドコース扱いである。

では、純粋な「リンクス」に分類されているのはどこかというと、思いのほか少なかった。

リンクスに分類される代表例: ミュアフィールド、ロイヤル・セントジョージズ、ロイヤル・ドーノックなどなどなど(当然まだあるが)
その他の細かい分類例: ヒースランド、ムアーランド、パークランド、メドウランド、コモンランド、シーサイドムアーランド、シーサイドダウンランドなど

これまでこれほど細かく分類されていることに気が付かなかったことと、自分を含め世界中の多くのゴルファーが「セントアンドリュース=リンクス」だと信じて疑わなかったことの不思議さに、思わず唸ってしまった。

80年代のセントアンドリュース

川奈ホテルとターンベリーの意外な共通点

ここで日本のコースに目を向けてみよう。静岡県にある川奈ホテルゴルフコースは、海岸に接した崖の上に造られている。したがって、この分類に当てはめればリンクスではなく「シーサイドコース」となる。つまり、海岸線の崖上にあるスコットランドのターンベリーと同じカテゴリーというわけだ。

ついでに一つのエピソードを紹介したい。以前、スコットランド出身の著名なゴルフ写真家、マシュー・ハリス氏を川奈にアテンドした時のことだ。彼は富士コースから見える三角錐のシルエットをした伊豆諸島の利島(としま)を指差して、こう叫んだ。

「ターンベリーから見えるアイルサ島と同じだ! 全く同じ景観じゃないか!」

画像: ターンベリーとアイルサ島

ターンベリーとアイルサ島

私自身もターンベリーを訪れた経験があったが、彼に言われるまでその類似性に全く気が付かなかった。非常に興味深い発見であった。

リンクスの定義とは? 名門コースも覆る分類の謎

閑話休題。

今まで「当然リンクスだろう」と思い込んでいた名門コースの多くが、実はリンクスではないことが分かった。では、真のリンクスとは一体どんなコースなのか? 何が決定的に違うのか? と様々な疑問が湧いてくる。

「ここなら間違いなくリンクスだろう」と思われるコースをさらに検索してみた。例えば、誰もがリンクスを代表するコースの一つとして認識しており、「レダンホール」で名高いノースベリックだ。しかし、ここもやはり「シーサイドコース」に分類されていた。

画像: リンクスを代表するコースのひとつとして認識されているノースベリック(写真/岩井基剛)

リンクスを代表するコースのひとつとして認識されているノースベリック(写真/岩井基剛)

意地になってもう1コース調べた。イングランドのロイヤル・ウエスト・ノーフォークである。このコースは波打ち際に近く、満潮時には海に隠れてしまうような立地にある。クラブハウスまでの進入路すら、まるで冠水した道路のようになってしまうほどだ。「さすがにここはリンクスに違いない」と確信してページを開いたが、結果はやはり「シーサイドコース」だった。

英国の老舗ガイドが定義する「真のリンクス」の境界線。それは我々が想像する以上に、はるかに厳格でミステリアスなもののようだ。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中。

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